3 正太 -6
「いいバケモノだな」
正太が帰った後、俺は正太と話した第一印象をそうまとめた。
アキラが心底馬鹿にしたような顔で、俺を一瞥した。
「頭沸いてます?バケモノはいい人になるんですよ?」
そのいい人とはちょっと違う。
攻撃衝動がなくなったからという良い人と、正太の「僕はいいから妹を」という自己犠牲精神の良い人は、何というか種類が違う。
正太のは生来のものだろう。
だが、それが以前から発揮されていたのかは分からない。
正太もなな美も、相当拗らせている。
その原因であり、中心にいるのが、二人の母親だ。
「毒親」という言葉が頭をよぎった。必死で子どもを育てている親に対して、非情な言葉だと思うが、確かに子どもの人生をめちゃくちゃにする親がいるということは、俺も経験で知っている。
そして確かに坂巻家はおかしい。
家族というのは、古来より最も閉鎖的な場所だ。そこには容易に他人が立ち入ることができない。間違っていても、そこではそれが正しいとされてしまう。
俺はアキラを見た。
「お前はどうしたい?」
アキラは二、三度瞬きした。
「何が、ですか?」
「お前は、二人を助けたいか?」
俺たちの仕事は、あくまでクラッシュした時の浄化だ。後はなにがどうなろうが、職務外だ。
「正太にノイズが出なければ、仕事が一つ減ります」
アキラが妙に真面目な顔で言ったので、俺は笑ってしまった。
素直じゃねぇなぁ。
だが、俺はのってやることにした。
「そうだな。その方が省エネだな」
いやいや、拗らせた二人を救う方が、よっぽど手間がかかる。
内心、自分でそう突っ込みながら言うと、アキラは無表情を崩さず、頷いた。
バケモノと大嫌いな女。拒絶していても、放っておけないのが、アキラだ。この仕事には不向きなのは、それもある。こちらはこちらで、拗らせているのだ。
「じゃあ、アキラに活躍してもらおうかな」
そう言うと、アキラの無表情がやっと崩れた。




