ep.25
魔王は消えた。
真っ黒になっていた人や大地もすべて元通りになっていた。
すべてが解決したように思えた。
『ソラ?!どこなの?!』
地面に転がったスマホからマユちゃんの声が響いた。
そのスマホをヨロヨロと歩いてきたマキナさんが拾っている。
「ソラ?ソラ?!!」
マキナさんはキョロキョロと辺りを探し始めた。
(私はここだよ)
いくら叫んでもみんなに届くことはなかった。
マユちゃんは狂ったように「ソラがいない!」と叫んでいた。
(マユちゃん、泣かないで、私は大丈夫だよ!ここにいるよ!)
私はいったいどうなってしまったのか。
────
「ソラのにおいがする!」
ルナが私をみつめていた。
(ここだよ!)
声はどうやっても届かなかった。
マキナさんが私を持ち上げて観察している。
「これが?ソラだって言うの?」
マキナさんは私をいろんな角度から観察しているようだった。
マキナさんの首にかけられたマユちゃんが消えそうな声で言った。
『それは…ソラの中にあった闇だわ。』
「闇?」
マキナさんは私を学園の中に連れて行った。
外では引き続き行方不明者の捜索が行われているようだった。
「マキナ!」
おばあさんの声がして、おじいさんの声もした。
(二人とも!無事だったのね!)
私の声は二人にも届かなかった。
「ソラがいないの。」
マキナさんはおばあさんに抱きついた。
「ごめんなさい。私が守るって…約束したのに…」
おばあさんは優しくマキナさんの頭を撫でた。
「ソラは強い子だよ。きっと大丈夫。」
おじいさんは私を持ち上げて不思議そうな顔で眺めていた。
「ソラの中にあった闇だってマユが言うの。それにルナがそれがソラだって。ソラのにおいがするって。」
「ほう、それは一大事のようですな。」
「ソラ?その中におるのか?返事はできるかの?」
おばあさんは大声で私に話しかけた。
(返事?何かできないかな?)
私は外に向かってありとあらゆる魔法を使ってみた。
とは言ってもこの中に私の姿はないようだった。
私はここに意識しかないことに気がついた。
だから喋ることも動くこともできない。
私は死んでしまったのかもしれない。
悲しい気持ちになったとき、おばあさんが言った。
「冷たくなった。」
みんなは私を触って確かめている。
「ソラ、この中にいるんだね?大丈夫だよ。きっと私たちがそこから出してあげましょう。」
おじいさんは優しくそう言った。
私はみんなを見た。
みんなが心配そうに私を見ている。
不思議と心が落ち着いた。
「温かくなった!」
おばあさんが嬉しそうにそう言った。
「ソラが反応してるんじゃよ!きっとそうじゃ!」
おばあさんは私を抱きしめた。
「わしらがなんとかするでな。」
────
スマホはおじいさんが持つことになった。
1番扱いに慣れていた。
マユちゃんはあの闇の四角い箱について知っていることをみんなに話した。
とは言っても、私もそれが本当は何なのかも、どうして私の中にあるのかも知らない。
マユちゃんも当然同じで、みんなは話を聞いても謎が謎を生んだだけだった。
おじいさんは回復魔法をかけてみたりしたが、何も変化はなかった。
私は司祭のところへ持ち込まれ、司祭は祭壇に私をのせて、何やらお祈りを始めた。
小一時間みんなは教会で手を合わせていたが何も起きなかった。
みんなは私を連れて家に帰った。
マキナさんは後片付けがあると言って騎士団の仕事に戻って行った。
「何か変化があったら私にも連絡してね。」
マキナさんは立ち去る前に私にも手を置いて、「諦めないでね」と言った。
────
おばあさんはいつもどおりの生活をしていれば懐かしくなって私が出てくるんじゃないかと言った。
小麦を育て、パンを焼き、村の人たちとおしゃべりをした。
みんなは「ソラはどうした?」と聞いてきた。
「ソラは学校に行った。」とおばあさんはみんなに言った。
確かに最後に行ったのは魔法学園であった。
本来であれば、私くらいの年齢になるとあそこで魔法の勉強をしているはずだった。
みんなは何の疑問にも思わず、「寂しくなったね。」と言った。
メルクも例外ではなく、いつものようにパンやケーキを買いに来た。
「あんなことがあって私も落ち込んでいました。世界が滅亡するんじゃないかって。でも助けられた。ブウ様やビル様のお力あってこそでしょう?」
「いいや、わしらは何もしとらん。」
「ソラ殿ですね?ソラ殿には不思議な力があると感じておりました。」
メルクはおばあさんの手を取り、「ソラ殿に感謝をお伝えください」と言って、いつものようにたくさん買って帰って行った。
