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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第二章 「ゴールデンクロス」

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第10話 「廃棄姫」

 ギルドの受付を出て、奥へと進む。豪華な装飾のあるギルドのホールとは対照的に、質素で物悲しい雰囲気だ。


 古びた木製の扉が並ぶ廊下を抜けた先の小さな応接室があった。簡素な家具でまとめられ、壁には薄暗い光を放つ魔導灯が掛けられている。


「お待ちください。ルミナス様をお呼びします」


 受付の女性が静かに扉を閉めると、部屋には俺ひとりが残された。ほんのわずかな時間だったが、その沈黙は妙に重かった。


 しばらくして、扉の向こうからかすかな足音が聞こえた。


 遠慮がちに開かれた扉の隙間から現れたのは、一人の少女だった。プラチナブロンズの髪が、室内の魔導灯の光を柔らかく反射する。金色の瞳はどこか伏し目がちで、まるで視線を合わせることを恐れるかのようだった。


 身体は小柄で、華奢な印象を受ける。


「……はじめまして…アイラシア・ルミナスと申します…」


 か細い声が響いた。それはどこか怯えたようで、同時に諦めにも似た響きを含んでいた。俺は軽く頷き、穏やかな口調を意識して切り出した。


「アルヴィオ・アディスだ。今日は、取引魔法士の契約について話をしに来た」


 その言葉に、アイラシアさんの肩がわずかに震えた。驚きと警戒が入り混じった表情を浮かべる。


「取引……魔法士……?」


 アイラシアさんの声は控えめで、どこか怯えがちだった。


「そうだ。俺は取引所で投資をする予定だ。ただ、俺は魔法を使えない。だから、取引のためにパートナーとなる魔法士が必要なんだ」


 アイラシアさんは唇を噛みしめた。小さな手が裾をぎゅっと握りしめているのが見える。


 無理もない。ここまでの空気から察するに、アイラシアさんはこのギルドでまともに扱われていないのだろう。


「……わたしで、いいんですか?」


 不安げに問いかける声に、俺は少し考えてから言葉を選んだ。


「俺には魔法が使えない。だからこそ、魔法士の力が必要なんだ。いやアイラシアさんの力が必要なんだ」


 アイラシアさんはしばらく黙っていたが、やがて小さく唇を噛んだ。


「でも……わたし、まともな魔法士じゃありません……わたしがなんて呼ばれているか知っていますか?」


――廃棄姫。


 アイラシアさんの言葉には、自嘲がにじんでいた。それがどれほどアイラシアさんの心をむしばんできたのか、想像に(かた)くない。


 しかし、俺にとってはそんなことはどうでもよかった。


「他人の評価なんて関係ない。それは俺が判断することだ」


 アイラシアさんは目を見開き、まるで信じられないものを見るように俺を見つめた。誰もがアイラシアさんを否定してきたのだろう。俺はまっすぐにアイラシアさんを見据えた。吸い込まれそうになる金色の瞳を見ていると、言語化できない不思議な何かを感じた。


 まだ確信があるわけじゃない。だが、直感が(ささや)く。


――この手を掴まなければいけない、と。


「でも、わたし……」


 まだ躊躇しているアイラシアさんを前に、俺は淡々と続けた。


「契約金はどれくらいだ?」


 アイラシアさんはハッとしたように視線をさまよわせた。


「えっと……あまり考えたことがなくて……」


 どうやら、まともに契約の話をしたことすらないらしい。


「以前…、とある冒険者のパーティーとご一緒したことがあります…」


「……」


「その時は…一応500ディムの報酬を頂きました」


 なにかに怯えているような様子で口にした。その時、受付の女性が、気まずい表情をしていたことが妙に印象に残った。それにしても、先ほどのリストの値段からすると異常なほど格安だ。いくら安くてもその10倍ほどは覚悟していた。


「よし、その4倍出す。2000ディムだ」


 他の魔法士に比べるとはるかに少ない金額だ。アイラシアさんは驚いた表情を見せる。


「足りないか?」


「いえ…そんなことはないんです…でも、本当にわたしなんかでいいんですか?」


「もちろんだ」


 しばしの沈黙の後、アイラシアさんは小さく、だが確かに頷いた。


「……契約、させてください」


 その声は弱々しかったが、かすかな決意が宿っていた。アイラシアさんの手が震えているのが分かる。これまで誰にも認められなかったアイラシアさんにとって、これは大きな決断だったのだろう。


 アイラシアさんがどんな能力を持っているのかは分からない。だが、この出会いが俺たちにとっての転機となることを信じて、俺はアイラシアさんに手を差し出した。


「よろしく頼む、アイラシアさん」


「よろしくお願いします。アルヴィオ様」


 アイラシアさんはそう言うと、俺の手を取ってくれた。


 その手は小さく、少し震えていた。


「……わたしのことは、アイラでいいです……」


「……了解だ、よろしくアイラ。俺のことはアルでいい」


「はい、わかりました。アルさん」


 俺は頷き、契約手続きを進めた。


 こうして、俺とアイラは出会った。


 ただの村人Aだった俺と『廃棄姫』と言われた少女は、取引所の喧騒へと歩き出した。

読んでくださりありがとうございます!

10話(13エピソード目)にしてやっとメインヒロインのアイラシアを登場させることができました。(遅い!)

世界観が独特なのでその構築をするのにかなり尺を使ってしまいましたが、ここから2人のリアディスでの戦いが始まります。是非、これからもお付き合いください。


ブクマ・感想・評価などいただけるととても励みになります!

よろしくお願いいたします。

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