ep.9
毒って怖いものだと思っていた。
だけどこの世界の毒はそうじゃないって知った。
私に毒魔法の適性があるとおばあさんに言うととっても驚いていた。
「おばあちゃんはなんの属性を持っているの?」
「わしか?普通じゃよ。水と火と大地とあと無属性のもあるな。」
「おばあちゃんの無属性の魔法ってどんなやつ?すごいやつ?!」
おばあさんは私を見てニヤリと笑った。
「ちょうどいいから見せてやろう。」
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おばあさんは私を小麦畑に連れてきた。
小麦は黄金色になりかけていた。
「この小麦、収穫にはまだ早いんじゃ。わかるかね?」
「うん、もっときれいな黄金色になるもんね。」
「そう、しかし、わしにかかればな…」
おばあさんはそう言うと天に向かって杖を掲げた。
そして呪文を唱えると畑が光りだした。
小麦はあっという間にきれいな黄金色になった。
「すごい!!!」
「これが大地の魔法じゃよ。結構魔力を使う大変な魔法じゃ。そしてここからが面白いぞ。」
おばあさんはそう言うとまた杖を天に向けた。
何か呪文を唱えると小麦は一斉に空へと舞い上がった。
おばあさんが杖を振るのに合わせて小麦は束になり、木の柵に掛けられた。
「わぁ!!!面白い!!すごい!!!」
「これが無属性の物体を動かせる魔法じゃ。便利じゃろ。」
「うん!!だからパン屋さんになれたんだね!すごいや!」
「この魔法を見てそう言ったのはソラで2人目じゃよ。」
おばあさんはなんだか嬉しそうな悲しそうな難しい表情になった。
きっともう一人は娘さんだろうと私は思った。
「水と火が使えればお湯を作れる。便利じゃろう。」
「凍らせる魔法はないの?」
「あぁ、あるよ。氷魔法っていうのが水の派生である。わしは使えないがね。」
「魔法って面白いね!」
「便利なものほど使い方を間違えると悲惨じゃよ。ソラも気をつけるんじゃよ。」
「はい!」
小麦は乾燥させてから粉にするんだって。
そこはお日様の力を借りるんだって。
そうするほうが美味しくなるんだって。
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私は寝る前に毒の勉強をした。
毒を作り出すだけじゃなくて解毒剤なんかも作れるんだって。
直接毒を無効化する魔法とかもあるみたいだから、もしかしたら人を助けることにも繋がるかもしれない。
本には毒についていろんな方向から書かれていた。
魔法についてはもちろん、自然界に存在する毒のある植物や動物や魔物についても書かれていた。
普段その辺に生えている草の根っことかにも毒はあるんだって。
私はまずは人に役立ちそうな魔法を覚えようと思った。
薬を作るにはそれなりの道具が必要になる。
召喚すれば手元には現れるだろうけれど、誰かが盗られることになっちゃう。
人から奪ってまで手に入れようとは思わない。
魔法は諦めて毒の基本知識を覚えることにした。
私が思っていたよりもたくさんの種類の毒があった。
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「ソラ、召喚の精度が上がってきましたね!」
「うん、細かい設定にも対応できるようになってきた!先生ありがとうございます!」
少し休憩しましょうと言われて私は先生の淹れてくれたお茶を飲んだ。
花の蜜入りの美味しいやつだ。
「先生、相談があります。」
私はそう言っておばあさんの家にあるノートを召喚して先生に見せた。
それは5ページ目に書かれていた。
『どうぶつとおはなしがしたい』
「これなんだけど。」
「ほぉ、動物と話をですか。普通はそんなことできませんね。」
「うん、そうだよね。」
「しかしソラが召喚した動物となら話ができるかもしれませんね?」
「ほんと?!私もそうだったらいいなって思ってたの!」
私はノートを元に戻した。
先生は少し考えているようだった。
「外に行きましょうか。」
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村の近くに小さな森があった。
森と言うには狭すぎるかもしれないけれど、おじいさんは森と呼んでいた。
「ソラがお友達になるとしたら、どんな動物がいいかな?」
そう聞かれて私は病院で遊んだぬいぐるみたちを思い出した。
クマや犬などたくさんのぬいぐるみがあった。
その中で私が1番好きだったのは猫だ。
真っ黒な子猫のぬいぐるみだ。
「あのね、黒い子猫がいい。」
「猫か、それは友達になるのに向いていそうですな。ではその子猫のことをよくイメージして。子猫なら親と別れさせるのは可哀想だから、できればひとりぼっちの子がいい。できるかい?」
「うん、やってみる。」
私はママがいなくて悲しくて泣いている可哀想な子猫をイメージした。
するとどこかの家の床下で泣いている子猫が見えた。
『どうして泣いているの?』
私は想像の中で子猫に話しかけた。
『ママがいないの。』
子猫は私にそう言った。
そして私には家の裏でやせ細って死んでしまった母猫が見えた。
『あなたのお母さんは天使になったみたい。可哀想だけどしばらく会うことはできないと思うわ。』
