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3.安らげない自室などいらない

 エリーとの距離が少しだけ近づき、これからのために動き始めたルビィは今。自らの部屋で腕を組み、煌びやかすぎる家具たちを睨みつけていた。

 不要な宝石がキラキラと輝くタンスにベッド。窓枠や壁にもラメのようなものがあしらわれ、暗くしたとて僅かな光で煌めく居心地の悪い空間。ここで暮らすのならば、これらは改善しなければならない。

 そう決意しての行動なのだが、何から手をつけていいかわからないのだ。


「どうされました?」

「ああ、エリー。この家具や宝石を売って新しいものを買い直したりできるのかしら」

「できると思いますよ。でも、良いのですか?」

「何が?」

「ルビィ様は光り輝いているものや宝石が何よりも好きだったと思うのですが」

「……内面の輝きの方が大事だと知ったのよね」

「っ! 素晴らしいと思います!」


 呼び方が『お嬢様』から名前へと変わり、ルビィに話しかけられるたび体をびくびくと震わせていたエリーは早くもいない。切り替えが早い人物のようだ。

 これまでの自分の趣味に頭を抱えたルビィの言葉に目を輝かせたエリーは、早速執事長に確認をとってくると言って部屋を出た。家具などの購入などに関しては、執事長がある取りまとめている。当然予算などはあるが、今回は売って買い直すので問題はないのだろう。

 しばらくすればノックの音が聞こえて、返事をすれば老齢の男性が扉を開けた。


「お嬢様、家具を買い直したいと伺いましたが」

「ええ。この眩しすぎる家具たちを売って、もう少し目に優しい家具を買いたいと思うの」

「目に、優しい、家具……ですか」


 白髪の執事長セバスは、「またか」という目をしていた。それでも表情は無表情を繕っていたが、瞳は雄弁に語っていた。ルビィは気付いていたが、しかし触れずに目的を告げる。見開かれた目に既視感を覚えながら、そうだともう一度頷いてみせた。

 以前のルビィは本当に光り物が好きだったのだろう。十センチ四方に1つ以上宝石がはまっていないと気が済まなかったようで、実用性よりも見栄え、いや輝度重視なのだ。


「貴族としてお金を回すのは大事だわ。けれど、散財は違うわよね。遅すぎたけれどようやくそのことに気づいたの」

「え、ええ。そうでございますね」

「だから、不要な宝石や家具は全て売るわ。そのお金で、宝石が埋まった窓枠と家具、あとこの眩しい壁紙をシンプルなものに変えたいのだけど、足りるかしら」

「問題なく足りるかと。……余った分は、いかがなさいますか」


 さすが執事長というべきか。戸惑いはあったようだが、言葉を交わす間に平常運転に戻したようだ。試すような視線を向けてきたセバスに唇を緩めたルビィは、ゆっくりと口を開く。

 前世からたまに美味しいものを食べる以外に趣味がなかったルビィだ。貴族でいる限り美味しいものはある程度食べられるだろうし、正直、お金はあまり必要としていない。


「私の予算に戻してくれても構わないし、もう使ったものとして家に戻しても構わないわ」

「……かしこまりました」

「ありがとう、よろしくね」

「っ……はい。新しい家具や壁紙に関しては商人を呼びますので、到着時に改めてお声がけ致しますがよろしいでしょうか?」

「わかったわ」


 普段のルビィであれば今すぐに呼べと喚き散らすところだが、前世が蘇った彼女はそんな愚かな行動はしない。むしろ、こちらから出向かず申し訳ないと思っているくらいだ。

 その様子にも僅かに驚きを見せたセバスに、ルビィは今更だけど、と彼にもエリーに告げた内容を伝えた。


「今までの行いがこの謝罪でなくなることはないでしょう。だから、今後の私の行いを見ていてちょうだい。可能であれば、間違ったときには注意してくれると嬉しいわ」


 謝罪を受け取ったセバスは先ほどより一層唇を引きむすび、そして頭を下げた。


「かしこまりました」


 重々しい、けれど疑念の色は孕んでいない声音。そう判断したルビィは小さく頷くにとどめ、引き続きよろしくと言ってセバスを送り出した。

 涙ぐんでいるエリーは、ルビィの変化を感じ取るたびに最近この状態になるので放置する。しばらくすれば普通に戻るだろう。


「さて、この後は……」


 コンコン

 早めに終わらせたいと思っていた模様替えはできそうなので、ルビィの予定は終わった。このあと何をしようか考えようとしたところで、ノックの音に中断される。


「お嬢様、ロゼ公爵家から使いの方がいらっしゃいました。ご当主様とご子息様がお嬢様とお会いしたいとのことです」

「げ」

「ルビィ様?」


 返事をすれば、扉の先には侍女頭のアンナがいた。告げられた内容に思わずルビィの素が顔を出すが、聞こえたのは隣にいたエリーだけだったようだ。

 アンナは丸メガネをクイッと上げて、ルビィが「すぐ向かう」と返すのを待っているようだ。


「すぐ行くわ」

「……かしこまりました」


 侍女頭のアンナは線が細く神経質そうな女性であるが、長くドルチェ家に支えてくれている。セバスやエリー同様非常に稀有な存在だ。そして、かつてのルビィに意見できる珍しい人間でもあった。その意見をルビィが聞いたかどうかは別だが。

 文句を言わず返したルビィに思うところはあったようだが、アンナは特に何をいうでもなく下がっていった。今度彼女にもこれまでのことを謝らなければと心に刻み込む。


「シンプルなドレスをお願いできる」

「はい! お任せください!」


 家で過ごすためのドレス。誰かと会うためのドレス。出かけるためのドレスに、寝るためのドレス。他にも散歩用、夜会用、茶会用など多岐にわたるドレス。

 非常に面倒くさいと思うルビィであったが、その面倒臭さを軽減し助けるというのが侍女たちの仕事だ。ドレス選びや化粧などなど、ありがたいことこの上ない。経済を回すという貴族の義務としてもドレスは必要なので、種類がありすぎることへの文句は飲み込んで準備を始める。

 あの日以来初めてとなるグレイとの対面。できるならば会いたくないなと思いながら、ルビィは自分の周りを忙しく動き回るエリーを眺めるのだった。

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