第八話 意外な人との再開
「古代魔法ってなんだ?」
「僕は魔法の授業で少ししか聞いた事がないね」
「私は聞いた事がないニャ」
「じゃあ私が説明するしかないわね……」
そうすると、エリシアは目次を見せながら説明を始めた。
「例えばこの水魔法の一覧を見ると聖級か王級、一部は帝級の魔法が書かれているわ。しかも今じゃ失われてる所謂ロストテクノロジー類いの魔法だわ」
「へぇ、そんなレベルの魔法が書かれてたのか」
「英斗君、知らなかったの?」
「光の矢しか使わないからな」
「え、光の矢?!」
「ん?なんかあるのか?」
俺はなんのことなのか分からず、率直に疑問をぶつける。そんな俺をエリシアは一周回って引いていた。
「光魔法は基本的に魔道具に複製できる様な容易な魔法陣をしてないの。それをこの汎用型魔道書に収めるって……」
「汎用型魔道書ってなんだ?」
「五大自然魔法をまとめた魔道書の名称。五大自然魔法に該当する魔法は全部で水魔法、炎魔法、風魔法、雷魔法、土魔法よ」
「なるほど……」
「ちなみに、それ以外の魔法は特殊魔法で一括りに扱われるみたいだね」
「そうなのか?」
「そうよ。私は魔剣師については知らないけど、どうやら魔剣師だと特殊魔法が使える魔剣師が重宝されるみたいね」
「へえ~、魔法と剣は案外密接に関わってるんだな」
すると、隣で深々と頷く猫耳がいた。
「……どうした?」
「英斗が剣に感心を持ってくれて私は嬉しいニャ」
別に剣に興味を持ったとは一言も言っていないが、この感じは彩月に話を合わせた方がいいのだろうか。
とりあえず、彩月が剣を使える確認から話を切り出した。
「あ~そういえば確か、彩月は剣が使えるんだっけ?」
「そうニャ。しかも私が習得した流派には少しだけ魔法技術が入ってるニャ」
「どゆこと?」
「英斗には一から説明するニャ。まず、この世界には四つの剣の流派があるニャ……」
そう言うと彩月は珍しく事細かに流派の話を始めた。
「この世界には烈神流、閃神流、蛇神流、無神流の四つの流派があるニャ……」
この後の長話を要約すると、要はこういう事らしい。
烈神流は攻撃特化、閃神流は速度特化、蛇神流は防御特化、無神流は攻撃、速度、防御を自分の戦い方に合わせて各々を熟練させていく流派ということ。ちなみに蛇神流は防御技に加えてカウンターも学ぶそう。そしてこの四つの流派の内彩月は無神流らしく、この流派に獣人族ならではの強靭な肉体を応用することで、攻撃と速度を上乗せ出来るらしい。その効果もあり、彩月の無神流のレベルは聖級に匹敵するそう。
「ちなみにトリスの流派は?」
「僕は烈神流は王級、閃神流は聖級だよ」
「それって凄いのか?」
「例えば僕の兄は閃神流は王級、無神流は上級くらいの強さを持っていて、恐らく多分僕より兄の方が強い」
「……各流派の上下関係がわからないから、何とも言えないな」
「それもそうだね。流派の使い手によって大きく左右されるしね。ちなみに無神流の中にも多くの流派があるから階級の付け方が曖昧なんだ。だから無神流では神級以外の階級は自称なんだよね。ただ、他の三つの流派は各々階級を定める試験があるんだ」
どうやら烈神流、閃神流、無神流にはそれぞれ一年に一回昇級試験があるそう。直近で開催された試験でトリスは閃神流の王級を得たそうだ。
「なるほどね~。んで、魔剣師はどこに繋がってくるんだ?」
「ニャ……!」
「彩月、説明できるよな?」
俺が優しく微笑んで聞くと、彩月は俺から目を逸らした。
「わ、私は剣士についてしかわからないニャ……」
「そうだと思ったよ」
「う、うっさいニャ!」
彩月が照れ隠しする様子がどうも萌え要素があって良い。やっぱ異世界と言えば獣人族だよな。俺が心の中で一人耽っていると、トリスが話に割って入ってきた。
「じゃあ、僕が説明するよ。……要は四つの剣の流派に加えて魔法も交えた戦い方をする人を魔剣師って言うんだ」
「烈神流の技を撃った直後に、水魔法を撃つ……みたいな?」
「感覚としては正しいね。まあ、細かい話は剣に関わらない英斗にとっては別に知らなくてもいい話だと思うかな。それに魔剣師なんて所詮剣士にも魔術師にもなれなかった人がなる職業だし」
「中々、辛辣な事を言うな……」
俺はトリスを考え深く見ている中、ふと会話に参加していなかったエリシアに視線を移すと、どうやらエリシアはずっと魔道書の事細かな箇所まで見ていたらしい。とても興味深そうに本を眺めている。
「何か気になる事でもあったか?」
