1 不良品 -7
俺たちはそのまま歩いて角を曲がった。
おあつらえ向きに公園があった。
平日のこの時間には、誰もいない。
そういえば、幼い子どもの姿も見なかったな、と思い至る。この住宅地は新しいものではないのだろう。
ただ、公園の遊具は比較的新しいものだし、雑草などに覆われてもおらず、綺麗に整備されていた。
俺たちは適当なベンチに腰を下ろした。
このベンチも、座るのを躊躇しないほどには、綺麗だ。
俺は腕を組んで、ウーンと唸った。
「どうすっかな」
坂巻正太が実家に引きこもっていたら、接触するのは難しい。
アキラが決然と、自分の顔を指さして言った。
「行きましょうか?」
それから、想いを噛みしめるように二度頷く。
「その為の非公認でしょ」
いや、そういうわけじゃないのだが。
俺はため息をつき、追い払うように右手を振った。
「馬鹿、早ぇよ」
アキラが言うのは、対象者と接触する為に、許可なく自宅に侵入するということだ。
つまり、忍び込む。
もちろん、これは違法だ。
まぁ、だが、そうせざる負えない場合もある。もし対象が、自宅から一歩も外に出て来なかったら、多少法律に触れても、対象の顔を見ないと仕事にならない。
しかし、できたら、穏便に行きたい。
「憶測だけで決めつけるな。しばらく、張るぞ。もしかしたら、自宅で仕事をしているかもしれないだろ」
言いながらも、その可能性は低いと思った。
「はいはい」
アキラは不服そうだ。
忍び込むのは、アキラの役目だ。アキラは実家を飛び出してから、他人の家に忍び込む泥棒稼業で、生き延びてきた。要するに空き巣なのだが、アキラは警備に金をかけているような、金持ちの家を好んで標的にしていた。難しそうなほど、燃えるらしい。どんな家でも忍び込めると豪語している。
本人は腕が鳴るのだろうが、オジサンとしては、なるべくそんなことをさせたくはない。
まぁ、偽善だけどな。
ふっと、太陽に雲がかかったのか、それまで日向だった公園が、一瞬翳った。
その時、ふっと、公園の入り口に、少女が立っているのが目に入った。
俺がよく見ようと頭を動かすと、少女は消えた。
「どうしたの、マルさん」
アキラの位置からは、ちょうど公園の入り口は背後になっている。アキラは見ていないだろう。
アキラくらいの年頃だ。
こんな時間に?
「お前くらいの女の子がいた。そこに」
俺が入り口を指さすと、アキラは首を後ろにねじって、入り口を見やる。
すぐにひねっていた首を戻して、呆れ顔で俺を見た。
「生身?」
言われて、俺も肩をすくめる。
自信がなくなってきた。
「だと思ったんだが……」
雲は流れていき、また公園には日向が戻ってきた。今日は暖かい。
俺はベンチから腰を上げた。
この場所はあまりよくないような気がしてきた。
「駅前に行ってみるか」
駅前は一応繁華街になっている。アーケード街があり、ファストフード店、スーパーマーケット、本屋にドラッグストアと、一通り揃っている。
「何しに」
現場から離れるのが嫌なのか、アキラが不満そうな声を出した。
「とりあえず……」
俺はできるだけ厳かな声を出した。
「飯を食わなきゃ、仕事にならん」
アキラは鼻を鳴らしたが、不賛成ではないらしく、黙って立ち上がった。




