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7つの願い  作者: yamico
12/26

ep.12

私は今、とても大きなベッドの上にいる。

あの小さな物置小屋のなかには個室が何個もあって、ここも部屋の一つだった。

いつも寝ているベッドの2つと半分くらいの大きさのベッドだった。

でんぐり返しもできちゃう。

ぴょんぴょん跳ねると楽しい。

前の世界で遊んだトランポリンを思い出した。


しかし広い部屋に私一人だった。

マユちゃんはずっと怖がっていて話もしてくれない。

ルナは森に行っちゃった。


私はなんだか怖くなって、おばあさんの部屋のドアをノックした。

「なんだい、眠れないのかい?」

「広すぎて怖いの。」

おばあさんは笑いながら「まだまだチビっ子だね。おいで。」と言ってくれた。


おばあさんと一緒に寝るのは初めてだった。

「さっさと寝るんだよ。」

そう言っておばあさんは私に背を向けてしまった。

それでも私はすごく安心できた。

くっついているわけでもないのにすごく温かい。

私はすぐに眠りについた。


夢の中でおばあさんは眠っている私の頭を撫でていた。

「なぜこの子が…この子が何をしたというのか…」

おばあさんは謎の言葉を言いながら悲しい顔をしていた。

その先は覚えていない。


────


私が起きると、おばあさんはもうベッドにいなかった。

そのかわり、部屋のドアが開きっぱなしになっていてすぐにおばあさんの姿が見えた。

私はおばあさんに駆け寄り「おはようございます」と挨拶をした。

「顔を洗って着替えなさい。着替えは部屋に用意してくださったよ。」

「はい!」


私は前の世界でホテルに泊まったときのことを思い出した。

あれは小学校入学前に家族で旅行したときのことだ。

部屋には大きなベッドが並んでいて、お風呂や洗面台もピカピカだった。

今、目の前にあるのはそれよりももっと豪華な造りだった。


私は顔を洗おうとしたのだけれど、洗面台が高くて無理そうだった。

「ソラさん、こちらをどうぞ。」

振り向くとハルさんがいて、小さな踏み台を持ってきてくれた。

「ありがとうございます!」

石鹸も置いてあった。

この世界の石鹸を使うのは初めてだった。

あまり泡立つ感じではなかったけれど、なんだかお花のいいにおいがした。

タオルもふかふかだった。

部屋に戻って着替えると服もツルツルすべすべでとても着心地がよかった。


おばあさんたちのところへ行くと朝食が用意されていた。

ハルさんが高級そうなティーポットでお茶を注いでくれた。

オムレツとハムもあった。


多分、今は避難しているのだと思う。

あの黒い怪物から逃げているんだ。

それなのにいつもよりいい生活をしていていいのだろうか?


オムレツからバターの香りがした。

お城にはみんなの家にはないものがたくさんある。

王様は毎日こんなに贅沢できるんだ。


────


食事が終わるとハルさんが片付けてくれた。

ここにはキッチンもあるからほとんど外への出入りはない。

マキナさんが帰ってから誰もここに来ていない。


私は窓から外を眺めた。

「何か見えるかな?」

おじいさんがニコニコと近づいてきた。

「すごく素敵な草原が見えます。」

「なるほどなるほど。私には崖の上に見えるよ。」

「えっ?!」

「どうやら見たい景色が見えるらしいね。人によって見えるものが違うんじゃないかな。」

おじいさんは崖の上に住みたかったのか。

「不思議だね、魔法って。」

「そうですな、まだまだわからないことばかりですね。」


おじいさんは本棚から数冊の本を持ってきた。

「することもないし、勉強でもしませんか?」

「はい!」


────


私は昨日見た転移の魔法や亜空間の魔法についておじいさんに教えてもらった。

どちらもとても珍しい魔法で使えるだけでお城に仕えることができるんだって。

お給料がたくさんもらえるお仕事なんだって。


この家は亜空間っていう別の世界にあって、あの物置小屋の扉とこの家の扉で繋がっているんだって。

繋ぐことができる人しかここに来れなくて、悪い奴があの物置小屋のドアを開けてもここに来ることはできないんだって。

どんな仕組みなのかわからないけれど、とても安全らしい。


こちらからはすぐに向こうに行けるみたいだから絶対にドアを開けてはいけないよって言われた。

怖いから絶対に開けないんだ。

ハルさんは1ヶ月くらいなら立て籠ることが可能ですよって言っていた。

でもそんなに長く部屋に閉じ込められるのは嫌だな。


おじいさんは途中まで私に魔法の話をしてくれていたのだけれど、途中から本に夢中になっちゃった。

おばあさんはずっと元気がなくてボーッと窓の外を眺めている。

おばあさんにはどんな景色が見えるのかな。


────


1週間くらい経っただろうか。

私はここでの生活に飽きていた。

マユちゃんは相変わらず無口のままだった。

あの怪物を直視しちゃったんだって。


「ソラ、ちょっといいかい?」

ずっと元気がなくて言葉も少なかったおばあさんが話しかけてきた。

「うん。」

「この扉を出ると悪いことが起きるかもしれない。見たこともない怖いものもいるかもしれない。でもずっとここにいるわけにもいかないんだよ。それはわかるかね?」

「うん。」

「だからね、その選択が1番じゃないって自分が思っても、わしの言うことを素直にきいてほしい。」

「おばあちゃんの言うことは、いつだって正しいよ?」

「そうだといいんじゃがね。いいかい?ちゃんと、わしの言うことをきいておくれよ。」

「わかった!」

おばあさんは私の返事を聞いてにこりと笑って頭を撫でてくれた。


もしかしてここを出る計画があるのかな?

