1 不良品 -3
俺たちは今、「なかよしマート」の事務所にいる。そこでグダグダと暇を持て余しているのだが、この「なかよしマート」は別に地元密着のスーパーではない。地場産の野菜も置いていないし、夕方の大売り出しもしていない。そもそも店舗がないし、「なかよしマート」の名称は、建物のどこにも、この事務所のドアにさえ表示されていない。
「お前ら、またケンカか?」
妙齢のおじさまが事務所に入ってきて、俺たちの顔を見比べて、呆れた顔で笑った。
「ああ、店長聞いてくださいよ。全く、可愛げのない娘で」
俺が作り声で店長に訴えると、アキラはあろうことか、唾を床に吐き捨てた。
「冗談でも、娘とか言うな」
アキラはそう吐き捨てると、むっつり黙りこんで、スマホに熱中した。
店長はそんなアキラから、俺に視線を移すと、厳かに言った。
「お前、拭いとけよ」
「ええっ、なんで俺が?」
理不尽極まりないと、憤慨すると、店長は鼻で笑った。
「お前の娘なんだろ、マル?」
「ちょっ、冗談!だれが、こんなの」
「そりゃ、お前が悪い。冗談でそんなこと言うな。アキラの言うとおりだ。はよ、拭け」
冷徹な上司の命令に、俺はしぶしぶ雑巾を取ってきた。アキラはそ知らぬふりで、スマホをいじっている。
そんな俺を観察しながら、店長は言った。
「仕事だぞ。観察対象だ」
「なかよしマート」は、政府非公認の組織、攻撃衝動除去施術対策組織である。別名、ロストアンガー対策室。
いくらカモフラージュとはいえ、誰がこんなふざけた名前を付けたのか知らないが、俺たちがやることは、全く「なかよし」なことではない。
ロストアンガーを受け、攻撃衝動を失った人々は、そのほとんどが穏やかな人として、つつがない人生を終える。
ただ、たまに壊れる者がいる。神経にノイズが発生し、果ては発狂してしまうものが、わずかだがいた。ノイズはレベル1から始まり、レベル5になると発狂してしまう。この発狂をクラッシュという。
原因は分からない。記憶は残るわけだから、罪の意識にさいなまれ、精神がやられてしまうとか、悲しみの感情は残っているのだから、その悲しみの行き所がなくなって心を患ってしまうとか、そもそも人間の感情をコントロールすることに無理があるとか、いろいろ言われているが、解明には至っていない。
クラッシュが自分に向かえば、本人の自殺で済むからまだいい。
問題は周りの破壊に向かった場合だ。この場合は、本人には怒りも動機もなく、悪意すらない。ただただ周りを破壊していく。
その場合は、抹殺対象となる。この業界では、それをなぜか浄化という。
浄化が俺の仕事だ。