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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第八章 「ディセンディング・トライアングル」

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第76話 「契約の力」

 取引を終え、俺たちはセレスティア商会へ戻ってきた。


 扉を開けると、すぐにラウラが駆け寄ってきた。


「ひめっ!ティタニア様! お怪我などは……?」


「心配性ね、ラウラ」


「ティタニア様……」


「大丈夫よ。本当に。ただ――面白かったわ」


 ティタニアは、そう言って魔法薬で桃色に変色した髪を跳ね上げる。


 その一言に、ラウラは少しだけ安堵の息を漏らした。


「ラウラ、そんなことよりあなたの仕事をしっかりやりなさい」


「はい、わかりました。ティタニア様」


 ラウラはそう言って事務仕事に戻っていった。


 俺たちは二階の取引部へ上がる。


 フィリアとエルヴィナが外出しており、部屋には、俺とアイラ、ティタニアの三人だけ。


 静かな空気の中、ティタニアが椅子に腰を下ろし、両手を膝に置いて呟いた。


「……アイラの取引魔法、尋常じゃないわね」


「え?」


「起動の速さよ。普通なら、起動から発現までに一瞬の溜めが必要になるはず。でもアイラの魔法にはそれがない。まるで――流れるように、魔力が形を変えていくの」


 アイラは照れくさそうに笑った。


「わたし、そんなことないですよ。ただ、少し練習してるだけで……」


「少し、ね」


 ティタニアは小さく首を傾げると、俺の方を見た。


「それに……見ているうちに、少し違和感を覚えたの。魔力の流れそのものが、自然じゃないのよ。外部から()()()()()ような感覚」


 その言葉に、俺は心の中で小さく息を呑んだ。


 さすが王族の魔法士――感覚が鋭い。


――契約者である以上、隠す理由はない。


 俺は少し考えたあと、口を開いた。


「……ティタニア、その感覚は正しい」


「え?」


 少し間を置き、ティタニアを見据える。


「俺には、少し変わった能力がある。俺は、()()()使()()()()。だが……魔力を買うことができる」


 ティタニアが目を細めた。


 言葉の意味をすぐに理解したようだった。


「……お金で、魔力を?」


「ああ。トークンコアからお金で魔力を買う感覚だ。アルカナプレートを通して、ディムを魔力に変換できるんだ」


 アイラが静かに頷く。


「わたしは、トークンコアの契約でアルさんと魔力的に“つながってる”んです。アルさんが買った魔力を、使わせてもらってます。わたしの魔力炉はもう使い物にならないですから」


 ティタニアは沈黙したまま、ゆっくりと視線を落とした。


 しばらくして、低い声でつぶやく。


「……つまり、アイラの魔力は、あなたの“資金”に依存しているということね」


「そういうことになる。そしてトークンコア曰く、ティタニアにもアイラと同様の魔力回路を刻んだそうだ」


 俺はアルカナプレートを起動し、表示を切り替えた。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

残高:3,592,765ディム


【アイラシア・ルミナス】

魔力購入枠:3,592,765ディム(最大値3,592,765ディム)

魔法1回当たりの出力上限:2,048ディム(最大値8,096ディム)


【ティタニア・アズーリア】

魔力購入枠:0ディム(最大値3,534,033ディム)

魔法1回当たりの出力上限:256ディム(最大値1,024ディム)

◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


「ティタニアの枠も、すでに設定されてる。試してみるか?」


「……いいの?」


「ああ、契約者だからな。実際に確かめた方が早い」


 俺は、アルカナプレートを操作してティタニアの魔力購入枠を設定する。



◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

残高:3,592,765ディム


【アイラシア・ルミナス】

魔力購入枠:3,582,765ディム(最大値3,592,765ディム)

魔法1回当たりの出力上限:2,048ディム(最大値8,096ディム)


【ティタニア・アズーリア】

魔力購入枠:10,000ディム(最大値3,592,765ディム)

魔法1回当たりの出力上限:256ディム(最大値1,024ディム)

◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


 ティタニアは立ち上がると、掌をゆっくりと前に出した。


 淡い光の粒が空気に溶けるように集まり、指先に青白い魔力の輪を作る。


 その瞬間――部屋の空気が一変した。


 光は瞬く間に形を変え、小さな氷の槍を生み出す。


 残高がわずかに減る。


-13ディム。


◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆

残高:3,592,752ディム


【アイラシア・ルミナス】

魔力購入枠:3,582,765ディム(最大値3,592,752ディム)

魔法1回当たりの出力上限:2,048ディム(最大値8,096ディム)


【ティタニア・アズーリア】

魔力購入枠:9,987ディム(最大値3,592,752ディム)

魔法1回当たりの出力上限:256ディム(最大値1,024ディム)

◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆━◆◇◆


「……これが、ディムを魔力に変えた力……」


 ティタニアは氷の槍を見つめながら、小さく息を漏らした。


 魔力を解放すると、槍は霧散した。


 ティタニアはゆっくりと手を下ろし、俺の方を向いた。


「……なるほど。魔力石を補助で使った時の感覚に近いわね」


 その目の奥に、一瞬だけ鋭さが宿る。


 野心か、それとも純粋な探究心か――判別はつかない。


「上限がない、ってことよね。あなたの契約者は、資金がある限り、無限に魔力を補える」


「理屈の上ではな。ただ、大量の魔力を流した場合の人体への影響は未知数だ」


 実際は、トークンコアが魔法士ごとに最大値を設けている。その範囲内なら安全とみていいだろう。


「未知数、ね……」


 ティタニアはその言葉を反芻するように呟いた。


「……この力が、あれば」


 その先を言いかけて、言葉を飲み込んだように見えた。


「……ティタニア?」


 俺が呼びかけると、ティタニアはすぐに微笑んだ。


「いいえ、なんでもないわ。少し、考えていただけ」


 その声は柔らかかった。


 アイラが控えめに口を開く。


「ティタニアさん……少し休まれたほうがいいですよ。初めての経験の後って、知らないうちに疲れが出るんです」


「そうね。ありがとう、アイラ」


 ティタニアは優しく笑みを浮かべた。


 その横顔を見ながら、俺はアルカナプレートを閉じた。


「アルさん、今日はこれでおしまいにしますか?」


 アイラの声に、俺は小さく頷いた。


「そうだな。今日のところはここまでにしておこう」


 窓の外では、夕暮れの光が街を黄金色に染めていた。


 俺は荷物を手に取る。


「少し、外出してくる」


「どこへ行くんですか?」


「打ち合わせだ。ミラが手配してくれた。リアディス経済新聞の記者たちと会うことになっている」


「記者さん……ですか?」


「ああ。セリナと、もう一人ダリルって男だ」


 アイラが不安げに眉を寄せる。


「危ない話じゃないですよね?」


「まさか。ただ、少し話しておくべきことがある」


 ティタニアが静かに言葉を挟む。


「……気をつけてね、アルヴィオ」


「わかってる。すぐ戻る」


 そう言って、俺は夕陽の差す部屋を後にした。

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