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異世界勇者の復活手記  作者: 千反田 雄々
第一章 アルトシュタイン王国編
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第七話 幼馴染みとの再開

俺には近所に住む幼馴染みがいた。その子は何かあると直ぐに泣き、よくその子を俺があやしていた。ただ、もう一つの印象として太陽の様な眩しい笑顔をする可愛い女の子という印象もあった。要は日本での初恋だ。小学校低学年の頃、父の転勤で俺は引っ越した。その子は別れの時にも泣いていて、その時は俺も泣いていた。それから、新天地での生活に慣れた頃にはとっくに中学生になっていてその子の事も忘れていた。ふと思い出した時には、幼い頃に仲の良かった女の子という印象だった。

中学卒業を機に俺は久しぶりのその子のいる場所に赴いた。その子が住んでいた一軒家はとても懐かしく感じた。その懐かしさとその子は元気にしているかという思いを胸に、俺はインターホンを鳴らした。するとその子の母親が出てきて、「英斗君?!」と言って驚いた様子を見せるも、俺を家の中に歓迎してくれた。


「これ、お土産のクッキーです。あいつと一緒に食べて下さい」


そう言うと、その子は母は何とも言えない表情で俺に聞いてきた。


「娘の事、誰にも聞いてないの?」

「え、なんの事ですか?」


そう言うと、その子の母はとある部屋に案内してくれた。そこの部屋に入り、とある物が目に入った時、俺は手に持っていたお土産を落とした。


「実はね……あの子中学二年生の頃に亡くなったの」

「は……?」

「学校で色々あったみたいで、自室で……」

「あ……」


次の瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。仏壇にある坂堂彩月(はんどうさつき)の遺影を見ながら、俺は言葉にならない声で泣き喚いた。その時俺は、彩月の事が好きだったという自覚をすると共に、果てしない喪失感を経験した。

それから四年が経過した今、目の前にいるのはこの世界の住人だった。セレアと名乗った猫耳の獣人族は初対面にも関わらず、俺が昔から知っている人物でもあった。


「彩月っ……!」


俺は猫耳の彩月に押し倒された状態の中、いなくなったはずの彩月を必死に抱き締めた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あれから暫く経過し、俺と彩月は両隣に座って目の前にいるトリスの話を聞いていた。


「……でゼルフィニアは丁度昨日、宣戦布告の文通を貰った。内容は『丁度七日後にアルトシュタイン王国に攻め入る』とのことだから、あと六日の猶予だね。アルトシュタイン王国全土で戦争の準備は出来始めてる」

「英斗は参加するのかニャ?」

「ああ。俺も戦う」

「そこは『彩月の為に残るよ……』的な事を言って欲しかったニャ」

「俺はそんなキャラじゃねぇ」

「確かにそうニャ」


地味に恋愛イベントを消費する中、トリスは遠い目をしていた。


「いや~青春だね」

「あ……いや、すまん」

「仕方ないニャ。こっちは十七年も会ってないしニャ」

「そうそう十七年……ん?」


今彩月は十七年と言った。しかし、彩月の死は約十年経過してる。。この十年のギャップは何が原因だろうか。


「俺は今、十七歳だけど彩月も十七歳っておかしくないか?亡くなってからこの世界で過ごした期間も合わせれば、本来なら彩月は今七歳の計算になるが……」

「どうやら、地球での時間とこの世界での時間には多少歪みがあるんだよ」

「歪み?」

「そう。英斗とセレアがこの世界では同い年の様にね。まあ、そういうものなんだとあっさり納得した方が楽だと思うよ」

「そっか……」


まあ、俺からすると彩月とまた幼馴染み出来る上、同い年なんていう事象に嬉しい以外の言葉は検討もつかない。亡くなったはずの幼馴染みに会えてしかも同い年で再び過ごせる……これは神様に感謝する他ない。マジでありがとうございます、神様仏様!


「さて、これから僕達がやるべき事をまとめて話すね」

「わかった」

「了解ニャ」


トリスはわざと咳払いをしてから話始めた。その内容は主に三つ。

一つ、俺はこれから装備諸々を揃えた上で六日後の戦争に備える事。必要な道具はこの国にいる異世界召喚者に頼むそうだ。

二つ、彩月はアルトシュタイン王国の西部の指揮に当たり本土防衛をするそう。どうやら、彩月は剣豪までとは言わないが剣術を極めているらしい。

三つ、俺はガリスとトリス率いる隊に組まれ、ゼルフィニア帝国本土に殴りに行くそう。そしてイリスの行方を探すそう。

その三つをトリスは言った後、俺はトリスと彩月に連れられ、異世界召喚者の元に向かった。

着いた目的地はアルトシュタインの王都にある冒険者協会。早速中に入ると、一人の女性の元にトリスが向かった。その後を俺と彩月が追った。受付のカウンターから見えるその女性はボブぐらいの長さをした金髪で顔がどこかで見たことのある顔つきだった。


