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異世界勇者の復活手記  作者: 千反田 雄々
第一章 アルトシュタイン王国編
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第五話 王族に生まれた異世界転生者

エイト・シドウという不思議な名前を名乗って生徒会を訪ねた青年は、お父様が言っていた通り黒い髪に黒い目をしていた。どんな人にも似合うと思っていた中流階級で流行している服装、エイトと名乗った者には何故か、似合わないと思い笑ってしまった。けど、同時に私はその佇まいに惚れてしまった。まるでこの世界には存在していなかったかの様な、どこか神秘さを感じるこの人に私は魅力を感じた。男らしさ?勇ましさ?それはきっと違う。神秘さに惚れたとも言い難い。

己を勇ましく見せる為にわざ胸を張って無理に貴族風の言葉を喋ろうとする。しかも結構訛りが酷い。まるで昔の人みたいな、古語に近いような訛り。それもまた、私に魅力を感じさせた。

詳しく話をしたが、彼の会話には親近感を感じた。お父様が認めるだけあるなと思った。

そして今、私はエイトを静かに抱き締めていた。日が暮れてこの部屋も薄暗くなって来た頃、エイトはとうとう落ち着いた。エイトはどれぐらい泣いていたのだろうか。私の服は水に浸したような様子になっていた。エイトは申し訳なさそうに静かに私に謝った。

普段なら、「女性の前で男性が無くなんて」と思うかもしれない。けど、エイトの涙はとても愛おしくて懐かしさを感じた。エイトの悲しみが肌を通じて私に伝わってきた。私も泣きそうだった。それと同時に私はエイトの事をもっと知りたいと思った。

エイトきっと私では想像も出来ない過酷な人生を送って来たんだろう。だから今の私にエイトと一緒に泣く権利はなかった。

だから私に出来ることはエイトを慰めることだけだと確信した。


次の日の朝、私はエイトと同じ寝室で目を覚ました。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「準備は出来ました?」

「いつでも行けるぞ」

「それでは、行きましょうか」


アリシアはそう言うと、魔法学校の寮から外に向かった。俺はアリシアに着いて行き、向かう場所も分からぬまま大通りに出た。


「神聖の魔道師だ……!」

「すげぇ!本物だ!」


先程からアリシアへ野次らしき文言が聞こえてきた。


「アリシア?」

「なんでしょう?」

「アリシアって二つ名とかあるの?」

「『神聖の魔道師』とは呼ばれてますね」

「すげぇ二つ名だな」

「ただの二つ名ですよ。凄いことなんて何一つしてないです」


歩いている途中詳しく聞いてみた所、アリシアは魔法学校で研究していた魔石病に関する論文を発表した際、魔法協会から直々に認められるという偉業を成し遂げていた。謙遜にも程がある!魔法協会はこの国を含む、アスクレピア連邦という魔法国家をも束ねる大きな組織で、魔法のあらゆる情報を独占しており、一国よりも魔法技術が優れていると噂される程の所だ。そんな組織に認められるということは相当な実力を持っている。


「さて、ここら辺で良いでしょう」


アリシアは大通りから少し外れた噴水広場で立ち止まると、一切れの布を取り出した。


「なにそれ?」

「目隠し。これから私が取って良いと言うまで着けていて下さい」

「……」

「大丈夫です。決して変な事はしません」

「ふぅーん……わかった」


俺は渋々目隠しを着けると、アリシアは俺の手を掴み歩き始めた。噴水広場から離れ、人の声が聞こえてくる所まで来たっぽい。恐らく、再び大通りに来たのだろう。どれぐらい歩いたのか、アリシアはどこかのドアを開くとそのまま俺を連れて中に入った。


「どこに入ったんですか?」

「まあまあ、お気になさらず」


俺はアリシアにあやされるまま、店内らしき場所を歩くと再びドアを開ける音が聞こえた。すると、先程までいた大通りとは少し異なった空気が俺の鼻を通った。肌から感じる雰囲気も少し違う。本当にアルトシュタイン王国に来たのだろうか。暫く歩かされると、人が行き交う場所で止まった。


「ここで良さそうですね」

「もう外していいですか?」

「まだダメです……」


アリシアはそう言うと、俺の周りを周りながら話し始めた。


「私がどうぞと言った十秒後に目隠しを外して下さい。その目隠しはプレゼントします」

「やったねー」

「棒読みは悲しいですよ?」

「……冗談だ。大切にする」

「ただの布切れなのですが……」

「人からの貰い物は捨てられないたちでな」

「なるほど……では、また会った時にその目隠しを持っていたら何でも一つだけ願い事を叶えましょう」

「ん?今なんでもって言った?」

「もちろん、良識の範囲ですが」


良識の範囲とはつまり、ほぼ何も出来ない事を意味する(個人の感想)。まあ、何をするかは次会う時までに考えておくか。……そう言えば、少し引っ掛かる事があった。アリシアの言っていた次っていつだろうか?


