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7つの願い  作者: yamico
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ep.3

私は森の中で楽しく暮らしていた。


家族たちは森にいる他の獣たちとは少し違った。

体格が大きくて、言葉を話す。

お父さんが『私たちは魔物と呼ばれていて、魔法も使えるんだよ』と教えてくれた。

確かに森にいる鹿やウサギは喋らない。

お父さんは狩りをするときに雷のようなものを出していた。

あれが魔法なんだろう。

私もこの家族たちと血が繋がっていたら魔法が使えたかもしれないのにな。

モクはお父さんに教えてもらって魔法が使えるようになった。

私も真似してみたけれど、やっぱりできなかった。

お母さんはみんながみんな魔法を使えるわけではないから気にするなと言ってくれた。


────


5歳になるとこの種族は独り立ちしなくてはいけないらしい。

旅に出て同じ種族の異性を探して新しい家族を作るんだって。


モクはいつの間にかお父さんと同じくらいの大きさになっていた。

私も大きくなったけれど、モクに比べるとやはり貧弱だった。

人間の5歳といえばまだ幼稚園児だ。

もう前の自分がどんなだったか思い出せないけど、一人じゃ遠くにも行かせてもらえなかったと思う。


「私も独り立ちして大丈夫かな?」

私はお父さんに聞いてみた。

「ソラはもう一人で食べ物を調達できるようになっただろう?立派な大人だよ。」

お父さんは誇らしげにそう言うと私の顔を舐めてくれた。

「辛くなったらいつでも帰ってきていいのよ。」

お母さんはお父さんと違ってちょっぴり心配そうな顔をしていた。

私ができそこないだからだろう。

「私、頑張ってみる!」


食べ物を集めるのは得意だ。

寝床になりそうなところを探すのもモクよりもずっとセンスがいい。

モクはほっとくと、どこででも寝てしまう。


────


そうしてあっという間に独り立ちの日になってしまった。

お父さんとお母さんは洞窟の前で「いってらっしゃい」と言った。

モクと私は「いってきます!」と言って洞窟を出た。


モクは北に向かうと言って走って行ってしまった。

私は少し悩んで、あの大きな岩に向かった。

穴からノートを引っ張りだした。

そしてさらに奥にまだ何かあるのが見えた。

小さなポシェットとお母さんのスマホが出てきた。

お母さんはときどきゲームをしたり、動画をみせてくれたりしていたっけ。


さすがに充電が切れているかなと思ったけれど、スマホはすぐに起動した。

充電のところはいつもなら○○%となっていたのに、今は『∞』というマークになっていた。


試しに履歴にあったお父さんに電話をかけてみた。

『お客様のおかけになった電話番号は…』というアナウンスが流れてまったく繋がらなかった。

110や119なんかもかけてみたけれど、まったく通じなかった。

この世界の警察や消防は違う番号なのかもしれない。


私はとりあえずポシェットを肩に下げてその中にノートとスマホを入れた。

そして今自分が裸であることに気がついた。

いつもはまったく気にならなかったのだが、ポシェットをつけた途端に変だと気がついた。

森の中に服屋さんなんてないし、そもそもお金がないから買うこともできない。


私は急に恥ずかしくなった。

とりあえず大きな葉をツルに通して体に括りつけた。

アニメでみたターザンのようだった。


私は家族にこんなヘンテコな姿を見られたくなくてその場から逃げるように走り去った。


────


道中で美味しそうな果物をみつけて食べたり、魚を捕まえたりしながらあてもなく進んだ。

暗くなる前に寝床になりそうな洞穴を見つけた。

今日は無理せずにここで夜を明かそうと思う。

お母さんが私に火付け石を持たせてくれた。

寒くなったら焚き火をしなさいと言われた。

魔物は火を嫌うから家では火を使っているのを見たことがない。

お母さんは私が人間だからくれたんだ。

今は春だからそんなに寒くはない。

