表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/42

2 いびつ -2

 

「さて、どこから、攻めるかねぇ」

「目的地周辺」には、聞いたことがある大手の予備校が並び建っていた。

 アキラは口を開けて、そのビル群を見上げている。

「気が知れん」

 アキラがボソリと呟いた。

 どういう意図で言ったのか、気になるところだが、とりあえず俺は仕事にかかることにした。

「怒るなよ」と最初に釘を刺しておいて、説明する。

「アキラと俺は親子で、受験のために話を聞きに来たことにする。そこでチラッと『坂巻』の名前を出そう。あとお前は正太が現れないか、見張っといてくれよ」

 アキラは思春期の娘のような不機嫌な顔をしながらも、「分かりました」と言った。

 最初に入った予備校は空振りだった。

 対応してくれたのは若い男性で、熱心に細部まで説明してくれたが、「坂巻」の名前には首をかしげていた。

 俺たちが分かったのは、この予備校に入れば、否応なく勉強に励むことができ、合格に近づくことができることと、「ちょっと話が聞きたい」と言っても、一時間は熱弁されてしまうということだった。

 ようやく解放されてそこを出た俺は、慌ててバマホを見た。よかった、正太はまだ予備校で勉強しているようだ。じっと点が動かない。

「こういうところは、来たら夜まで勉強してるんですよ」

 アキラが訳知り顔でそう言ったが、俺はパスタ屋での事があったので、慎重になっていた。

「この調子でいって、最後までアタリが来なかったら、どうするんだよ」

 俺たちが馬鹿みたいに話を聞いているうちに、対象を見失ったら、それこそ馬鹿みたいだ。

「それはちょっと勘弁ですね」

 アキラは違う意味で、ゲッソリして答えた。先ほどの予備校でも、アキラは死んだ魚のような目で、話を聞いていた。いや、聞いてはいなかった。彼の話が終わるのを待っていたというほうが、正しい。

「まぁ、でも一発目でへこたれたら、駄目だな」

 次は見切りがついたら、さっさと話しを遮って、切り上げよう。そう決心して、アキラを半ばひきずるように、次の予備校の玄関をくぐる。受付の女性に話しかけると、にっこりと笑って、受付の横にある応接スペースのようなところに案内された。

 ああこれは、長時間コースだな。

 俺はうんざりしながら、先にアタリかハズレか見極めることにした。

「あの、坂巻さんていう方に、こちらの予備校を勧められたんですが」

 すると女性は、声のトーンを一つ上げて答えた。

「あら、坂巻さんのお知り合いなんですか?」

「え、ええ」

 アタリだったのは良かったが、喰いつきのよさに、少し身構える。深いところまで突っ込まれたら、答えられない。名前と歳、家族構成しか分からないのだから。

「あら、それじゃあ」

 女性が何か言いかけたのと同時に、背後から弾んだような声が降ってきた。

「あれ、おじちゃんじゃん!」

 俺とアキラは驚いて振り返った。こんなところに、知り合いがいようはずもない。

「あ」

 声の主の顔を見て、俺は思わず声を出してしまった。そこには先ほど、公園で見た幽霊が立っていた。ニコニコ笑って俺を見ている。

 アキラがもの言いたげな顔で、幽霊と俺の顔を見比べた。

「ああ、ちょうどよかった、坂巻さん」

 女性の言葉に、俺は思わず声を上げそうになるのを、何とか抑え込んだ。

「こちらの方、ええっと」

 女性は俺たちの名前を訊いていないことに気が付いて、言いよどむ。俺はすかさず「進藤です」と適当に名乗る。

「ありがとうございます。進藤さんが、こちらの話を聞きに来てくださったの」

「坂巻さん」と呼ばれた幽霊は、そつのない笑顔で頷いた。

「ええ、わたしが勧めたんです。わたし、今空き時間なんです。進藤さんたちに、構内を案内してもいいですか」

「もちろん」

 女性は満面の笑みで、俺たちを送り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