ep.20
おじいさんもおばあさんも何もない素振りをしていたけれど、私を見る目がなんだかおかしい。
心配そうにみつめていることもある。
パン屋さんはいつものようにお客様がたくさん来るようになった。
おじいさんも風邪を引いたという子供に治癒魔法をかけてあげたりしていた。
いつものような穏やかな時間が流れているように見えた。
しかし私にはなんだか違和感がある。
きっと角の生えた男のことで私を心配しているのだろう。
真っ暗闇で見た、あの真っ白な腕はきっとその男のものだ。
確かに私を呼んでいた。
暗くて、冷たくて、堕ちていきそうなほどの闇だった。
私を化物にしてどうするつもりだったのだろうか。
奴隷にして働かせるつもりだったのかな。
私が植えた米の芽が出ていた。
もう少し育ててから水田に植えることになる。
このお米がとれる頃、私はどうしているかな。
みんなで笑いながら真っ白なご飯を食べられるといいな。
────
数日後、マキナさんがやって来た。
「さっそくだけど、ルナの正体に目星がついたわ。ルナは聖獣だと思うわ。」
ルナはキョトンとしていた。
「やはりそうでしたか。絶滅したと思われてましたよね。」
おじいさんは本でその姿の絵を見たのだという。
「珍しい生き物の生き残りってこと?」
「聖獣は神が地上に使わせた聖なる使者だと言われているの。悪に立ち向かう聖なる存在よ。」
「ルナ!すごいね!神様に会ったことある?」
「神様なんて知らないのです。」
「そして角の生えた男のことだけど…魔王であると推測されたわ。」
「えぇ?!」
驚いているのは私だけだった。
「滅びたのではなく、潜伏してたんじゃな。」
「そのようですな。」
おじいさんもおばあさんもわかっていたような話し方だった。
「魔王は復活するために闇のエネルギーが必要なんでしょう。それでルナを使って闇のエネルギーを増やそうとした。」
「私を魔王と間違ったのはどうして?」
「きっとソラからなんらかの闇のエネルギーを感じ取ったんじゃろ。もしくはソラを捕らえるように命令されていたか。何にせよ、正気じゃなかった。なんらかの力の影響でおかしくなっとったんじゃろ。」
おばあさんがそう言うとマキナさんも頷いた。
「闇のエネルギーが必要なのはわかったんだけど、私は闇のエネルギーを出せないよね?吸うことはできるけど。」
「そうなのよね、そこがわからないのよ。ソラにはまだ何か秘密があるのかもしれないと考えているわ。魔王しか知らない何かがあるんじゃないかって。」
みんなは私の顔を見た。
「何も隠してないよ!!」
「わかっておるわい。自分でも気がついていない何かがあるじゃろって話じゃよ。」
みんなは驚いている私を見て笑っていた。
「まだまだ不明な点が多いのでソラはできるだけ単独行動はしないように。ルナがその男と出会った森には絶対に近づかないようにお願いしますね。」
「わかりました。」
マキナさんはその話をしたらすぐに帰ってしまった。
私は隠された自分でも気がついていない何かが気になった。
魔法はいろいろ試してみた。
闇属性のもの以外は。
やはり闇属性の何かなんだろう。
私はスマホのスキルの画面を見た。
【闇を統べる者(全能)】
他のスキルはどんなときに使うといいとか説明が付属されているものもある。
しかし珍しいものには説明が書かれていない。
このスマホが何と連携しているのかわからないけれど、この仕組みを作った人もわからないのだろう。
「ねぇ、マユちゃん。このスマホってなぜこの世界にあるんだろう?ノートは私の物だからわかるけれど、スマホはお母さんの物でしょう?」
『そう言えばそうね。棺に入れてくれたとは考えにくいし。そこまでスマホに執着もなかったわよね?』
「うん。ときどき貸してもらえて嬉しかったくらいだよ。お母さんが天国でも困らないようにって持たせてくれたのかな。」
『多機能だものね。電話もネットもカメラも、って。』
すごく助かっているのだけれど、よく考えると謎だった。
お母さんがどう思っていたのか知りたい。
────
私は私の謎を解こうと、日々自分のことを注意深く見ている。
みんなも同じで私に何かないか観察しているようだった。
ルナの角は急に伸びてきて、黙っていても白い角が少し見えるようになった。
魔王はルナが聖獣だと知っていて黒いものを植えつけたのかな。
大きくなる前に服従させておけば敵にならないと思ったのかな。
一向に謎は解けないまま、月日だけが過ぎていった。
私は育った苗を水田に植えて、稲はすくすくと成長していた。
おばあさんが魔法で成長を促そうかと言ってくれたのだけれど、最初だけでも普通に育ててみたいと断った。
魔法は便利だけど、使いすぎると味気ない気がする。
ルナがうちに戻ってから、黒い化物は現れなくなった。
魔王はどうやら自分ではあの化物を生み出せないようだった。
誰かに手伝ってもらわないと黒いモヤの種を植えつけられないんだ。
新しい下僕をみつける前に私の謎が解けるといいんだけど。
────
平和なまま時は流れた。
私の育てていた稲の刈り取りのときが来た。
おじいさんもおばあさんも手伝ってくれるという。
マキナさんも休みを取ってわざわざ来てくれた。
一家総出の稲刈りになった。
