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田舎の邸宅は広い。別館は本館から50メルテは離れている。
今朝は採りたての野菜を持って一人で別館に向かう。
私は庶民の設定だから侍女はいない。
入り口もわざと裏口から入る。
「こんにちは、若君に差し入れです」
大きな声であいさつすれば目当ての青年にも届いたようだ。
すぐに姿を現す。
「やあよく来てくれた、お茶を飲んで行かないかい」
それくらいならと席に着く。
メイドたちだが、執事さんに頼んで私の正体は口止めしてもらっている。
抜かりはない。
「昨日は夕飯に君の作った野菜を食べた。とてもおいしくてびっくりしたよ」
「喜んでもらって何よりです。お好きな野菜はありますか?」
「う~ん、正直言って野菜はみんな好きじゃなかったんだ。君のが特別なんだよ」
「ふふ、では他にも収穫できたら持ってまいります」
「そうしてくれ。ところで‥公爵家の扱いはどうかな?」
まじめに問いかけてくる。
貴族の家で働く庶民を心配しているのだろう。
「このお屋敷はとても心地よいですわ。以前の職場は大変だったので助かっています」
まあ災害対策がきつすぎただけで、普段であれば神殿もそこまで大変じゃないけどね。
「それは良かった。お爺様は気難しくてね、顔を合わせると公爵家の仕事を手伝えってうるさいんだ。休暇中はゆっくりしたいのに」
どうもそっちが別館暮らしの本音らしい。
「リチャード様は公爵家を継がないのですか?」
孫にかまってもらえない祖父に、少し同情をしてしまう。
「家は兄が継ぐよ。僕はただのスペアだ」
なるほど。
「本館には聖女様もいるんだろう? 堅苦しくないかい?」
おや私のことだ。
「問題ないですよ」
無難に答えとこう。
メイドがお茶のおかわりを勧めてきたところでおいとました。
午後は図書室に引きこもる。読書は最高だ。
次の日、は神殿でお祈りの日だから、私は仕事に集中した。
「今日はめずらしくリチャードの方からあいさつに来たぞ。どこぞの村娘を探しながらな」
夕飯時に公爵様から報告される。
「明日はいると教えたら、すぐ帰りおった」
西洋人はあんまり野菜食べないんですよね。




