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7つの願い  作者: yamico
16/26

ep.16

黒いものは突然やって来た。


そのたびに私は呼ばれて行くんだけど、どこからか私の噂が流れているみたいで、行く先々で救世主様と呼ばれるようになった。

すごく居心地画悪いのでやめてほしいと言ってみたのだけれど、浸透してしまったようで今さら無理じゃないかと言われた。


魔王と呼ばれたり、救世主と呼ばれたり、私っていったい何なんだろうか。


王都ではこの現象について究明チームが組まれていた。

今まで起きていなかったことであり、連続して起きているという観点からあの黒いものを作り出す原因を探っている。

それと同時に魔王軍の残党も探していた。


城が壊されたときにかなりの数の魔王軍の残党をやっつけたというが、まだ残っているだろうと学者たちは言っているそうで、リーダー格の黒いものが現れたら危険だと推測されている。

黒いものは侵食し、数を増やすんじゃないかって言っていた。


しかし調査は難航しているらしい。

黒い化物から元に戻った人は何も覚えていない。

残るのは後悔の念や懺悔の念であって、具体的なことは一切思い出せないのだという。

よくできたシステムだなと思った。


────


パン屋さんは大好評で、村まで売りに行かなくてもお客様が来てくれるようになった。

おじいさんは家の横に売店スペースを作り、ショーケースのようなものを置いてくれた。

私はケースの中の温度を冷蔵庫のように低く保つようにして、シュークリームや生クリームのケーキを入れられるようにした。

マユちゃんはおばあさんに次から次へと新しいレシピを教えて、いろんなケーキを作ってもらっていた。

そのたびにスマホの中に取り込んで試食していた。

なんだか洋服がきつそうに見えるのは、きっとそのせいだ。


うちから村に続く道の周りにも家が建てられた。

なぜか転居してくる人があとを立たず、村の人口は増えつつあった。

村の外にあったおばあさんの家は、なんだか村の一部分になってしまったようだった。

おばあさんは「うるさいねえ」とボヤいていたけれど、なんだか楽しそうだった。


────


ある日、立派な馬車でお店にやって来るようになった人がいた。

王都に住む貴族の人らしい。

見るからに頭の悪そうなクソガキだね、とおばあさんは言っていた。


「今日も美しいですね、ブウ様。新作はありませんか?」

「ないよ。季節が変わらないと出るものも出せないと言ったじゃろ。」

「あぁ、まだ季節は変わらないのですね。待ちきれません!」

「買うのか?買わんのか?」

「もちろん買いますとも!メロンパンを5個とシュークリームを5個、それにイチゴのケーキをまるごといただけますか?」

「まるごと?」

「はい、その丸い形のまま、いただきたい。」


おばあさんブツブツ言いながらパンやシュークリームを紙袋に入れた。

「ケーキをまるごと入れる袋なんてないよ!皿ごと持っておいき!」

「そう言ってくれると思っておりましたよ。」

そう言うとメイドさんがドラマでしか見たことのないお皿にかぶせる銀色の大きなやつを持ってきた。

メイドさんはケーキのお皿にそれをかぶせた。

「メルク様、ピッタリでございます!」

「おぉ!やはりそうでしたか!私の目に狂いはありませんでしたね!」


その人は大騒ぎして馬車に乗り込んで帰って行った。