火をつけるのはまた今度にしよう。


月明かりでぼんやりと明るかった。

疲れているはずなのになぜか眠りにつけなかった。

そういえばいつもモクが隣にいて、一人で眠ることなんて一度もなかった。

私は悲しくなって、泣きだしてしまった。

みんなに会いたい。


私はスマホを取り出して何か気を紛れさせようと思った。

そこには私がお気に入りの着せかえのできる可愛らしいアプリがあった。

お母さんがアバターを私そっくりに作ってくれたっけ。


アプリを開くと見慣れた姿が現れた。

『お久しぶりね!レイちゃん!』

この子には『マユちゃん』という名前をつけていた。

マユちゃんはいつも決まった言葉を喋る。

「今はレイちゃんじゃなくて、ソラって言うんだ。」

返事がないのはわかっていたけれど、私はマユちゃんに向かってそう話しかけた。


『ソラ!いい名前だね!』


マユちゃんはにっこり笑ってそう私に言った気がした。

マユちゃんは着せかえができるだけでお話はほとんどしなかったはずだ。

私はスマホの中のマユちゃんを睨みつけた。


『何を変な顔をしているの?それにその葉っぱは何?ひどい格好をしているわね。』


マユちゃんは首を傾げてそう言った。

私は驚いたけど何年も経っているのでアプリが進化したんだと気がついた。

「この世界にはお洋服がないの。」

『そうなの?!マユのお洋服をあげるわ!どれがいいか選んで。』

そう言われて私はマユちゃんのクローゼットをタップした。

見覚えのある可愛らしい服がたくさん並んでいた。

「私のお気に入りはこれよ。」

私はマユちゃんを着せかえるときのように服を選んだ。

いつもならこれでマユちゃんの洋服が選んだものに変わる。

『本当にソラはこの服が好きね!いいわ!じゃあ着せてあげる。』

アプリの中のマユちゃんは私と同じようにスマホを持って操作していた。

次の瞬間、葉っぱだった私の服が可愛らしいピンクのワンピースに変わった。


「えっ?!なにこれ?!」


スマホの中のマユちゃんは満足そうにこちらを見ていた。

数年で進化してこんなことまでできるようになったのかな。

『でも寝るときはパジャマがいいんじゃないの?』

「あぁ、確かにそうだね。」

私がそう返事をすると目の前に見覚えのあるパジャマが出てきた。

『ワンピースはまた明日着ればいいわよ。』

私はそう言われてパジャマに着替えた。

一緒に下着もあった。

久しぶりに清潔な格好をしたことに気がついた。

なんて気持ちいいんだろう。


『まさか地面の上に寝るつもり?!』

マユちゃんはこちらを見ながら悲鳴のようにそう言った。

「そうだけど。」

マユちゃんは首を降って「ありえないわ」とつぶやいていた。

そして目の前にはふかふかのお布団のついたベッドが現れた。

「えー?!そんなことまでできるの?!」

『マユちゃんにおまかせあれ!』

スマホの中でマユちゃんはニコニコ笑っていた。

「ありがとう。」

私はすぐにお布団に包まれた。

ふかふかでいいにおいがする。

すぐに目を閉じてしまった。

どこかから『おやすみ』と聞こえた。


────


ぐぅーというお腹の音で目が覚めた。

外はすっかり朝になっていた。

スマホを見ると8時を過ぎていた。

そしてマユちゃんがこちらを睨んでいた。

『お寝坊さんね!早く顔を洗ってらっしゃい!』

私はそう言われて近くに水場がないことに気がついた。

お父さんに水場は常に確保するようにって言われていたのに。


「近くに川がないか探さないと。」

私がそう言うとマユちゃんは『やれやれ』と言って洗面器を出してくれた。

そこには温かいぬるま湯が張ってあった。

「マユちゃん何でもできてすごいね!」

私はありがたくそれで顔を洗って、マユちゃんがタイミングよく出してくれたタオルで顔を拭いた。

そして昨日のピンクのワンピースに着替えた。


『似合ってるわよ!靴も履いてみて!』

マユちゃんは白いソックスと真っ赤な靴を出してくれた。

「すてき!」

私は嬉しくなってクルクルと回って見せた。

マユちゃんは満足そうにこちらを見ている。

「これで朝ごはんもあれば最高なのに。」

