ep.17
私は魔王軍に壊されたお城の姿を思い出した。
立派な塔はポキっと折られてお城の真ん中の部分を潰していた。
それが今では嘘みたいにキレイに直っていた。
街もすっかり以前と同じだった。
マキナさんが言うには、王都には力のある魔法使いが多いから復興も早かったんだって。
キレイになった王都を私はキョロキョロしながら歩いた。
おばあさんはマキナさんに会うことを秘密にしていた。
本当は近いうちに私を王都に連れてきてほしいって頼まれていたんだって。
「あの屋敷についてから決めたんじゃから仕方がないじゃろ。」
ラッセルさんに伝言を頼んでいたんだって。
本当にびっくりしたわ。
「ソラには明日研究室に来てもらいたいの。ソラの話を聞きたがっている学者の先生たちがたくさんいるわ。お願いできるかしら?」
「私で役に立つなら。」
「ありがとう。」
そう言ってる間にマキナさんの家についた。
家というか、ビルのような建物の2階がマキナさんの部屋らしい。
「騎士団の寮なのよ。狭くてごめんね!宿屋をとるって言ったんだけどね。」
「そんなもの、もったいない。わしらは床でも寝れるから気にせんでくれ。」
私は枕くらいはほしいなって思ったけど言わなかった。
部屋は十分広くて、居間と寝室と2部屋あった。
ベッドの横に簡易的なベッドが2つ並んでいた。
「演習のときに使う簡易ベッドなんだけど、ないよりいいでしょ。」
私は少し安心した。
「副団長のくせに狭い部屋だね。」
「私が他のみんなと同じでいいって言ったのよ。一人だもんなんてことないわ。」
私は気がついた。
いつもおじいさんがいるから場の雰囲気が和んでいたのだと。
この二人だけにしておくとケンカが始まるのではないか。
私はドキドキしながら二人を見守った。
おばあさんも初めて来たらしく、いろいろチェックしているようだった。
「料理はどこでするんだい?」
「食堂に行けば食べられるわよ。」
「毎日人様に作ってもらってるのかい!」
「演習に行ったら私だって料理くらいするわよ!」
これはまずそうな雰囲気だなと思ったときに、私のお腹がぐぅーっと鳴った。
二人は私を見て笑った。
「ごめんなさい、お昼ご飯も食べていないので。」
忙しくて食べるのを忘れていた。
おばあさんもきっとそうだろう。
「少し早いけど何か食べさせてもらいましょ!」
そして私たちは食堂で美味しいご飯をごちそうになった。
────
二人はいつもケンカになりそうでならなかった。
観察をすすめるとこのやり取りが楽しそうだという結論になった。
寝る前もずっと二人はああだこうだと話をしていた。
結局はとても仲良しだ。
朝になり、私は研究室に連れて行かれた。
到着するなり、私は白衣の人たちに囲まれた。
「少し体を調べてもいいですか?!」
「少しだけじゃよ!本人が嫌がったらやめるんじゃよ!」
おばあさんは白衣の人たちを睨みつけた。
私は立ったり座ったりつつかれたりしながら体を調べられた。
聴診器をあてられたり、なんだか病院で検査をしたときのことを思い出した。
あの時はわけもわからず変な機械に入れられたりして怖くて泣いたっけ。
そのたびにお母さんが手を握って安心させてくれたっけ。
不安そうな顔をしてしまったのか、おばあさんは私の手を握ってくれた。
私は笑顔で「ありがとう」と言った。
「がんばれるかい?」
私は頷いた。
「完全な健康体ですね。」
だって元気だもん。
「吸収した闇はどこにいってしまうのでしょうね?」
「体内に蓄積している様子はないな。」
「分解できるような怪しい器官はないですがね。」
私は謎を増やしただけのような気がしてきた。
「ソラさん、いくつか質問させてください。」
「はい。」
私はそう言われて白衣の人たちに囲まれながら質問に答えた。
どれも明白な答えはなくて申し訳なくなった。
「闇を吸収する呪文はないということですか。汎用性はないということか。」
「魔力をほとんど消費しないとは!いったいどういう仕組みなんだ?!」
「そろそろいいじゃろう?魔力を使わなくても子供なんだから体力は使うわい!気力もそうじゃろ?」
「ブウ様!これは失礼しました。ソラさん、ご協力ありがとうございました!」
夢中になっていた学者さんが我に返っていた。
研究者のお仕事は大変そうだけど楽しそうだなって思った。
「あのね、今の時点でわかったこととか教えてもらったりできますか?」
私は1番偉そうな人に聞いてみた。
「そうですね、特にこれといってわかったことはないのですが、変異者の多くが変異する前に黒い毛の獣に出会ったと言っておりまして。それも人の言葉を話す獣だとか。」
「人の言葉を…」
「記憶があやふやなので実際はわかりませんがね。その獣の捜索も同時に進行しています。他に何かわかり次第報告させますね。」