子猫は泣きだしてしまった。
『ママに会いたいよ…』
『ごめんね、私にはお母さんを生き返らせることはできないの。』
泣きわめく子猫に私はそっと両手を差し出した。
『私があなたを守るわ。おいで。』
子猫は泣き止み、私の顔をみつめた。
そしてゆっくりとこちらに向かって歩き出した。
気がつくと私の両手の中には真っ黒な子猫がいた。
「かわいい子ですね。」
「うん、すごくかわいい!はじめまして、子猫ちゃん。私はソラだよ!今日からあなたのママになるわ!」
子猫は震えながら私を見た。
「ママ…」
おじいさんは驚いた顔で私を見た。
私もおじいさんを見て笑顔になった。
子猫を驚かせないように優しく話しかけた。
「そうだよ、あなたの名前は?」
「名前…ない…」
子猫は悲しそうな顔をした。
私は少し考えた。
前の世界のお母さんが大好きだったアニメの猫の名前を思い出した。
「あなたは今日からルナよ。よろしくね、ルナ。」
「ルナ?ルナ。」
子猫は嬉しそうにニャーと鳴いた。
そして大切なことを忘れていたことに気がついた。
その瞬間、後ろからおばあさんの声がした。
「ルナねぇ。かわいいじゃないか。」
おばあさんは明らかに怒っていた。
それもそのはずだ。
私はおばあさんに動物を飼いたいなんて話、これっぽっちもしなかった。
「あの、ごめんなさい。この子を家族としてお迎えしたいのですが…」
「わかっとるよ。帰ったらお風呂に入れてやろう。世話はソラがするじゃよ。」
「うん!ありがとう、おばあちゃん!」
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家に帰ってルナにミルクを飲ませた。
まだ子猫だから魚や肉は食べられないみたい。
小さな皿からペロペロとミルクを飲む姿はとても可愛らしかった。
おばあさんは遠まきにそれを見ていた。
「もしかして、おばあちゃんは動物が苦手?」
「苦手と言うか、はっきり言って好きじゃないわ。」
「そうだったんだね。相談もせずにこんなことになって、本当にごめんなさい。」
「ソラがそうしたいと言うならそれでいいさ。さぁ、その汚いモジャモジャを洗ってやろう。」
『ソラ!いいものがあるよ!』
マユちゃんが出てきて猫用のシャンプーをくれた。
「わぁ!ありがとうマユちゃん!」
『野良猫にはノミとかついてるみたいだからね、このクシでよく毛をといてあげて。』
マユちゃんは猫用の細いクシもくれた。
おばあさんは小さなタライを用意してくれた。
「猫専用にするといい。」
そう言うと少しぬるめのお湯をたっぷり出してくれた。
私は震えるルナをそっとお湯につけた。
「大丈夫だよ。気持ちいいからね。」
まだ何もしていないのにお湯はすぐに濁ってしまった。
おばあさんはすぐにお湯を新しくしてくれた。
シャンプーも1回目は泡も立たなかった。
「そのシャンプーってやつはなんだい?消毒薬かい?」
「えっと、汚れを落とすやつだよ。」
おばあさんは不思議そうにシャンプーを見ていた。
『人間用も出してあげるわ!』
マユちゃんはおばあさんにシャンプーとコンディショナーとボディソープをセットでプレゼントした。
私がルナを洗っている間、マユちゃんはそれらの説明をしていた。
おばあさんはちょっぴり嬉しそうにしていた。
「ありがとう、マユ。さっそく今日から使わせてもらうよ。」
マユちゃんは得意顔で『お安い御用よ!』と言っていた。
ルナはシャンプーをしてクシで毛をとかすとノミがたくさん出てきた。
野良猫って大変なんだなって思った。
何度も洗うとルナはお風呂に慣れたようで気持ちよさそうにした。
少し長めのルナの毛はサラサラになった。
マユちゃんが風魔法で乾かすのを手伝ってくれた。
「わぁ!ルナってばこんなに美しい猫ちゃんだったのね!」
そこにいたのは最初のやせ細ってみすぼらしい汚い子猫ではなかった。
ふわふわの可愛らしい黒猫だった。
「ママ、ありがとう。おばあちゃんも、ありがとう。」
ルナは恥ずかしそうにそう言った。
おばあさんは「わしはなんもしとらんよ!」と言って照れたようにタライを洗いに風呂場に戻った。
『私からルナにプレゼントよ!』
マユちゃんは赤い革の紐に金色の鈴をつけたものを出してくれた。
「わぁー!すごくかわいい!!」
ルナにつけると鈴に戸惑っていた。
「これ、うるさい。」
マユちゃんはそれを聞いて悲しそうな顔をした。
「すごくかわいいし、似合ってるよ、ルナ。」
ルナが歩くとチリンチリン可愛い音がする。
おばあさんはそれを見て「鈴はいいね、どこにいるかすぐわかる。」と言った。
やっぱりおばあさんは動物が苦手なようだ。
私がベッドに入るとルナも私にすり寄ってきた。
私は優しく抱きしめた。
こんなに小さいのにお母さんと離れ離れになるなんて。
すやすや眠るルナを見て、私は改めて思った。
守るものができてしまったのだと。
今までは守ってもらうばかりだった。
今日から私はこの子のママになったんだ。
私のところに来たことを後悔させないように一生懸命育てよう。
私はルナの寝息に眠気を誘われてすぐに眠ってしまった。
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