俺はエリシアに向かって聞くと、エリシアは俺を見るなり質問を投げ掛けた。
「一体この魔道書って誰が書いたのかしら」
俺はその質問に即答した。
「確か、ルミナ・フォルトリシア・ダースだったな」
そう言うと、エリシアは唖然としながら魔道書を落とす。トリスと彩月も何故か驚いていた。
「どうたんだよ。皆して驚いて……」
「……トリス、この高校生大丈夫?流石にこの世界の事、知らなすぎじゃない?」
「ま、まあ……転移者だからこの世界のおとぎ話を知ってると言うのもレアケースだよね」
「にしても知らなすぎニャ。私が教えてあげようかニャ?」
「彩月になら教えて貰っても構わないけど……んで、そのルミナがどうしたんだ?」
「ルミナは千年前に存在したとされる、当時大勢の魔術師を虐殺した『魔女』よ」
「魔女……?」
ルミナ・フォルトリシア・ダースはどうやら千年前にいた人物で、魔術師の大虐殺により魔法技術を三百年遅らせたと言われているらしい。ただ今はおとぎ話の人物として扱われている為、実在していたかは不明だそうだ。
「なんでこの魔道書が魔女……ルミナが書いたって分かったの?」
「え?表紙の下側にはっきりと『ルミナ・フォルトリシア・ダース』って書いてるぞ」
すると、エリシアは表紙の下に書かれている文字を見た。すると、エリシア本を近づけて見たり、遠ざけて見たりしていた。
「老眼か?」
「違うわよ!この文字が読めないの!セレアちゃんは読める?」
すると、エリシアは本を彩月に見せた。
「……読めないニャ」
「だよね……トリスは?」
「ん~読めないね」
「なんで誰も読めないんだよ」
「逆になんで読めんのよ。これ多分古代文字よ」
「そうなん?まあ、細けぇ事はいいんだよ」
すると、エリシアは口をへの字にして困惑した表情を見せた。
「なんか英斗と喋ると疲れるわね。誰かさんと同じタイプだわ」
「俺の頭が良すぎて話についていけねぇか」
そう言うとエリシアが静かに舌打ちをしながら睨んできた。俺が何も考えないでエリシアに発言するとこうなるのか。気を付けよう。
「一応聞くけど、貴方って転移者なのよね?」
「多分?」
「多分ってどういうこと?」
「目覚めたら戦場にいたから、戦場に召喚する馬鹿はいねぇよなって事で転移者判定でいいかな……と」
「なるほどね。あと、この世界について何かしら勉強した事はある?」
「ない」
「それなのに訛りのあるこの世界の言葉が喋れるし、私達が読めない文字が読めると……これだけ聞くと召喚時に色々能力付与されました~みたいな感じが伺えるけど、真相は掴めそうにないし一旦この話は置いておきます」
エリシアの頭の中はどうやら色々と思考が巡っていそうだが、どうやら諦めたらしい。
「うっす」
「じゃあ最後に、その指輪はどういう仕組みかだけ見せてちょうだい」
「ああ」
俺は左手中指にはめているエクリプス王国から貰った指輪を外した。
「どうも……」
エリシアは指輪を受け取った後、事細かに鑑定する様な眼光で指輪を見ていた。
「これは特に問題無いわね。見る限り体内から自然放出される魔力を抑える効果があるから、魔法発動時の効果を向上させてくれると思うわ」
そう言うと、エリシアはそのまま俺に返した。
「ちなみに、その指輪にはエクリプス王国と国王の名前が彫られているけど、それも贈与されたの?」
「そうだ。身分証代わりにもなるから、魔法学校に入る時に助けられたな」
「へぇ~意外と便利なのね」
「まあな。んで、この後はどうするんだ?」
「時間もあれだし装備を揃えに行きましょうか」
そういうと、エリシアはゆっくり立ち上がった。
「じゃあ、僕とセレアは隊の拠点で作戦会議だね」
「面倒ニャ」
「そう言わないでくれセレア。正直な所、僕も面倒だ」
「二人は戦争に勝ちたくないのか……」
「ほんとそうよね。やる気が感じられないわ」
その後俺とエリシアは魔道具店へ向い、トリスと彩月は城に戻った。
魔法協会を出ると俺とエリシアは大通りに向かった。大通りに出てからエリシアは外れの通路に入るが止まる様子は無く、どんどん薄暗い道に入って行った。どうやら魔道師関係の店は風俗的に表には出せない類いの店なのかもしれない。
ようやくエリシアが立ち止まると、またも古臭い扉が目の前にあり看板には「魔道具専門店」と書いてあった。
「ここね」
「よく知ってるな、こんな所」
「まあね、アリシアが働いてて教えて貰ったのよ」
「え?」
今、アリシアと言ったのか?アリシアってあのアリシア?ヴァルシュタイン王国の?
