4 反逆 -8
一息ついた俺たちは、もう少し遊ぶことにした。家でもゲームをしたことがなかった正太は、アキラの予想通り、ゲームの腕はからっきしだった。アキラはぶつぶつ言いながら、正太にもできそうなのを探し、指南していた。
先ほどされた昔話には誰も触れず、俺はのんびり二人のじゃれ合いを眺めていた。
楽しい時間がたつのはあっという間で、気が付いたら、なな美の学校が終わる時間だった。
慌てて三人で迎えに行くと、なな美は胡散臭いものでも見るような目で、俺たちを出迎えた。
「何、なかよしになってるの?気持ち悪い」
正太とアキラが顔を見合わせる。
確かに、気持ち悪いかもしれない。
サングラスをしているとはいえ、アキラはバケモノと目を合わせ、大丈夫なのだろうか。
「進藤さん」
正太に呼ばれて、俺は我に返る。
サングラスの奥で、真っすぐ俺を見る瞳が、はっきり見えた。
「俺、今から予備校行ってくる」
「今から?」
俺ではなく、なな美が素っ頓狂な声を出した。
「今さら行ったって、どうしようも……」
険しい顔のなな美に、正太は笑顔で言った。
「まだ授業、あるし。なな美も行こう。今日、なな美も授業の日だろ?」
「そうだけど……」
「正太、やっぱり大学目指す気になったのか?」
俺が訊くと、正太は首を傾げた。
「それはまだ分からないけど、でも……逃げたら駄目だと思うんだ」
俺とアキラは目を丸くした。
「がんばれるんだ」
アキラの呟きが、俺の心も代弁していた。
衝動と一緒に、いわゆる「やる気」をもそぎ取られたバケモノたち。だけど、目の前のバケモノは、自分を見つめ、どうにか奮い立とうとしている。
「お前が自分で行きたいんなら、いいんじゃないか」
俺がそう言うと、正太は嬉しそうに笑った。
褒められた子どもみたいだ。
それから俺たちはホテルに戻って、受信機にかじりついたが、兄妹二人そろって帰ったので、母親は不信に思わなかったらしい。予備校からも特に連絡がいかなかったのだろう。
幾分機嫌がよくなっていた志ず江は、朝の騒ぎなど何もなかったかのように、普段通り子どもたちに接していた。
ただ、寝室に引き上げる前に、「明日もお願いね」となな美に言っていた。
なな美は曖昧に返事をしていた。
親子の対決をするまでには、まだ勇気が足りないらしかった。
まぁ、勇気を出したところで、あの母親に響くとは思えなかったが。
今は、母親の命令に必ず従わなくてもいいという選択肢を、なな美が選んでくれただけでよかったと思っている。
「だけど、ずっとこのままでいくわけはないですよね」
当然すぎるアキラのツッコミに、俺は頷いた。
「どうしたもんかな」




