ep.24
ほんの数日だったのに、懐かしく感じた。
おばあさんは魔王がちゃんと呪いを解いてくれていたようだった。
マキナさんは安心して1度騎士団に戻ると言って出ていったそうだ。
すぐに帰ってくると言っていたそうなのでそのうちここに来るだろう。
私はあのときみんなをここに送ったあとの話を細かく聞かせた。
ショウさんを紹介したときにはとても驚いていた。
魔王と同じ顔をしていたからだ。
「確かにあの魔王が現れたのは20年くらい前だから間違いではないかもしれないですね。」
おじいさんはスマホの中のショウさんを不思議そうに見ながらそう言った。
「ルナは手に負えないと言ったんじゃな?」
「うん、多分、操るには力が強すぎるっていう感じの言い方だった気がする。」
立派な角の生えたルナは、さっき出会ったモクより少し小さいくらいで遜色なく見える。
「いつ魔王が来るかわかりません。次は絶対にソラを渡しません。」
おじいさんがそう言うとおばあさんも頷いた。
「ごめんなさい。私のせいでみんなに嫌な思いをさせちゃって。」
私が申し訳なさそうにそう言うと、
「何言ってるんじゃ、家族を守るのは当たり前のことじゃよ。」
おばあさんは言って、私の頭を撫でてくれた。
────
私はウサギのノートを開いていた。
7ページ目には、
『てんしに会いたい』
と書かれている。
私が想像していたシチュエーションではなかったけれど、私は天使に会うことができた。
白い服を着て、美しい羽が生えて、想像していたとおりの姿だった。
もっと優しくて、柔らかい感じだと思っていたけれど、意外と強い感じだったのは想像と違った。
あの天使はどうしてあそこにいたんだろう。
魔王に捕まっていたのは確かだろうけど、仲間が助けに来たりしなかったのかな。
あの天使も魔王にとって大切な人だとしたら、きっとすごく怒っているんだろうな。
私は魔王が怒り狂って『皆殺しだ!』と叫ぶ姿が目に浮かんだ。
このままみんなを巻き込むのはよくない気がしてきた。
「ソラ!?」
家のドアがバーンと開いて、そこにはマキナさんがいた。
マキナさんは私をギュッと抱きしめると「よかった」と何度も行った。
「報告を聞きたいところだけど、魔王が来るかもしれません。すぐに移動願います。」
マキナさんは副団長モードで私たちにそう言うと、いつもの人が家の前に扉を出した。
私たちは急いで扉をくぐり抜けた。
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抜けた先は城でも街でもない、なんだかとても美しい庭園だった。
「ここは…魔法学園の中じゃね。」
おばあさんは懐かしそうにあたりを見回していた。
それはおじいさんも一緒だった。
かつて二人が先生として働いていた場所なのだろう。
「確かにここはどこよりも安全対策が整っているのでありますな。」
魔法学園は地図にも載っていない、必要な人にしか来られない場所なのだとおじいさんが教えてくれた。
「魔王討伐軍が組まれました。各国から軍が向かっております。お父さんとお母さんにも加わっていただきたいです。」
「もちろん、わしらでよければ戦うぞ。しかしソラを置いてはいけない。」
「私も行く!」
「ソラ、あなたはまだ小さい。だけど作戦にはあなたが必要なの。怖いかもしれないけど手伝ってくれますか?」
「うん!」
おじいさんたちは最後まで私を心配していたが、マキナさんに説得されて騎士の人に案内されてどこかに行ってしまった。
私はマキナさんに手を引かれて違う場所に連れて行かれた。
そこには髭の騎士団長がいた。
「ソラくん、大変だったね。話は副団長から聞いてます。」
「はい、あの、いいえ。」
「天使に会ったと聞きましたが、本当ですか?」
「はい、天使ルキナと言ってました。」
「ルキナ…そうですか。彼女は元気だったのですね。」
「羽が折れていたので治してあげました。そしたら魔王城から出してくれました。」
「そうですか。それはよかった。」
騎士団長さんはルキナのことを知っているような感じがした。
だけど、それ以上天使の話をすることはなかった。
「ソラくん、君には申し訳ないのだが、君には囮になってもらうときが来るかもしれない。」
「はい。」
魔王が私を探しに来るのだから仕方がない。
しかし私の中に溜めていた闇はすべてあの水晶に入れたと思っていてくれるならば、私はそんなに必要ない気もする。
私は魔王城の地図上の位置を教えたが、やはり草原で、地下へと続く何かは発見されなかった。
特別な魔法がないとあの場所には行けないのかもしれない。
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私は学園の庭園が見渡せる2階のテラスにいた。
騎士団の人たちが続々と集結していて、隊を成してどこかへ向かっていく。
魔法使いらしき人たちもそれに混ざっていた。
作戦はわからないけれど大事な場所に配置をするのだろうとマキナさんは言っていた。
森へ偵察に行っていた騎馬隊が大急ぎで帰って来た。
「黒いものが現れました!」
きっと誰かが種を植えつけられて化物になってしまったのだろう。