おばあさんはその人が帰るといつも「クソガキめ」と嫌な顔をしていた。

聞くと、生理的に受け付けない、のだそう。

悪い人ではないとわかっていても、なんだか嫌いな人っているんだって。

たくさん買ってくれていい人そうなんだけどね。


馬車で王都からここまで1時間以上かかると思う。

それを週に何度も朝イチにやって来る。

商品が並ぶ前にいることもある。

おばあさんのパン屋さんの熱狂的なファンだ。


何度目かのときには父親を連れてきて、「王都に店を出してくれ。金ならいくらでも出す。」と言ってきた。

おばあさんは激怒して「二度と来るな!」と言ったがメルクは平謝りして今日に至る。

貴族のブライドもズタズタだっただろうけど、気にせずまた買い物に来る。

メンタルが強い。


午前中に売り切れると、おばあさんはマユちゃんとまた新作の話をする。

今はパイ生地の練習をしている。

なかなか難しいらしく、私も温度調節で手伝っている。

バターは溶けるとダメなんだって。

昔の人たちはいろんな努力を重ねていろんなものを作り出してきたんだなって感心しちゃう。


────


いつものように品出しを手伝っているとメルクの馬車がやって来た。

おばあさんは「やれやれ」と言いながら新作のパイをたくさん並べた。

まんざらでもない顔をしているので私は密かに、にやけてしまう。


メルクはいつものようにメイドと馬車を降りてきたのだけれど、いつもと様子が違った。

おばあさんもそれが気になったようで、具合でも悪いのかと訪ねた。


「優しいブウ様、聞いていただけますか?!実は僕、結婚が決まったのです。」

「なんだい、めでたいじゃないか。とんだ不細工とでも結婚するのかね?」

「いいえ、由緒正しい家に生まれた綺麗なご令嬢です。」

「じゃあ何をそんなに落ち込むんだい?」

「僕がこんなに甘いものを愛していると彼女が知ったらどうでしょう?嫌われてしまうかもしれません!そうなったらここに来ることもやめないといけないかもしれません!そう思うだけで、胸が苦しくて、悲しくなってしまうのです。」

「確かに何時間もかけて3日に1度ここに来るのは妻としていい顔をしないかもしれんな!」

おばあさんはそう言うと大声で笑いだした。


メルクは悲しそうな顔をしたままいつものように大量に注文した。

新作のパイも、またまるごと買っていった。

食べる量は変わらないらしい。

私は少し気になったのでメルクの体を見てみた。


心臓に何かあるように見えた。

本人に言うべきか迷っている間に馬車は走り去ってしまった。

「おばあちゃん、今の人、心臓に病気があるかもしれない。」

「なんだって?胸が苦しいのはそのせいかい?」

「うん、多分。」

おばあさんは笑わなかった。

「ソラ、次に来たときに教えてあげてくれるかい?あれでも大事なお客様じゃ。」

「うん!」


そして3日後に現れたメルクに、私は心臓の話をした。

驚いた彼に、おじいさんはすぐに治癒魔法をかけてあげていた。

「おぉ!!何ということでしょう!あんなに苦しかったのが嘘のようです!」

メルクは元気になり、おじいさんの腕がもげるんじゃないかと思うくらいに握手して振り回した。


「ブウ様!今日はお願いがあって参りました!ぜひ、結婚のときに振る舞うケーキを作ってくれませんでしょうか!お金で動く人ではないとわかっております。何か他に対価を払えるなら払います!どうか!どうか!お願いします!」