おばあさんは私をみつめ、涙を流した。
「ソラ、クソガキがありがとうだとよ。」
私はおばあさんの涙を拭くこともできず、ただただ悲しかった。
「冷たくなったのお。悲しまないでおくれ、ソラよ。」
おばあさんは私を優しく撫でた。
そして私は何もできないまま、時間だけが過ぎていった。
────
私は王都にある研究室に連れられてきていた。
偉い学者の先生たちが私を研究したいと言い出したのだ。
おばあさんは反対したけれど、「もしかしたら何かわかるかもしれない」とおじいさんに説得されて、みんなで研究室に来ることになった。
「中にソラがおるんじゃ!手荒なことをしたら許さんぞ!」
「承知しております、ブウ様。」
学者たちはビビりながら私を観察した。
大きさや重さ、温度を測った。
「感情があるんじゃ。冷たくなったり温かくなったりするぞ。」
「まるで生きているようですね!」
学者の一人がそう言うと、おばあさんに叩かれていた。
「ソラは生きとる!」
学者は謝り、その変化を観察した。
私はそのやり取りが面白かった。
「本当です!温度が上がりました!」
おばあさんは「そうじゃろ」と言って私を撫でた。
私はその後も突かれたり、光を当てられたりした。
一向に変化はなく、学者たちも諦めに入った。
「数日後、何か変化がないか調べましょう。大きくなっていたり、重くなったりするかもしれませんし。こちらでデータを精査しておきます。」
おじいさんはがっかりして私をみつめた。
「ごめんなさいね、ソラ。もう少し我慢してくださいね。」
────
『天使ならどうにかしてくれないかしら?』
マユちゃんが唐突にそう言い出した。
「天使?」
『そうよ、天使は不思議な力を持っていたわ!あれは魔法じゃないと思うの。』
ルキナのことを言っているのだろう。
マユちゃんはポシェットから私のノートを取り出すようにおじいさんに言った。
おじいさんはノートを取り出した。
『7ページ目を見て。』
そこには『てんしに会いたい』と書かれている。
「ソラの世界にも天使がいたのかい?」
おばあさんは不思議そうにノートを眺めた。
『天使は想像のものだったわ。物語に出てきたりはしたけどね。後ろの何も書かれていないページをめくってみて。』
マユちゃんがそう言うと、おじいさんはペラペラとページをめくった。
「これは…」
中から折りたたまれた1枚の紙が出てきた。
女の子が二人と天使が描かれていた。
(アミちゃんが描いた絵だわ)
『ルキナという天使はその絵にそっくりだったの。きっと何かあるんじゃないかしら?』
みんなはその絵をみつめた。
ニッコリと笑っている姿が描かれている。
おばあさんは絵の中の私を愛おしそうに撫でた。
「何もしないより、してみましょう!」
おじいさんは立ち上がりテーブルを叩いた。
おばあさんはビクッとしておじいさんを見た。
そして絵を畳んでノートに戻した。
「天使を探すんだね。」
そうして二人は王都に向かった。
図書館で天使を呼ぶ方法を調べるというのだ。
────
こちらの世界でも、天使は物語にはよく出てくる。
しかし実際に会った人はみつからなかった。
司祭に話を聞いてもそれは同じで、神様の元にいるので地上には降りてこないのでしょう。と言うだけだった。
二人は諦めずにいろんな文献を探した。
そして教会にやって来てお祈りをした。
「どうかソラをお助けください。」
二人はいつものようにパンを売ったり、怪我をした人の治療をしてから、王都に来ては調べものをして教会で祈りを捧げた。
そしてある日、おばあさんは私のノートを教会に持ってきていた。
「本当に天使なんかおるんじゃろうか?」
ノートからあの絵を取り出して広げて見ていた。
すると教会の天井が光りだした。
教会の中にはおばあさんとおじいさんしかいない。
「ブウ、何か来るぞ!」
おじいさんは叫んで天井に向かって杖を向けた。
「失礼しちゃうわ。天使に勝てるとでも思っているのかしら?」
そこには美しい羽を広げた美しい人がいた。
おじいさんとおばあさんは言葉を失っていた。
ただ目の前にいる光り輝くその姿に圧倒されていた。
「説明してもらおうかしら?なぜあなた方がそれを持っているのかしら?」
その人はまっすぐにおばあさんを指差した。
おばあさんは視線を落とし、絵を見た。
「これのことじゃろか?」
震える声でそう言うと、その光り輝く人はこう言った。
「私は天使ルキナ。その絵を描いた本人よ。」
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