「アリシアってエリシアの姉の?」
「え?それ以外に誰がいるのよ。いいから入るわよ」
そう言うと、エリシアは扉のドアノブに手を掛ける。ドアノブを引こうとした時、エリシアは立ち止まった。
「一応言っておくけど、私とアリシアは仲が良くないわ」
「そうなのか。姉妹なのに」
「アリシアと私にも色々あるのよ。英斗君にも時間があったら私の異世界召喚の詳細について話すわ。今日はひとまず私に合わせてほしい」
そう言うとエリシアは扉を開いた。俺達はゆっくりと中に入り室内を見渡した。中は大学の図書館の様な見た目で、一見すると本しか並んでないように見えるが、他にも魔道書ではない魔道具と呼ばれる類いの物も陳列していた。そして、そこには今はまさに魔道具の品並べをしている女性がいた。その女性は俺とエリシアに気付くと、手に持っていた魔道書を落とした事を気にも止めず、こちらに走って向かってきた。そしてその女性は俺の胸に飛び付いてきた。
「エイト!」
「うおっ?!」
俺はアリシアを支えきれずにその勢いのまま尻餅をつく形で倒れてしまった。
「痛っ!」
「ア、アリシア?!」
俺が痛みで嘆く中、エリシアはアリシアの行動に理解が追い付かず、驚きを隠せない様子だった。ただ、俺はこの状況を素早く把握する事が出来た。
「また会えたな、アリシア」
「……はい!」
俺とアリシアは座ったまま、しばらく抱擁を交わしていた。不幸中の幸いか、この状況を見ていたのはアリシアとここの店主だけで他に人はいなかった。そのおかげでアリシアは店主から怒られる程度で済んだ。怒られた理由は魔道書を落とした事もあるが、何より平民の俺と抱擁を交わしていた事に対して危惧したらしい。身分階級があるこの世界では貴族や王族が平民と交際してはいけないのだ。まあ、そういう掟も最近では緩くなっているそうだが。唯一状況を理解していなかったエリシアも俺とアリシアの説明でようやく理解した。
「英斗達はとっくに知り合っていたのね」
「そうよ~。これでもね一緒に寝た仲なんですよ?」
「ふ~ん。そうなの」
エリシアが鋭い眼光でこちらを覗いてくる。
「誤解だ!一緒に寝はしたが、なんも変な事はしてない!」
「いや、こっちは初対面のエリシアとあんたが寝た事実に引いてんだわ」
「だから違くないけど違うって!アリシア!弁明してくれ!」
「え~?けど、事実ですし」
エリシアはどうも楽しそうに会話に参加してる。俺の事を弄んでるのか?まあ、アリシアが楽しそうに会話をしてるのは俺としても嬉しい限りだが、このままでは俺の株が下がり続ける。流石にここは助け舟がほしい。俺はアリシアに目配せをする。アリシアは俺の言いたい事を汲み取ったのか、エリシアに声を掛けた。
「エリシア。ちょっと耳を貸して下さい」
「ん?」
エリシアはアリシアに耳を近づけると、アリシアは何かを話した。エリシアは数秒ほど天を仰ぐとアリシアに向かって話した。
「……段階は踏んでちょうだい。お父様に叱られるわよ」
「もちろん」
話の内容は分からなかったが、エリシアも落ち着いて来たし一見落着だろうか。ひと悶着付くと、漸く本題にはいった。
「それでエイトとエリシアはどうしてここに?」
「魔道具とか色々な装備を含めて英斗に揃えたいと思って。出来れば四日以内に手渡して欲しいのだけど用意出来そう?」
「勿論!魔法大国の魔道具店を舐めないでちょうだい!一日あれば直ぐに作れるわ!」
すると接待室の出入り口から店主が覗いてきた。
「俺が作るんだけどな」
店主の言葉に俺とエリシアは笑い、アリシアは「そうでした!」と言って俺達同様微笑んだ。