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7つの願い  作者: yamico
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ep.1

私はもうすぐ死んでしまうだろう。

誰も私には教えてくれないけれど、私のことは私が1番わかっている。


私の心臓はきっともうすぐ止まってしまう。


────


「ねぇお母さん、新しいノートがほしいの。」

真っ白な病室の真っ白なベッドの上にいる私はベッド横の椅子に座りぼんやり外を眺めていたお母さんにそう言った。

「あらレイちゃん、スケッチブックならこの前買ったばかりじゃなかった?」

お母さんは窓の外から私の方へ視線を向けてそう言った。


「スケッチブックじゃなくて文字を書くノートがほしいの。線のついてるやつ!」

「日記でも書くのかしら?わかったわ、明日持ってくるわね。」

お母さんはそう言うとにっこり笑った。

私も「ありがとう」と言ってにっこり笑った。


「じゃあ買い物もあるし、お母さん今日はもう帰るね。晩御飯しっかり残さずに食べるのよ!」

「はーい。」


お母さんは手を振って病室から出ていった。

私の部屋は個室っていうやつで他の子たちはいない。

最初は大部屋っていう他の子もいる部屋だったのに「個室のほうがいいのよ!」とお父さんもお母さんもそう言ってこの部屋に移動してきた。

大部屋のときには同じくらいの女の子たちが部屋にいて賑やかだった。

今は私だけ。

静かな部屋にポツンとしている。


みんなに会いに行こうと思えば行けるけど、歩くと息が苦しくなるときがあって。

怖いからおとなしくしてる。

私の心臓は壊れてしまったんだ。

『いしょく』とかいうやつをする予定なんだって。

新しい心臓と壊れた心臓を取り替える手術のことだって先生が言ってた。

私はどこかに新しい心臓が売ってたりするのかと思っていたんだけど、調べてみたら違ったの。


『もう生きることができなくなった子』からもらうんだって。

難しい言葉がたくさん書かれていたから詳しくはよくわかってないけど、つまりはそういうことらしい。

だから私はそんな不幸な子が現れるのを待っていることになる。

なんて悲しいことなんだろうか。


私は『いしょく』する前に心臓が止まればいいと思っている。

お父さんやお母さんは悲しむかもしれないけれど。

最初は毎日のようにお見舞いに来てくれたお父さん。

いつしか週に1度かそれ以下になっちゃった。

お母さんは毎日来てくれるけど、何か用事があって早く帰るときはなんだか嬉しそうだ。

私に絵本を読んでくれたり、勉強を教えてくれたりもするんだけど、お母さんはそういうのに飽きちゃったみたいで。

最近はずっと窓の外をぼんやり眺めている。

私はいつもそんなお母さんをぼんやり見ている。


私が普通の健康な子だったら、お母さんはもっと幸せだったろうに。


────


次の日の昼にお母さんはやって来た。

「レイちゃんお待たせ。かわいいノートを見つけてきたよ!」

「わぁ!ウサギちゃんだね!」

お母さんは私に少し小さいノートを渡してくれた。

私はさっそく開いた。


書くことは考えていた。

私がスラスラと書いているとお母さんが覗いてきた。

「何を書くの?」

私はノートを閉じて「秘密!」と言った。

お母さんは「気になるなぁ」と言ったがそれ以上見ようとはしなかった。

「じゃあ、お母さんもう帰るからゆっくり書きなさい。」

そう言ってお母さんはさっさと帰ってしまった。


1ページ目にはこう書いた。


『おとなになれますように』


立派な人になりたいだとか、美人になりたいだとか、そんなわがままは言わないから。

普通の大人になりたい。


私は大人になった自分を想像するのが好きだった。

お母さんみたいなお母さんになっていて、子供のことが大好きで、一緒にお菓子作りとかをするんだ。

いつもニコニコ笑っていて幸せそうな大人なんだ。


私は2ページ目を書き終えると目の前が暗くなった。

呼吸が速くなって心臓が悲鳴を上げているようだった。

ナースコールを押さないとと思ったけれど、どうやら押す前に気を失ってしまった。


────


目を覚ますと、お父さんとお母さんがいた。

二人は私が書いたノートを見ながら泣いていた。

「秘密って言ったのに。」

酸素のマスクをつけられていたからうまく話せなかったかもしれない。

二人は笑顔になり私を抱きしめた。

「レイちゃんはきっと素敵な大人になれるわよ。」

お母さんはそう言った。

お父さんもウンウンと頷いていた。


私はきっとそんな願いは叶わないことがわかっていたけれど、「うん」と返事をした。

お母さんは「私が早く帰らなければ…ごめんね。」と何度も謝った。

「お母さんのせいじゃないよ。」


私の心臓は『ほっさ』というやつになったらしい。

弱っているとたまになるんだって。

先生も看護師さんたちも顔には出さないけど心配している。

お父さんたちが帰ったあとはいつもより見に来る回数が増えた気がする。


私の心臓はそろそろ止まるのかもしれない。

ノートを開いた。

今のうちにたくさん書いておきたい。


私は寝る時間まで一生懸命書いた。

すぐに疲れちゃうから休み休みだったけど、どうにか7ページまで書くことができた。


私はノートを閉じて、そのまま目を閉じた。

久しぶりにたくさん文字を書いたから、疲れちゃったのかな。

まぶたが重くて、身体も重くて、何かに押しつぶされるような感覚がした。

『くるしいよ…たすけて…』

私は必死に助けを求めた。

しかし私の手を取ってくれる人はいなかった。


遠くから看護師さんが慌てて叫んでいる声が聞こえた。

やっと来てくれたんだ。

そう思った瞬間、身体が軽くなった。

ふわっと浮く感じがした。

とても心地よかった。

ふわふわして気持ちがよかった。


────


そう、私は死んでしまったみたい。

今まで息をするだけで苦しかったのに。

今はお空でも飛んでいるみたい。


このまま天国に行くのかな。

まぶたは重たくて開かない。

ここがどこなのかもわからない。

ふわふわしていて、とても気持ちがいい。

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