「久しぶりエリシア」

「……何の用?」


その女性はトリスに目も合わせずに、手元の書類を見ながら喋った。


「実は異世界転移者がこの国に来てね。少し君の力を借りたいんだけど」


そう言うと、その女性は大きなため息をついた後別室に案内してくれた。冒険者協会の二階の一室に足を踏み入れると、そこには対面で置かれた二人掛けのソファが置いてあった。俺と彩月はトリスに促されソファに座り、その女性は目の前のソファに座った。ちなみにトリスは俺と彩月の後ろに立っていた。


「……私はエリシア・ヴァルシュタイン。ヴァルシュタイン王国第二王女王位継承権第三位で双子の妹。そいつ(トリス)から聞いてるだろうけど、私は異世界召喚者。前の名前は蒼井麻衣(あおいまい)。一応名字は私情で隠してるからエリシアとだけ覚えてくれればいいわ。後は好きな様に呼んで」


淡々と喋るエリシアはまるで父親に冷たくする女子高生の様。冒険者協会の制服を着たエリシアは一見すると平民に見えるが、雰囲気からただ者ではない様子が伺える。流石、王族の血筋を引く者だ。ただ、アリシアと同じ血が入っているのにも関わらず、性格や口調は似ても似つかない。アリシアの様に礼儀作法を学ばなかったのだろうかと疑問に思う程。ほぼ完璧に前世の性格が反映してるのだろう。


「紫藤英斗だ。よろしく」

「よろ。んで英斗君が私の力を借りたいの?」

「そう……らしい」

「らしい?」


そう言うとトリスが説明をするために俺とエリシアの会話に入る。


「英斗は魔道師なんだ。だからエリシアがこの中では適任だと思ってね」

「なるほどね、英斗君は魔道師なんだ。だから、そんな魔道書を持ってるんだ」

「そうだけど……」


修羅場の空気が拭えない。トリスが話すとエリシアは俺に話をする。俺は今の空気に耐えきれず彩月に耳打ちをして聞く。


「この二人なんで仲悪いの?」

「なんか、一時期付き合ってたぽいけど別れたらしいニャ」

「うわ……元カレ元カノの対面か。気まずいな」

「そうニャね」


俺と彩月はトリスとエリシアに対して哀れみの目で見ていた。するとその様子に疑問を持ったエリシアがトリスに質問する。


「なんであの二人あんなに仲が良いの?まだ会って数時間とかでしょ?」


端から見たら当然こんな反応が返ってくる。しかしトリスは平然と答えを返す。


「この二人、幼馴染みなんだよね」


そう言うとエリシアは数秒間硬直した後驚きを露にした。


「はあー?!え、セレアちゃんが前に言ってた幼馴染みってそこにいる英斗君の事なの?」

「そうニャ。私も最初は気づかなかったニャけど、名字も聞いて確信したニャ」

「えー!?んなことあるん!?え、マジで?いやマジか!すごぉ……あ」


俺が女子高生の雰囲気を感じ取った時、エリシアはふと我に返り先程と同じクールな対応に戻った。


「……そうなの。会えて良かったわね。それで、私はこれから英斗君に何をすればいいの?」

「魔道師の装備一式を用意してほしい。代金は僕の隊宛てでいい。でも高価な物は買わないでくれるとありがたいかな」

「具体的な金額は?」

「魔道具の金額が分からないから何とも言えないんだ。まあ中級装備で頼むよ。けど、英斗の持ってる魔道書と指輪があればほぼ要らないと思うんだけどね」

「そうなの?」


そう言うとエリシアは俺の方を見て来た。


「魔法の法律整備がされる前に作られた魔道書だから、聖級以上も収録されてる」

「へぇ……見せて貰う事って出来る?」

「ああ」


俺は腰に掛けている魔道書をエリシアに手渡すと丁寧に最初から読み始めた。


「かなり古い魔道書ね、いつ頃の魔道書なの?」

「確か九百年前の代物だな」

「へぇー、そんな古くから魔道具ってあったのね」

「詳しいのか?」

「これでもヴァルシュタインでは魔道具研究が私の仕事だったの」

「だから魔道具に詳しいのか」

「まあね。ただ、魔力は無いし魔法も使えないから魔力持ちの師匠がテストしてね、色々と身が狭い思いをしてたわ……」


エリシアが昔を淡々と語る中、どの魔法がどこのページに書かれているか知るために目次を見始めた。じっくりと読んでいる中、エリシアの顔はどんどん青ざめていった。そしてエリシアはボソッと呟く。


「この魔道書……古代魔法ばかりじゃない」


これから俺はこの魔道書の凄さを再実感することになる。

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