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4 反逆 -6

 


 なな美は、いつもの偉そうな態度が嘘みたいにビクビクしながら、それでも、高校へ向かった。俺は少し後ろから、彼女についていき、なな美が学校に入ってしまうと、適当にその辺でブラブラして時間をつぶした。

 なな美に約束した通り、近くで守っていたわけだ。確かにあの母親なら、娘の高校に殴り込んできそうではあった。だが、なな美に番号を教えた俺のスマホは鳴らなかった。

 母親の志ず江は、仕事に行っているとなな美は言っていた。

 正太が予備校に来なくても、特に母親に連絡はいかなかったのかもしれない。

 昼休みの時間に、スマホが鳴った。

 出ると、なな美に「もう大丈夫だから、その辺にいなくていい」と言われてしまった。

 あんなにビクビクしていたくせに偉そうに、とあきれたが、電話の声は明るかったし、落ち着いていたのでほっとした。

 帰りにまた迎えに来ると言って、電話を切る。

 やはり、なな美は学校に行った方がいい。

 そこにはちゃんと彼女の居場所があるようだし、洗脳のような母親の呪縛から逃れられる。

 アキラに電話してみると、疲れたような声が返ってきた。

「マルさーん。この子、小学生もびっくりするほど、何にも知りませんよ」

 あらら、アキラにまで、あの子と言われている。

 俺は苦笑しながら、「どこにいるんだ」と尋ねた。まぁ、大方分かる。電話の後ろがうるさい。

「駅の近くのゲーセンです。なな美はどうです?マルさん、こっちに来れません?」

 珍しく、アキラが泣きを入れてくる。

 俺は「すぐ行く」と返事をして、電話を切った。


「なにやってんだ、おめぇ」

 正太はコインを抱えて、ゲーム機の間を右往左往していた。サングラスなどかけているから、余計に怪しい。

 アキラはとっととあきらめたのか、姿が見えない。

 俺の姿を見て、正太は驚き、わたわたと俺の後ろを窺う。

「なな美なら、ちゃんと学校に行ったよ。お守りはもういいとさ。あとで、迎えには行くが」

 俺がそう報告してやると、正太はコインを抱えたまま、安堵のため息を漏らした。

「で、何やってんの」

 心配なのはお前だ、と内心突っ込みつつ、そう訊ねると、正太は困ったように目尻を下げた。

「ゲーセン来たの初めてで。どれやったらいいか分からなくて」

「……アキラは?」

「なんか、呆れてあっちに行っちゃった。僕はこのコインを渡されて、この辺で遊んでろって」

 俺は、深い深いため息をついた。

 職務放棄だな、アキラ。

「どれでもいいんだよ、とりあえず、そのコイン使い切るぞ」

 やれやれ、コイン使用のゲーム機なんて、何十年ぶりかもしれない。

 幼児を連れて歩く父親さながら、俺は正太と二人で、その辺のゲームを片端からこなした。

 しかし、アキラよ。正太はゲーセンこそ初めてで、不慣れかもしれないが、家でゲームをしたことくらいあるだろう。さすがに、コインゲームじゃ、物足りない……

「ああ、進藤さん!当たったよ!」

 予想以上に楽しんでいる正太に、俺は驚きと共に、憐れさえ覚えた。

「お前さ、人生で楽しいって思ったのって、何した時?」

 正太の境遇を知っていてする質問ではないが、俺は純粋に訊きたくなった。どんな顔で、何て答えるのだろう。

 大当たりに喜んでいた正太は、俺の顔をポカンと見て、首を傾げた。

「さあ、何だろう?」

 知るか。俺が訊いているんだ。

 困惑顔の正太の向こう側に、チラリと見知った顔を見つけた。そいつもこちらに気が付いたようで、コソコソと逃げていく。

 俺は飛んでいって、そいつの襟首を掴み上げた。

「これはこれは、アキラさん。お仕事中ですか?」

 捕まったアキラは、恨めしそうに俺を見上げた。

「あっちに新機種が出てたんですよ」

「じゃあ、正太連れて行けよ」

「あいつじゃ出来ない、レベル高いやつ」

「プライベートでやれよ。正太、コイン抱えて途方に暮れてたぞ」

 ウー、とアキラが唸る。これでも、これはアキラが悪いと思っている態度だ。

「ごめんね、アキラちゃん」

 俺の後ろから付いてきていた正太が、すまなそうにアキラに謝った。

 謝られて、アキラもどうしていいか分からないというように、口をもごもごしている。

 いかんな。

 いつも俺みたいなのとつるんでいるから、正攻法で来られると、対処できなくなるらしい。

「なんか、飲むか」

 このままでは、アキラが恥ずかしさで爆発しそうなので、俺は救いの手を差し伸べてやった。


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