3 正太 -3
結局は振り出しだ。
どうして夢の中で衝動が起きるのか。
一周しても、皆目分からない。
仕方がないので、仕事のやり方も初心に戻ることにした。
観察と尾行。
幸いにも、正太は毎日予備校に行くために、外出をする。なな美が一緒にという時もある。俺たちは二人に気が付かれないように後をつけ、坂巻家と予備校を往復する日々を送った。
毎日変わり映えのしない作業だったが、それでも発見はあった。
なな美が高校を休み、朝から予備校について行く日が続くと、正太は睡眠時に異常を起こすことがある。正確に言うと、正太の中のチップがショックを起こす。
ショックがノイズとは違うのかと「なかよしマート」に問い合わせると、「違う」との回答だった。何が違うか説明を受けたが、いまいち分かりにくい。専門家の持って回った言い回しは、時に素人に分からないようにごまかす為ではないかと思うが、とにかく、ノイズのようにクラッシュすることはないらしい。ノイズ(雑音)ではなく、想定外の事態にチップが反応する事象だという。しかし、ショックが続けば、それがノイズに繋がることはないのかと尋ねると、「分からない」と言われた。
なんだそりゃ。肝心なところで役に立たない。
なな美の付き添いが続き、正太のチップにショック反応が出る頃には、なな美の表情も暗くなっていく。
母親のプレッシャーが強くなっているのだろうか。
それにしても、仮にも二十四歳の男が、母親の強い支配に、未だ抗えずにいるのは、俺には信じられなかった。もういい歳だ。母親が異常だということに気付き、完全に断ち切ることは無理でも、母親を見限っていてもいい。
正太自身が母親に依存しているのか、母親に例えば「死んでやる」とでも脅されているのか、それとも……
俺は一つの可能性を推測している。そして、これはかなりの確率で、正解じゃないかと思っている。
ロストアンガー施術のせいで、抵抗できなくなっちまったんじゃないか?
抵抗したいという衝動すら、奪われてしまっているのではないか。
そろそろ正太と、実際に話してみたい、と思っていたところで、まさにその機会が転がり込んできた。




