1 不良品 -9
迂闊だった。昼飯を食ってる場合じゃなかった。食ったとしても、バマホを気にしておくべきだった。
引きこもりだと決めつけていたのは、俺だった。
あれこれ頭では反省するが、やってしまったことはしょうがない。俺は自分が悪いと思っているなどとはおくびにも出さず、店を出るとすぐにアキラをせかした。
「ほら、お前走れよ、若いんだから。駅の方に向かってる。あっちだ」
アキラは一瞬、般若のような顔で俺を見たが、何も言わずダッシュした。
えらい、えらい。ちゃんと自分の役割が分かっている。
みるみるうちに、姿が豆粒のようになっていく。アキラは俊足だ。颯爽と走るサロペットは、見ているだけで気持ちがいい。
「若いって良いなぁ」
俺は独り言ちると、バマホを見ながら、歩き出した。
対象は本当に駅に用事があるようだ。赤い点滅が駅の建物に吸い込まれていく。
えらく行動的なバケモノだな。
「あ、やば」
そうこうしているうちに、赤い点滅は普通ではないスピードで、移動し始めた。
電車に乗ったのだ。
俺が息を切らして駅にたどり着くと、案の定、御立腹のアキラ嬢が仁王立ちで待っていた。
「わたしが追い付いても、相棒が来ないと、その先は追いかけられないんですけど。とんだ徒労ですよ」
「ごめん、ごめん。まさか、電車に乗ると思わなくてさ」
俺がそう言い訳すると、アキラは片眉をあげた。
「駅の方に向かったのに、ですか?」
ごもっとも。
「ごめん!」
俺はあきらめて、両手を合わせ、アキラに詫びた。その手の横から、アキラをそっと覗く。
「でも、どの電車に乗ったかは、見てたんだろ?」
アキラは大げさに肩をすくめてみせた。
「なんも持ってないのに、改札通れんでしょ」
役立たず、と言いそうになって、慌てて口を噤む。悪いのは若者と一緒に走れない、俺の老体だ。
「でも、どこに行ったかは、大体分かりますよ」
そんな俺を見上げながら、アキラが今度は得意げに片眉を上げる。
無言で促す俺に、アキラは自信満々に答えた。
「予備校です」
は?
「奴、受験生みたいですよ」




