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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第九章 「リヴァージョン」

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第80話 「ヘッドライン」

 瞬間、取引所のざわめきが止まった。


『速報:フレイジア球根、食用可能な加工手法を確立。――アリスタル学術院所属のイオナ・セイラン女史が発表』


 その一文が表示された刹那、空間全体が凍りついたように静まり返った。


「……なんだって?」


「フレイジアが……食べられる?」


 誰かがつぶやく。


 次の瞬間には、投資家たちの間に信じられないというざわめきが広がっていた。


 俺はスクリーンを見上げたまま、息をひとつ吐いた。


「――きたか」


 口の中で小さくそう呟く。


 あのときの記憶が甦る。


 リアディスに来たばかりの頃。


 イオナが耳元で(ささや)いた秘密の一文。


『フレイジア球根はね……おいしく食べられるんだよ』


 あの時の言葉が、今、現実のニュースとして世界を動かそうとしている。


<アルさん……これ>


<ああ。間違いない>


 リアディス経済新聞――あの二人が、うまくやってくれた。


 タイミングは完璧だった。


 だが、市場はすぐには反応しなかった。


 投資家たちは顔を見合わせ、理解できないといった様子だ。


「食べられる? だからなんだ?」

「フレイジアって、魔法植物だろ?」

「食えるようになったって……どうせまずいに決まっている」

「小麦とは別物だ」


 誰も動こうとはしなかった。


 それも当然だ。


 フレイジア球根が「食べられる」と言われても、今すぐ相場にどう関係するのか理解できる者は少ない。


 魔力植物が食材になるなど、常識外の話だったからだ。


<……反応が鈍いですね>


 アイラの念話が届く。


<ああ。最初はそうなる。だが――>


 俺は、アルカナプレート取り出し、小麦の値動きを確認する。


<さらに売る。全力だ>


<えっ!? 今ですか?>


<今だ。群衆が戸惑ってるうちに“印象”を刻む。ニュースの意味を市場が理解する前に、流れを作る>


<わかりました。行きます。10万でいいですか?>


<たのむ、アイラ>


 淡い光が広がり、売りの魔法陣が発動する。


 チャートがわずかに震える。


「おい……誰だ、売ってるのは」


 叫び声が上がる。


 それでも俺はアイラに指示を送り続ける。


――11.44ディム。


――11.41ディム。


――11.37ディム。


 微細な値の揺れが、やがて波となって伝わる。


 市場全体がわずかにざわつき始めた。


<アルさん、少し下がりました。でも、まだ買い支えが強いです>


<当然だ。まだ()()()()()()


<見えていない……?>


 ティタニアが問う。声には興奮と警戒が入り混じっていた。


<フレイジアが食べられるということは、小麦の代替が現れたということだ。しかもフレイジアは、在庫が大量に余ってる>


<なるほど……でも、みんなそこまでは考えていませんね>


 アイラも会話に加わる。


<つまり、食べ物が増えるってことね。供給が増えれば、価値は落ちる……単純な理屈だわ>


 ティタニアが息を吐く。


<だからこそ、俺が動く>


<アイラさらに追加だ>


 俺は、アイラに言って追加の売りを入れた。


――11.19ディム。


 同時に、強烈な買い注文が叩き込まれた。


「下がるわけがねえ! フレイジアなんて魔法植物だぞ!」


「代替にならない! 小麦は小麦だ!」


 投資家たちは必死に魔法陣を展開し、価格を支える。


 板の上では、売りと買いがぶつかり合う。


 トークンコアには、無数のオーダーフォームが流れていく。


 リックが駆け寄ってくる。


「アル! あいつら本気で買い支えてるぞ! また強烈な反発が来る!」


「……いいさ」


「いいって……!」


「午後まで持たせればいい。昼で状況は変わる」


 リックが目を丸くした。


「昼……? 何か仕掛けているのか?」


「まあ見てろ」


 俺はそうだけ言って、再び視線をプレートに戻した。


 やがて取引所の鐘が鳴り、午前の取引が終了する。

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