小さな水田だったからすぐに終わってしまった。
刈り取られて束にされた稲は乾燥させてからもみ殻を外すんだって。
だから今日の作業はここまで。
「早く食べでみたいわね!ソラ、ここまでよくがんばったね。」
マキナさんは久しぶりに畑仕事をしたのだという。
「魔法に頼らずに立派に育ておったわい。師匠がいいからじゃね。」
「マキナは剣はうまく使えるのに鎌の扱いは下手でしたね。」
「鎌で戦えって言われたらきっとうまくできると思うわ!」
みんな楽しそうだった。
すごく嬉しかった。
「あのね、みんなありがとう。みんなは私の大事な家族です。一緒にいてくれてありがとう。一緒に笑ってくれてありがとう。」
私がそう言うとみんなはうるうるの目になった。
「いい家族ですな!」
みんな笑顔になった。
私はノートのことを思い出した。
『かぞくをえがおにしたい』
私はこれは叶ったと思った。
みんなのおかげで私の願いがまた一つ叶った。
すごく幸せな気分だったのに、空は急に暗くなった。
「雨でも降るのかしら?」
「早く家に入ろう。」
私たちは急いで家に入った。
入ると中に誰かがいた。
「楽しそうでしたね、みなさん。私も混ぜてくださいますか?」
マキナさんは咄嗟にみんなの前に出た。
「魔王!!」
おじいさんもおばあさんも杖を向けた。
ルナは魔王の足元に転がって動かない。
「ルナ!!!」
私が近寄ろうとしたがおばあさんに腕を掴まれた。
「子猫ちゃんは邪魔なので眠ってもらいましたよ。」
「魔王、何をしに来た?!ソラは渡さないよ!!」
マキナさんは魔王めがけて光る何かを飛ばした。
魔王は指でそれを弾いた。
「私も舐められたものですね。そんな魔法は休憩中の私にすら通じませんよ。」
おじいさんはジリジリと後ろに下がるようにおばあさんと私を後ろに押した。
逃げた方がいいということかもしれない。
緊迫した状況の中、魔王だけが楽しそうだった。
マキナさんは魔王に飛びかかった。
「みんな!逃げて!!」
「マキナ!!!」
魔王は座っていた椅子ごとマキナさんに倒された。
おじいさんはおばあさんと私を掴んで家の外に出ようとした。
おばあさんはおじいさんの手を振り切り、マキナさんを掴んで玄関の方へと飛ばした。
その瞬間、魔王の目は真っ黒に光り、黒い刃がおばあさんめがけて飛んできた。
「お母さん!!!!」
おじいさんは叫ぶマキナさんを掴むと空に飛び上がった。
おじいさんはそのまますごいスピードで飛び続けた。
「いやぁぁぁーーー!!!!」
マキナさんはずっと泣き叫んでいた。
私は何が起きたのか理解できなくて思考が止まっていた。
さっきまでみんなと笑っていたのに。
黒い刃が…
おばあさんが…
おじいさんは前に来た廃墟まで飛んできた。
そしてうなだれているマキナさんと私を引っ張るように洞窟に連れて入った。
「ソラ、バリアを頼む。」
私は震えながらバリアを張った。
マキナさんはただ天を見上げ涙を流していた。
誰も何も言わなかった。
言ったらあの地獄のような光景が本当になってしまう。
あれは嘘だ。
夢でも見たんだ。
そう何度も自分に言い聞かせて見ても無理だった。
黒い刃がおばあさんを貫くのを見てしまった。
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魔王はここまで追ってこなかった。
「帰りたい。お母さんのところに。」
「だめだ。」
「助けなきゃ!お母さんを!怪我してるかも!!」
「ブウはもう…生きていないでしょう…」
おじいさんもとうとう泣きだしてしまった。
言葉にするとだめだった。
「そうだ!召喚する!」
私はおばあさんとルナを召喚した。
目の前に血だらけで倒れたおばあさんが現れた。
「お母さん!!!」
おじいさんはすぐにおばあさんに治癒魔法をかけた。
私も修復の魔法をかけた。
何度も何度も。
血は止まって、傷は塞がった。
しかしおばあさんは目を開けなかった。
怖かった。
おばあさんが死んでしまったということを確認するのが怖かった。
マキナさんは動かないおばあさんに抱きついた。
「お母さん!嘘よね!嘘だと言って!!」
後ろで何かが動く気配がした。
ルナは生きていた。
言葉の通りただ眠らされていたようだ。
ルナはすぐに何があったのか察したらしく、何も言わなかった。
おじいさんは手を握りしめ、マキナさんは抱きついたままだった。
私は他に悪いところはないかとおばあさんの体の中を見た。
微かだけどおばあさんの心臓は動いている。
「あのね、おばあちゃんの心臓、かすかに動いているみたい。」
「本当?!」
マキナさんは耳をぴったりと心臓のある部分にくっつけた。
「聞こえないわ…ソラ、本当に生きているというのね?」
「わからない。でも心臓は止まってはいない。」
「生きてますぞ!かすかに、息をしているのがわかる!!」
私たちは心の底から安堵した。
生きていてくれた!
「どうして目を覚まさないの?お母さん!起きて!!」
「魔王の呪いなんだと思うです。」
ルナは黒い刃を見たことがあると言った。
目を覚まさせない呪いがあるというのか。
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