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リチャード視点 その3
もう休暇は終わりだ。
ルイーゼに会えるのも終わってしまう。
せめて記念にパーティーで彼女と踊りたかった。
ダンスの練習に着てくれたドレス姿は美しかった。
華やかな装いは、とてもただの村娘には見えない。
(誰かに贈られたのか? それとも特別にあつらえたのか)
考えるまでもない。庶民がドレスを着る機会は少ないから。
(婚礼衣装か‥)
気が滅入る。
ルイーゼを飾り立てているのが、彼女を袖にした奴のために仕立てられたドレスだなんて。
だから僕からもプレゼントしたかったのに、断られてしまった。
貴族と平民。その溝は深い。
(彼女を王都に呼びよせるか? 我が家の侍女にでもすれば‥)
しかし田舎育ちの娘が急に都に住むのは、果たして幸せなのだろうか?
一夏僕と楽しく過ごせたからと言って、これから一生は無理だろう。
きっとルイーゼにとっての僕の存在は、彼女に贈ったアメジストくらいの大きさしかない。
(いや、そんなことはない。僕らの友情はもっと‥ ん? この思いは友情なのか?)
しかしこれが友情じゃなく恋慕だとして、どうなるのだろう。
僕が平民になることは可能だが、育ちが違いすぎる夫婦は不幸にしかならない。
長期休暇にだけ会う友人、それが一番無難な関係のはずだった。
パーティーに出席する彼女を見るまでは。
(え、お爺様が連れているのって。え、聖女ルイーズ?)
一生懸命王宮で会った聖女の姿を思い出す。
(確かに声は似ているけれど、聖女はもっとやせ細っていたはず‥環境が改善されて変わったのか)
「今までのご無礼、どうぞお許し下さい」
聖女ルイーズが僕に謝罪している。
胸元に小さなアメジストを光らせて。
僕は、何も返せなかった。
(やっぱりルイーゼが聖女ルイーズだったんだ)
混乱する思考がやっと結論を出す。
豪華な衣装に身を包んだ彼女を、僕は誘えなかった。
彼女は楽しそうに他の男と踊り続ける。
その姿が脳内にチラついて、寝所に入っても中々寝付けない。
カーテンのすき間が明るくなってやっと意識がかすむ。
次に気がついた時はもう昼で、
彼女はいなくなっていた。