メルクはすがるようにおばあさんに懇願した。


「ええよ。いつじゃ?」


おばあさんがそう言うとメルクは固まっていた。

「今、いいと言いましたか?!」

「あぁ、結婚式はいつじゃ?と聞いたんだ。」

「10日後です…」

「希望は?人数は?」

「イチゴの生クリームたっぷりの…100人くらい来るかもしれません…」

「あいわかった。任せなさい。」


メルクは目をパチパチさせておばあさんをみつめていた。

そして泣きだしてしまった。

「きっと断られると思っておりました。なんと、なんとお優しいのか…ブウ様!」

「わしからの結婚祝いだと思いなされ。」

「ブウ様…そしてビル様、大好きです。命の恩人です。ありがとうございます。」

そしてメルクはひとしきり泣くと、いつものようにたくさんのケーキたちを運ばせて帰って行った。


「大仕事だね!私も手伝うね!」

「ソラの真空の魔法と温度調節の魔法必須じゃ。頼んだぞ!」

「はい!」


────


『結婚式のケーキだなんて!興奮しちゃうわね!』

マユちゃんはウキウキでおばあさんにウエディングケーキの写真を見せていた。

「なんじゃこりゃ?!ケーキを重ねるのかい?!」

『上の方は偽物なことが多いみたいだけどね。』

「えぇー?食べられないの??」

『あら、ソラも知らなかったの?』


大きなケーキを作ることになって私たちはなんだかソワソワとしていた。

どんなケーキにするのか考えるのはとても楽しかった。


大きなケーキを馬車で運ぶのは無理だと言うことになり、下準備だけして仕上げは現地ですることになった。

当日の夜明けに馬車で迎えに来てくれるという。


「出張サービスだね!楽しみだね!」

私は遠足にでも行くような気持ちになった。

『結婚式だなんて!何を着ればいいのかしら!』

関係ないマユちゃんまで嬉しそうだった。


────


前日にスポンジケーキの部分は焼き終えていた。

生クリームやイチゴもたくさん用意した。

100人分のケーキの準備は大変だったけど楽しかった。


夜明けに馬車はやって来た。

メルクがいつも乗っているものよりも大きな馬車だった。

さすがに本人は乗っていない。

「ブウ様、ソラ様、本日はメルク坊っちゃんのためにありがとうございます。お世話になります。」

執事のラッセルさんはそう言うと深々と頭を下げた。

話を聞くと、忙しい父親の代わりにしつけもしてきたのだと言う。

「もっと厳しくしつけられたらよかったのですが、あの愛くるしい目で見つめられるとどうしても許してしまうんですよね。執事失格です。」

確かにメルクは女の子みたいに目がクリクリしていて、髪の毛もサラサラで可愛らしかった。

「子供にはどうしても甘くなっちゃうものじゃよ。それにメルク殿はいい子じゃよ。」

おばあさんは照れながらそう言った。

いつもクソガキと言ってはいたけれど、きっとこれは本心だろう。

「そう言っていただけるとは。本当に嬉しく思います。ありがとうございます、ブウ様。」


王都に近づく頃にやっと日が昇ってきた。

式は12時からだった。

それまでに100人分のケーキを作る。


────


キッチンは戦場のようだった。

私たちは火を使わないので別室を用意してもらった。

マユちゃんに協力してもらいながら大量の生クリームを泡立てた。


四角いケーキを5台、そして3段重ねの立派なケーキを1台作った。

「これって全部食べられる夢のようなウエディングケーキだね!」

たくさんのイチゴと、イチゴシロップで色付けしたピンクの生クリームでデコレーションしていった。

マユちゃんが出してくれたいろんな形の絞り出し口はおばあさんも喜んだ。

何度も練習をしてきれいにデコレーションできるようになった。

おばあさんはピンクの生クリームの薔薇を作った。

ケーキの上はお花畑のようだった。


そして12時ちょっと前に見事に完成した。

私は真空状態にしてケーキの周りの温度を下げた。

これで登場まで美しい状態を保てる。


そして式の中盤に呼ばれた。

ケーキはメイドさんたちによって会場に運ばれた。

私はこっそりついて行って、定位置に落ち着いたケーキの真空状態を解いた。

そしてそのまま式を覗いていた。


メルクはケーキを見るなり号泣していた。

花嫁さんは優しく涙を拭いてあげていた。

とても素敵な二人だった。


ケーキは切り分けられ、食べる人たちはみんなが笑顔だった。

なんてステキなんだろう。

人をこんなに笑顔にさせるなんて、おばあさんは本当にすごい人だ!


ラッセルさんはおばあさんに今回の報酬を渡そうとしていた。

「いらんよ!結婚祝いだと言ったんじゃ!」

おばあさんはそう言ってきかなかった。

「では記念にこちらの、来賓客にお配りするこれをお持ち帰りください。」

ラッセルさんはそう言ってきれいな箱を渡してくれた。

開けてみると中には金色のスプーンが5本入っていた。

「当家の家紋が入ったものになります。」

「おばあちゃん!ほしい!」

「しかたないね、ではありがたくいただいていくよ。」


そして私たちは式が終わる前に帰ることにした。

「勝手に帰るから気にしなくていいよ!」

そう言うとおばあさんは私の手を引いて屋敷を出てきた。


「歩いて帰るの?」

「まさか。」


城の近くにマキナさんが待っていた。

「お母さん!」


そして私たちはマキナさんの家に行くことになった。


────


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