私はポシェットから昨日採った木の実を出して食べ始めた。

美味しくはないけれど栄養がたくさんあるんだって。


『リスみたいなご飯ね?他にはどんなものを食べているの?』

私はマユちゃんに普段の食事や生活の話を聞かせた。

するとマユちゃんは泣きだしてしまった。

『なんてひどい仕打ち…』

「そうでもないよ。それなりに楽しくやっているよ。」

『今1番食べたいものは何?』

私はそう聞かれて即座に「チョコレート!」と叫んだ。

入院中はあんなに大好きだったチョコレートを食べたいと思えなくなっていてほとんど食べていなかった。

今なら虫歯になるほど食べられる気がする。

マユちゃんは『まかせて!』と言って目の前に私の一番好きなイチゴのチョコレートを出してくれた。

「わぁ!!」

私は夢中でそれを食べた。

甘酸っぱくて、なんて美味しいんだろう。


私は食べ終えて、『これは夢かも』と思い始めた。

こんなに思い通りに何でもスマホから出てくるわけがない。

それでもいいやと思い、どうせならとまたベッドに入った。

夢が覚めるまでこの気持ちよさを感じていたい。

私が目を閉じるとスマホの中からマユちゃんが叫びだした。


『ちょっと!!昼寝には早いんじゃないの!!』


私はなかなか覚めない夢に不安を感じだした。

もしかしたらまた死んでしまったのではないか?

スマホを見ると9時ちょっと前だった。

『もうお布団は終わりよ!』

マユちゃんがそう言うとベッドが消えて、私は地面にドスンと落ちてしまった。

「いてて…」


『仲間をみつける旅なんでしょ?』

「ちょっと違うよ。新しい家族を作るために結婚してくれる人を探す旅だよ。」

なんでマユちゃんがそんなことを知っているのか不思議に思ったけど私はそう答えた。

『結婚?!ソラはまだ5歳でしょう?無理よ!無理無理!』

マユちゃんはスマホの中で笑っていた。

確かに魔物の5歳と人間の5歳では違う気がする。


『とりあえず人間を探してみたら?まさか魔物と結婚するわけではないでしょ?』

「えっと…」

私は何も考えてなかった。

同じ種族の異性と、ってお父さんは言っていた。

ということは私は人間を探さないといけないということか。

「人間を探します。」

私は立ち上がり土埃を叩いて落とした。

今までそんなこと気にしたことなかったけれど、かわいいお洋服が汚れているのは気持ちのいいものじゃなかった。


私はその場でにおいを嗅いでみた。

モクはよくそうやって獲物の位置を探す。

特別なにおいはしない。

近くに人間はいないだろう。

私は洞穴を出て歩きやすい場所を適当に進んだ。

久しぶりに靴を履いたのでなんだか変な気分だった。


ポシェットの中でマユちゃんが叫んでいた。

「マユちゃんどうしたの?」

『私も景色が見たいのよ!』

マユちゃんはそう言うとスマホを首から下げるアイテムを出した。

「ブラブラして邪魔だよ。」

『なによ!ひどいわね!私だって旅を楽しみたいのよ!』

マユちゃんはもっとおとなしくていい子だと思っていた。

本当はよく喋るわがままな女の子だったんだな。


マユちゃんはよく話しかけてきた。

森の中はマユちゃんにとってとても新鮮なようでいろんなものを見たがった。

『それで、どこに向かってるのかしら?』

「えっと、人間がみつかるまで歩こうかなって思ってるけど。」

私がそう言うとマユちゃんは怒りだした。

『なんて計画性のない子なのかしら!』

そしてスマホに地図アプリがあるのを教えてくれた。


アプリを開くと画面いっぱい緑だった。

縮小してみるとここは『アウルの森』という名前がついていた。

アウルの森はかなり大きいらしく永遠に続いているのではないかと思わせた。


「あっ!村って書いてる!」

ここから南東に進むと小さな村があるようだった。

地図を閉じるとマユちゃんが待っていた。


『いざ行こう!バンの村へ!』


こうして私とマユちゃんのヘンテコなコンビの旅が始まったのである。


────

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