魔王はきっともっと増やしたいはずだ。
私が行かなければ闇はどんどん広がるだろう。
しかし私は呼ばれなかった。
闇を見張り、魔王が現れるのを待つという作戦だという。
たくさんの魔法使いがその森へと派兵されていった。
────
「ソラ、私は負傷者が出たときの救護者として森に行くことになった。ブウも貴重な戦力らしいから一緒に行く。お前をここで守れないのは残念だけど、きっとここにいる方が安全だよ。
ソラとルナのことはマキナに頼んだ。」
「私も前線に行きたかったのだけど。ソラは私が守るわ。お父さん、お母さん、自分の命を何よりも1番に考えて行動してね。」
「なんじゃいそりゃ、それが兵士の言うことか?」
おばあさんは笑いながらマキナさんの顔を撫でた。
そしてたくさんの人たちが森へと向かっていった。
これだけの人たちがいれば魔王をも倒せるかもしれない。
完全復活する前の今が最大のチャンスだろう。
「ショウさんは魔王が倒されても悲しくない?」
『うーん。僕の一部だったから、微妙な気持ちにはなるだろうね。僕の中の嫌な気持ちを全部持っていってくれたわけだから、僕としても彼には感謝しないといけない部分もあるんだ。』
ショウさんが今こうやって普通の精神状態でいられるのは、あの時、あの感情が分離してくれたおかげだということか。
あのままショウさんが大人になったら、もしかしたら犯罪者になってしまったかもしれない。
医者という道を選んだのも、あのときの気持ちの反動かもしれないとショウさんは悲しそうな顔で言った。
そんなことをぼんやり考えていると遠くの空が暗くなっているように見えた。
森へは転移の扉を使ったので、もうみんなは到着しているはずだ。
私は心がざわざわとした。
みんな無事でいてほしい。
────
「魔王がこちらに向かってきているそうてす!」
伝令の人が叫ぶとまわりがザワザワとした。
「ソラ、私は前線に行かないといけなくなるかもしれない。最後の最後まであなたを守ろうとは思っているけれど、それだけは頭に入れておいて。」
「私のことは気にしないで。大丈夫だよ。」
空がだんだん暗くなってきた。
私は深呼吸をした。
魔法や魔力では魔王に勝てる気はしない。
しかし私は闇を統べる者だ。
闇においては魔王より上であるという自信が私にはある。
私は杖を空に向けた。
空を暗くしようとする闇は漂うことを許されずに私の杖へと吸収されていく。
どんなに吸収しようとも、あの小さな箱は溢れなかったし、壊れもしない。
そして魔王はその姿を見せた。
『許さない。みんな死んじゃえばいいんだ。』
魔王は虚ろな目をしていた。
明らかに我を失っている。
『様子がおかしいね。ソラちゃん、気をつけてね。』
「うん。」
魔王は闇をまとい、こちらにまっすぐ向かってくる。
その間に魔王を倒そうと騎士団や魔法使いたちが挑んで行った。
魔王に触れることなく、その人たちは真っ黒なベタベタした何かに捕まり、動かなくなった。
通ってきた道は真っ黒になり、それはさらに広がって行くように見える。
闇はすごいスピードで増殖していた。
マキナさんは魔王に向けて何か鋭い魔法を放った。
しかしそれは魔王に当たる前に花火のように弾けて消えた。
魔法が効かないと察したのか、マキナさんは剣を抜いて魔王に突進していった。
そして剣が魔王に触れると、マキナさんは一瞬で真っ黒になった。
そしてその場に崩れ落ちるように倒れてしまった。
「マキナさん!!」
魔王は「殺す。みんな殺す。」とブツブツ言いながら私の目の前まで来た。
魔王は壊れたからくり人形のようだった。
全身を闇で覆われ、闇に支配されてしまったようだ。
私は魔王に杖を向けた。
勝てるなんて思えないけれど、今はどうにかこの壊れた魔王を倒すしかない。
「みんな死んじゃえばいいんだ。」
子供のような喋り方で魔王はそう繰り返していた。
『僕がそこに、いる。』
ショウさんはそれだけ言って泣いているようだった。
かつて、あのゴミだらけの部屋の隅っこで泣いていたあの少年がそこにはいた。
私は杖をおろした。
この子は大声で叫んでいるんだ。
叫んでいるのに誰にも届かない。
『たすけて!誰か、たすけて!!』
私はそのまま魔王を抱きしめた。
「みんな、みんな死んじゃえ!」
魔王は暴れながらそう叫んだ。
「もう大丈夫だよ。私があなたを助ける!」
私は力の限りきつく魔王を抱きしめた。
暴れていた魔王はだんだん動かなくなった。
闇はものすごい速さで私に吸収されていく。
四方八方から私の中へと入っていく。
魔王はだんだん小さくなっていった。
苦しそうに歪んでいた表情が少しずつ緩んでいく。
そしてあの時の少年が私の腕の中にいた。
汚れた格好でやせ細ったガリガリの少年がそこにいた。
少年は私を見た。
「君は天使?」
私は違うよ、と言おうとした。
しかし言う前に少年はキラキラとその姿が薄くなっていった。
私は驚いて「消えないで!」と言ったが、少年は笑って、
「ありがとう。」
と言うと小さな光の粒となって私のスマホへ入っていった。
そしてショウさんと一緒に消えてしまった。
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