Short Stories 3 「新商品開発会議Ⅱ」
昼下がりのセレスティア商会の厨房。
ヒカリが袖をまくり、勢いよく包丁を握った。
「よーし! 今日こそ新作スナック、完成させます!」
「……また何かするのね、ヒカリ」
フィリアは隣で腕を組む。
「今日は……フレイジアチップスを作ります!」
「フレイジアって……? 普通に蒸しても焼いても美味しいじゃない」
フィリアは首をかしげる。
「そうですけど! スナックにしても美味しいはずなんです!」
ヒカリの脳内ではジャガイモが想像されていた。
そこへイオナがのぞき込む。
「たしかに、フレイジアは糖質も多いし、油との相性も良いからね。理論上はおいしいスナックはできるはずだよ。僕も興味ある」
「ですよね!?」
ヒカリは胸を張って、フレイジア球根を薄くスライスし始めた。
みずみずしい断面から、甘い香りが広がる。
「この香り、熱するともっと良くなるんですよ」
熱した油にスライスを投入。
じゅわああっ!
三人は思わず息を呑む。
「音からして勝った気がします!」
ヒカリが満面の笑み。
火加減を見て、ひっくり返すと――
薄い金色に変わり、端がカリッと持ち上がる。
「色、最高……ですわ」
フィリアの目が細くなる。
「フレイジアは元から旨味成分があるからね。揚げると香ばしさが増すんだよ」
イオナが学者口調でうなずく。
取り出して塩をぱらり。
ヒカリは震える手で一枚つまんだ。
「じゃ……実食っ!」
ぱりっ。
「…………っ! 美味しい!」
ヒカリの瞳が一瞬で星になる。
続けてイオナも一枚。
「うん、これは……普通に売れる味だね。甘味と香りが引き立ってる」
「わたくしもいただきますわ」
フィリアがつまむ。
ぱりっ。
「……うまい!!ですわ……どこか負けた気がする味ですけど、美味しいですわ」
「やった!」
ヒカリはその場でぴょんと跳ねた。
「これ、屋台で売ったら絶対売れるよ」
イオナが尾をぱたぱたさせながら分析する。
「そうね。この味なら間違いないですわ!」
フィリアが顎に手を当てた。
「じゃあ名前は……そのまま!」
ヒカリは勢いよく宣言する。
「フレイジアチップス!」
「そのままですわね……でも覚えやすくていいんじゃないかしら?」
フィリアが苦笑する。
「それに、フレイジアの色と香りが残るのは強みだよ。投資家の軽食にもぴったりだし、相場が荒れた日なんて、需要が跳ね上がるんじゃない?」
「よーし、じゃんじゃん揚げます! 新名物誕生です!」
「ちょっと、油は節約してくださいませ……!」
フィリアの声が厨房に響き、三人の笑い声が重なった。
こうして――商会の大人気商品・フレイジアチップスは生まれた。
のちにこのチップスが、小麦暴落相場の日にとんでもない効果を発揮することを――この三人はまだ知らない。
次回の更新は、一日お休みを頂いて11月22日(土)午後の予定です。