そして私たちは研究室から出てきた。
おばあさんもピンときているみたいだった。
マキナさんはそれに気がついて私たちを路地裏の人がいないところに連れてきた。
「なんなの?何かあるなら教えて!」
「あのね、私が召喚した子猫がね、人の言葉を話せたの。」
「子猫?黒い獣って聞いたけど。」
「ルナは普通の猫より大きくてね、毛がふわふわで…獣って言われたら獣かもしれない。」
マキナさんはおばあさんの方を見た。
おばあさんは残念そうに頷いた。
「その猫は今どこに?」
「お城に避難するときに別れたの。森に向かったんだと思っていたのだけれど。」
「ソラ、もう一度召喚できないかね?」
「あぁ、そうだね!やってみるよ!」
私はルナを召喚したときと同じように探した。
ルナは森の中ではなく、家の中にいるようだった。
『ルナ、もう一度私のところに来てほしいの。』
『ソラ…あなたとはバイバイしたでしょ。もう行けないのよ。』
そう悲しそうに言うルナは誰かの膝の上にいた。
その人の顔を見ようとすると、わぁぁーーっと黒い何かがこちらに襲いかかってきた。
「キャーー」
私は冷や汗をかきながら悲鳴を上げていた。
ルナを召喚できなかった。
「ソラ?どうしたんじゃ?大丈夫か???」
「ルナは…誰か他の人の猫になっちゃった…」
それが悲しかったのと、怖かったので私は涙が止まらなくなった。
「私のせいだ!」
「ソラ、あの時はあれが一番だと思ったじゃろ。それにルナが望んだことじゃ。」
私はおばあさんに抱きついてしばらく泣いた。
マキナさんは例の扉の人を呼んでくれた。
私たちはその転移の扉をくぐり家に帰った。
「何かあったら連絡するよ。」
おばあさんは私を抱きかかえてそう言った。
扉を抜けるとすぐにおじいさんが待っていた。
おばあさんから私を受け取って抱っこしたまま家に入った。
そしてそのままベッドに寝かせてくれた。
静かにドアを閉めてくれた。
「何があったのですかな?」
「それが、もしかしたらルナが何か関わってるかもしれんのじゃ。」
ドアの向こうの話が聞こえてきた。
ルナはいったい誰といたのか。
私に襲いかかってきたあの黒いものは何なのか。
知りたいけど怖かった。
ルナが何か悪いものだったらどうしようと心配でしょうがなかった。
ママになって、守るって約束したのに。
それなのに私は。
ママ失格だ。
あの事件が落ち着いたときに探しに行けばよかった。
帰りたくなったら帰ってくるだろうだなんて、私に都合がいいだけじゃないか。
考えれば考えるほど、私は後悔と自責の念で押し潰されそうだった。
────
私はウサギのノートを開いていた。
6ページ目にこう書かれている。
『かぞくをえがおにしたい』
私はいつも家族を泣かせる。
心配させて、怖がらせて、悲しませる。
何も変わっていない。
私は生まれ変わっても家族を笑顔になんてすることができないんだ。
闇に飲みこまれそうだった。
感情が一気に爆発して、真っ黒な気持ちが私を覆っていくような感覚がした。
『そうだよ、抗わなくていい。こっちへおいで。』
どこからか男の人の声が聞こえてきた。
それは優しくて甘い声。
真っ暗な世界で唯一見える白い腕。
『さぁ、君はこちら側の人間だよ。』
真っ暗な世界で響く甘い声。
私はその白い腕に向かって手を伸ばそうとした。
「ソラ!!!」
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大きな声と共に私は目を開けた。
そこは真っ暗なんかじゃなくて目の前にはおじいさんとおばあさんがいた。
二人とも泣きそうな顔でこちらを見ている。
「ソラ、何があったんじゃ?」
「ソラ、私たちがわかりますか?」
二人とも何を言っているのか。
「どうしたの?二人ともそんなに慌てて。」
「だってお前、顔が…」
「顔?顔がどうしたの?」
触ってみたけれど、何も変わった様子はない。
スマホを見るとマユちゃんはまた怖がって隠れていた。
私はカメラを起動して自分の顔を映してみた。
「顔が、半分、黒い?」
顔の右側が半分黒くなっていた。
目の白い部分も真っ黒で、気持ちが悪かった。
私は二人を見た。
「なんだろ…これ…」
おばあさんは私を抱きしめた。
「大丈夫じゃ、ジジイがすぐに治してくれる。」
おじいさんは私に向かって治癒魔法をかけた。
「何が効くかわかりませんから、片っ端からかけますぞ!」
そうしておじいさんは頑張ってくれたんだけど、とうとう私の顔は元に戻らなかった。
私は外に出る気にもなれず、部屋にひきこもった。
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