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休暇は本当に楽しい。
リチャードは乗馬を教えてくれた。
初めての経験だったけど、大人しい馬のおかげで少しは上達する。
馬に乗れるようになると、二人で遠出だ。
小川で冷たい水に足を冷やし、農家でパンとチーズを売ってもらう。
素朴な味は公爵邸で出される物とはまた違ったおいしさだ。
村の市にも出かける。
木工のペンダントを、リチャード様がプレゼントしてくれた。
雨の日は別館の厨房で、料理人とお菓子作り。
二人で粉だらけになってクッキーを焼く。
時間はどんどん過ぎ去って、気がつけば残りは一週間を切っていた。
「そろそろ休暇も終わりだな」
夕飯時、公爵様のつぶやきに私はハッとした。
「リチャード様は王都に戻ったら、どうされるのでしょうね」
「文官を目指すと言っておった」
妥当な願いだ、おそらくかなうだろう。
「さみしくなりますね、その‥夏中お孫さんを取ってしまって申し訳ございません」
後悔があるとしたら、リチャードと公爵の時間を奪ってしまったことだ。
「気にせんで欲しい。元々あの年頃のモンが年寄りと毎日顔をつき合わせることはせぬ。聖女様のおかげで、二日に一回は本邸に顔を出していたのだから、こちらが礼を言う立場かな」
それなら良かった。
「ああ、それから五日後にパーティーを開こうと思う。最後くらい孫も顔を出すだろう」
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「ルイーゼ、今度本館でダンスパーティーがあるんだ。ダンスの練習につき合ってくれるかい?」
私が畑に出るとすぐ、リチャード様につかまってしまった。
「もうすぐ王都に帰らなくちゃいけないんだ」
サロンでステップを踏みながら彼はつぶやく。
「宰相は無理だろうから文官試験を受けたよ。無事合格だ。法衣貴族も悪くない」
いつもするような会話。
でも顔が近い。体も。
私は顔を真っ赤にしながら、何とか足を動かす。
「こんなにダンスが上手いなら、君もパーティーに出ればいいよ」
出席は決定しているんだけどね。ルイーズは。
「私には無理ですよ」
ルイーゼには。
「ドレスだったら僕が贈る」
「必要ありません、もう持っていますから」
彼の瞳がちょっと悲しそうに動いたのは、気のせいだろうか。
「じゃあ、明日はそれを着た姿を見せてくれ」
部屋に戻りクローゼットを開く。
中には村娘にふさわしくない豪華な生地のドレスが下がっている。
「さすがにこれは着て行けないし」
それはパーティー当日に着ることにして、今はそれ以外でまあまあ可愛らしくシンプルなのを手に取る。
(汚しちゃいけないって、神殿に行く時しか来ていなかったはず)
ちょっと裕福な庶民が持っていても、おかしくはない一品。
畑の見回りの後、手と顔をきれいに洗ってドレスを持つ。
別邸ではメイドさんに手伝ってもらいながら着付けを終えた。
髪も軽く結ってもらい、木のペンダントを首にかける。
ドキドキしながら、サロンに入った。
「支度ができました」
リチャードが立ち上がる。
彼はそのまま、三秒間は目を見開いていた。
(さすがにこの姿じゃ、村娘のフリは無理があったかな)
ちょっと後悔する。
「お屋敷のみなさんが飾り立ててくれました」
そっと彼の隣に立つ。
「ダンスの練習、しましょうか」
「あ、ああ」
リチャードは、いつもよりぎこちなくホールドを取った。




