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そして神殿にこもる日以外、私は毎日リチャード様と会っていた。
「ルイーゼは本は好きかな」
「はい、物語が大好きです」
「へえ僕もだよ。好みの作家を教えてくれるかい」
共通の趣味で読書があったから、最近はその話ばかり。
今日は別館の書棚をチェックさせてもらっている。
「今は恋愛小説にハマっていますよ」
婚約者との関係が散々だったからか、フィクションは落ち着く。
絶対に主人公が幸せになるのが読んでいて分かるから。
「ふうん、恋にあこがれているのかな」
「まさか、今は疑似恋愛で十分ですよ」
リチャード様が遠い目をした。
「それは少し分かるな」
彼にも何かあったのだろうか。
「うちあけ話があるなら聞きますよ」
あえて軽めに提案する。
話したくない場合に断りやすくするため。
「‥婚約者がいたんだ」
高位令息ならそうでしょうね。
「学院を卒業したら、籍を入れるつもりだった。だが‥先日僕の上司が失脚してね」
ああ、元王太子殿下のことですね。
「仕事の‥次期宰相の候補から外れてしまったんだ。そうしたら婚約の話までなくなった」
「え、リチャード様は公爵さまのお孫さんですよね。そんなもったいない」
「公爵家を継げるのならともかく、ただの部屋住みには興味ないんだろう」
彼は自虐的に笑っている。
「祖父は新しい縁談を薦めたがっているが、しばらくは‥考えたくない」
「私も分かります、それ」
しょうがないよねって私も笑う。
朝起きたら雨が降っていた。頭も痛い。
(嵐が来るみたい)
畑に水をまく必要はなくなるが、嵐除けの祈りは必要だろう。
公爵には事情を話し、その日は一日部屋で祈る。
次の日は神殿に行く日だった。風が強く吹く中、神殿で嵐による災害の鎮静を願った。
その次の日も雨は本降りであったが、風は大分収まった。祈りの成果が出たようだ。
そして三日が過ぎた朝、やっとお日様が出る。
「今日は暑くなるわね」
朝ご飯前だったけど、畑が心配で見に行く。
「まあまあかしら」
「ルイーゼ嬢、ご無事でしたか」
リチャードの声がした。
腰を上げると、青年の姿が。
「嵐がすごかったので心配しました。特に君の‥畑を」
ほう、友情にはあつい男なのね。
「大丈夫ですよ、聖女様がお祈りしていましたから」
「ああそうだね。えっと後でお茶においでよ。一人では飲むのはさみしいから」
だったら本館に住めばいいのに。
リチャードは公爵様の様子も見に行き、一緒に朝食を食べるらしい。
私はいつもの通り、自室で朝ご飯だ。
第一王子の失脚の余波を側近もかぶっています。
台風の被害少ないと良いですね。