早くパン屋さんに戻りたいよ。

おばあさんと荷車を引いて村に行きたいよ。


私もぼんやりと窓の外を眺めた。

相変わらず美しい草原が広がっていた。


そこにズドンという地響きみたいなものが起きて、家がぐらっと揺れた。

ドアがバーンと開いて血だらけのマキナさんが入ってきた。


「ごめんなさい、ここが壊れるかもしれないので移動願います。」

マキナさんを見ておじいさんもおばあさんも真っ青な顔になった。

「マキナ!お前は大丈夫かい?!」

おばあさんは心配そうに駆け寄った。

「かすり傷です!さぁみなさん、早くここから出てください!」


私たちは急いで外に出た。

城は半分崩れていた。

例の大きな扉が開いていて、城の中の人たちが避難していた。

「みんなと一緒に扉の向こうへ行ってください!」

マキナさんはそう言うと反対方向へと走って行った。

「マキナ!!」

おばあさんは大声で呼び止めた。

振り向いたマキナさんにおばあさんは力の限り言った。

「負けるんじゃないよ!!」

マキナさんは一瞬泣きそうな顔になった。

「はい!!」

そう返事をすると煙の中へと入っていってしまった。


おじいさんは私とおばあさんの手を引っ張り、扉の向こうへと連れて行った。

扉の向こうはどこかの洞窟の中だった。


先に来ていた人たちが松明をともしていて明るかった。

洞窟にしては天井が高くて圧迫感はまったくなかった。

泣き叫ぶ子供をあやす母親や怪我人を手当する看護師さんのような人もいた。

見ると街に住んでいる人たちもここに来ているようだった。


「ビル様、ブウ様、お久しぶりです。」

振り返ると立派な髭の人がいた。

「おやおや、ガルツくんではありませんか。この度は騎士団長就任おめでとうございます。」

おじいさんはニコニコと話しだした。

「もう一年になりますよ。マキナさんにはいつもお世話になっております。」

「じゃじゃ馬相手に大変じゃろ。お疲れ様ですじゃ。」

おばあさんもペコリと頭を下げた。

マキナさんの上司の人なんだと思う。


「早速ですが、こちらへ。」

私たちはガルツさんに言われるがまま狭い通路を進んだ。

「あの広場は広すぎて濃度の高い結界が張れませんでした。こちらは狭いですが強めの結界を張りました。こちらで待機をお願いしてもよろしいですか?」

「わしらはどこだって構いませんぞ。ありがとうございます。」

珍しくおばあさんが素直に感謝していた。

この人はよっぽど偉い人なんだろう。

「ビル様、もしよろしければ我々の力になっていただけませんか?かなり深い傷を負った者がおりまして。」

「私でよければお手伝いしましょう。ブウよ、ソラを任せてよいですかな?」

「あぁ、早く行っておやり。」


おじいさんは違う通路を進んで行った。

きっと負傷者を治療する場所があるのだろう。


「どうして亜空間が危なくなったの?」

「小屋のドアと繋がっていたのは知っておるな?」

「うん。」

「それが壊れてしまえば、わしらはあそこから出られなくなった可能性がある。」

私はそれを聞いて身震いした。

あそこに一生閉じ込められると思ったら息苦しくなった。


遠くから泣き叫ぶ人の声が聞こえた。

避難できなかった人がいたのか、怪我でもしたのか。

まるで地獄のようだった。


「ソラ、手伝ってくれますかな?」

おじいさんが走って戻ってきた。

「私が?」

「毒が役に立つときが来たですぞ!」


私はおじいさんと一緒に走った。

少し進むと怪我をした人がたくさんいた。

痛くて叫ぶ人やぐったりと動かなくなった人と、いろんな人がいた。


「強めの痛み止めを生成できますかな?」

「はい!できます!」

私は受け取った瓶にポシェットから出した杖を向けた。

役に立ちそうな毒のことは何度も練習したから自信がある。

すぐに透明の液体が瓶に溜まった。

「どれくらい必要ですかな?」

「小さいスプーン1杯くらいを注射してください。」

おじいさんは他の医師のような人に瓶を渡した。

泣き叫び大暴れしている人を押さえつけて注射をしている。

その人はすぐにおとなしくなり、呼吸も落ち着いた。

「ソラ、ありがとうございます。彼も楽になったことでしょう。」

おじいさんが治癒魔法をかけているのだけれど、怪我人が多すぎて間に合わない。

待ってる人を楽にしてあげるために痛み止めが必要だったみたい。


「ビル先生!こちらを診てもらえますか?!」

おじいさんが呼ばれた先には半身が黒く、ただれた人がいた。

「これは…私の手には負えないですね。」

苦しそうにもがいていた。

救えない命があることは私が一番よく知っている。


ふと見るとその黒くただれた部分が私には理解できた。

「先生、私、この人を治せるかもしれません。」

「ソラに?ふむ、やってみなさい。」


私はその人の黒い部分に杖をくっつけた。

黒くただれた部分はまるで杖に吸われるようになくなっていった。

そして杖から私の手に移り、私の中へと消えていった。


黒い部分がなくなるとその人は目を開けた。

「私は…助かったのですか?」

「そのようですね。」

おじいさんは私の体を確かめた。

黒いものが私の中に消えていったからだろう。

「ソラ、あなたはなんともないですか?」

「うん、なんともないよ。」

「よかった。助かりましたが、あまり無理しないようにしてくださいね。」

「うん。助けられそうな人がいたら、またやってもいい?」

「そうですね、何かする前に私に聞いてくれますかね?」

「うん、わかった。」


その後も痛み止めを作り、黒い人がいたら治した。

まるで戦場の病院のようだった。


映画で見たあの光景が目の前にあった。


────



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