4 反逆 -7
「お前は?」
二人分のコーラを買った後、正太に訊くと、コーラをチラッと見て、「コーヒーで」と頭をぺこりと下げた。
三人で、自販機横のベンチに座る。
アキラはすぐにコーラのペットボトルを開けて、ぐびぐびと飲んでいる。「あー。うめぇ」とでかい声で言うさまは、オッサンそのものだ。
「新機種とやらに熱中しすぎて、喉がかわいてたか?」
嫌味を言ってやると、むせていた。
正太はコーヒーを開けもせず、そんなアキラをぼんやりと見ていた。
「飲まないのか?」
俺が促すと、初めて気が付いたように、コーヒー缶のプルタブをひっぱった。口元に持っていくが、一口飲んだら、また止まってしまった。
「こっちが、いいか?」
まだ開けていない自分のコーラを、俺が少し掲げると、正太はハッとしたように首を横に振った。
「いや、僕コーラ苦手で」
そしてコーヒーを口元に持っていく。コーヒーも、あまりおいしそうには飲まない。
そうだった。
「ごめん、知ってたんだった」
俺が謝ると、正太は一瞬ポカンとしたが、すぐに「ああ」と中途半端に頷いた。
「なな美に聞いたんだね」
世間知らずでとぼけているから、幼く感じてしまうが、正太は確かに頭がいいのだろう。
すぐに察することができる。
「どうして、飲めないのにコーラだったんだ?」
ついでとばかりに重ねて訊くと、隣でアキラがまたむせていた。
苦笑しながら、正太は頭をひねった。
「最初は違ったよ。小さい駄菓子とか、バレなさそうなもの。全然バレなかったから、いい気になってさ、だんだん物が大きくなって、何回か捕まった後、母さん呼ばれて……ほっとしたよ」
「ほっとした?」
アキラがオウム返しに尋ねた。
アキラが反応したのが嬉しいのか、正太は笑顔で頷く。
「悪いことしているのに、同情されて、自分じゃやめられなくなってたんだ。だから、これでやめられるって思った。あとは、母さんが俺に呆れて、なな美の方に行ってくれたらいいと思った」
なな美が可哀そうだったからか、と訊くと、正太は申し訳なさそうに首を横に振った。
「残念ながら、違うなぁ。ちょっとはそんな気持ちもあったけど、正直に言うと、とにかく母さんが重たかったから、なな美に押し付けたかったんだよ」
潰されそうだったからさ。
軽くそう言って、正太はまたコーヒーに口をつけた。
ところが、正太の目論見通りにはいかなかった。母親は呼ばれても、頑として息子の罪を認めなかった。
正太の万引きはエスカレートしていった。
「コーラを盗り始めたのは、その頃からかな」
飲めないのに盗る。矛盾しているようだが、逆に言うと、飲めないから大量に盗っても消費しなくて済んだ、と正太は言った。
「どうにか消費しなくちゃいけないと思うと、それが苦痛になるでしょ?」
そもそも一人でどうにかできる量じゃなかった、と言われて、俺は半ば呆れながら言った。
「じゃあ、盗らなきゃいいのに」
正太は肩をすくめた。
「もう、自分じゃどうしようもなかったんだよ」
「ねぇ」
我慢できないというように、アキラが口を挟んだ。
「あんたさ、悪いことしたって、本当に思ってんの?」
自分で抜け出せないから、依存症だと言われる。だが、アキラが言いたい気持ちも分かる。正太の言い分は、だから仕方がないじゃないか、と開き直っているように感じられてしまう。
「悪いことだって、理解してるよ」
微妙な言い方に、俺とアキラは結局モヤッとしたままだった。
「今は全然、盗りたいと思わないのか?」
俺が話を変えると、正太はすぐに頷いた。
「思わない。その衝動がなくなるって、本当の事なんだね」
でも……と少し口ごもる。
「万引きする夢はよく見る」
「夢?」
やっぱりか、と心の中で膝を打ちながら、俺は先を促した。正太は心もとなさそうに頷いた。
「うん。いつものスーパーにいて、いつもの棚に行くんだけど、だいたいそこで店の外のガラスがガンガン叩かれて、入って来られるんだ」
「何に?」
訳が分からず、俺がそう訊くと、正太は夢から醒めたような顔で俺を見て、首を横に振った。
「分からない。あれ、何なんだろう?」




