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ここから聖女の休日編です。
何年も前の話。
貴族の子女が集められたお茶会で、魔女トルベは私を同じ力を持つ者と認定した。
国にとって久しぶりの聖女が、王太子と婚約を結ぶのは分かっていた。
私が望めば認定魔女でもすんだだろうが、私は拒否しなかった。
婚約者として王家に実家の不遇を訴えることさえしなかった。
そうしていたらきっと殿下の同情は引けただろうに。
可哀そうな女の子があの方は大好きだ。お飾りの聖女として愛してくれただろう。
時間をかけて対処すれば、自分への待遇改善は十分に可能だった。
しかしその時点で疫病は蔓延していたのだ。
魔女・魔法使いは国を守ることができる。
たとえ敵が疫病でも。
しかし彼らは国家に管理されることを嫌った。
魔女を説得するには魔女が一番適任なのに、トルベは私を見出してすぐ地元に帰る。
国家に協力的な魔女でさえ、守るのは自分の周りだけである。
だから私はあの時、聖女として都を飛び出した。国中の力を持つ者に協力を仰ぐため。
聖女であり王太子の婚約者であれば、権力が手に入る。それは各地の神殿を回るために役立ってくれた。
だから、私は殿下を利用した立場なのだ。
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「ねえルイーズ、もし良ければしばらく私の実家で休暇を取ってみない?」
汗ばむ陽気のある日、私はまた王妃様に呼び出された。
「休暇ですか」
「ええ、二か月ほど田舎でのんびりするのはどうかしら」
私は考える。
家の仕事も落ち着いてきた。後は執事に任せればいい。
貴族が避暑に行くのは普通のことだ。
「では、一週間後の昼には馬車が迎えに行くので、それまでに荷支度を」
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ムシムシする馬車にゆられて私は指定された地方に着いた。
「ようこそ聖女様」
公爵家の面々は私をにこやかに迎えてくれた。
湯船に浸かってリラックスした体に、ドレスが着せられていく。
夜は豪華な晩餐でもてなしてもらった。
(超VIP待遇じゃない)
「長旅でお疲れでしょう、たくさん召し上がって下さい」
老齢の公爵がなごやかに口を開く。
「聖女様はこちらでお疲れを癒したいとのことですが、ぜひ週に一度は神殿に顔を出していただきたく」
「はい、それは王妃様から仰せつかっております」
「それでしたら問題ありませんな。我が家の者にもあなたさまの御心にかないますよう言いつけております。何なりと申し付けください」
そして夢のような生活が始まった。
朝は早起きしなくていいし、図書室で読書三昧だし、三食おやつ昼寝付きである!
神殿でのお祈りも、堅苦しい儀式は省いてもらえたから全力で祈りに集中できた。
「聖女様は何かやってみたいことはございますか」
「う、それでは畑とか作って良いでしょうか」
やりたいことにもすぐ許可が下りる。
王都は土地がたりないから、屋敷の庭もせまかったのだ。
公爵家の菜園を6平方メートルほど耕させてもらった。
苗もくれたし、至れり尽くせり。
お礼に隣の畑にも水をまいておく。
「ドレスを新調いたしましょう」
「あのぅ、ワンピースも買ってよろしいかしら」
身体がふくよかになったから普段着も追加してもらう。
一か月は瞬く間に経った。