「そういや、また会った時って……いつなんだ?」


俺は静かに独り言の様に呟いた。すると、アリシアから啜り泣く用な声が聞こえた。


「っ……目隠をした状態でそんなこと言わないでよ。私だって……」


アリシアは今までとは反して、その口調はまるで十代の女の子の様な口調になっていた。何かを言いかけたが、何を思ったのか口を閉ざした。そして一呼吸置くと、先程まで泣いていなかったかのような素振りで話を続けた。


「……貴方とは仲がいい友人だと思っています。友達以上恋人未満と言った所でしょうか。貴方の事をもっと知りたいとも思っています。ただ、これ以上親密になると別れが惜しくなりますから、これぐらいの会話で終わらせましょう」


恐らく、今言った事はアリシアの素の気持ちに違いない。ただ、その言葉が俺とアリシアに深い溝を構築した気がした。そんなことをアリシアは気づきもせず、続けて言った。


「もし、ヴァルシュタインでこれから起きるであろう内乱を無事お兄様が止め、エイトも普通の青年に戻れたなら、その時は是非、私と一緒に舞踏会に出席して頂けませんか?」

「ダンスか……」

「苦手ですか?」

「いや、勿論踊れる」

「それでは修正しないといけないのは、その敬語ですね」

「あ、やっぱ変だった?」

「違和感まみれです。今度、教えますよ」

「ははっ……」

「ふふっ……」


人の行き交う環境音がする中、俺とアリシアの乾いた笑い声だけが俺の耳元に届いた。


「その……昨夜はありがとうな」

「いえ、私はただ近くで寝ただけです」

「よく言うよ……あんな事初対面でできるなんて、もしかして俺の事好きなのか?」

「あら、そう思わせてしまったのなら申し訳ないです」

「え……」


まさか全て俺の勘違いだったのか。今までのアリシアの行動や発言の全てが考えた上でしていたのであれば、とんだ策士だ。流石にやられっぱなしは俺のプライドを傷つける。即、前言撤回だ。


「じ、冗談に決まってるだろ」

「ですよね」


この返事は完全に俺の敗けだ。分かりきった上で恐らく凛とした表情で言葉を返してる。再び脳内で反省会をしている中、アリシアが話を始めた。


「目隠しを外したら、まずはアルトシュタインの王城まで向かって下さい。そちらでトリス・ヤマト・アルトシュタインという人物がいます。その方に助けを求めて下さい」

「……わかった」

「それでは私は行きますから、十秒後に目隠しをお取りになって下さい」


そう言うと、アリシアは深呼吸して最後に言葉を残した。


「……また、会いましょう」

「ああ、またな」


そしてアリシアの足音はゆっくりと遠退いていった。十秒後、俺は言われた通りに目隠しを外した。目隠しをズボンのポケットにしまうと俺は目元が赤い事を知らないまま、城に向かった。


「……なんの用で城に?」


門番らしき兵士に足を止められると、俺は素直に要件を伝えた。


「エイト・シドウと申します。アルトシュタイン王国のトリス・ヤマト・アルトシュタイン様に要件があり参った次第です」

「トリス様か……ちなみに貴様、どこの国から参ってきた?」

「エクリプス王国です」

「その訛った言葉遣いは誰から教わった?」

「元々こんな話し方ですが」


目の前の兵士は半ば尋問をするように聞いてきた。俺がそんなに怪しいのだろうか。すると、兵士の後ろから上司らしき一際目立つ甲冑を着た兵士がやって来た。


「そいつは?」

「エクリプス王国から来たエイト・シドウと名乗る者です。どうやら、トリス様に要件があるとか」

「ほう……エイトと言ったか?貴様もしや異世界から来たか?」

「え……?!」


異世界というワードに思わず、声を粗げてしまう。その様子を見て、上司らしき兵士が薄ら笑いを浮かばせた。


「こいつ、ガリス様の言っていた要注意人物の一人だ。回収するぞ」

「はい!」

「なっ?!」


間髪入れずに、二人の兵士は俺の腕を掴む。その握力は凄まじく、背中に背負った魔道書は無論手に届かなかった。


(一体なぜ、異世界の事を知ってるんだ?!)


俺は今起きてる状況に対して軽く錯乱状態になっていた。そんな中また一人、兵士の後ろから歩いてやって来た人物がいた。


「そのお方は?」

「トリス様……!」

「トリス様!」


二人の兵士がそう呼んだ人物は高級そうな純白の軍服を身に付けた男性で、金髪かつ青い瞳をしていた。しかも、かなりの高身長。いかにも俺が想像する王族イケメンをそのまま象った青年だった。


「拘束してるっぽいけど、何かあった?」

「い、いえ!何もございません!」


そういうと二人の兵士は慌てて俺を掴んでいる手を離した。


「君はここにはどんな用で?」

「えーっとトリス様に会いに来ました」

「なるほど……恐らく、あれか」

「あれ?」


青年が言った「あれ」には全く見当が付かない。何の事を言っているのだろうか。


「こいつ分かっていないのでは?」

「いや、それでいいんだ。これは秘密裏な内容だから、そこの黒髪青年もきっと知らないはずだよ」


俺を黒髪青年と言ったトリスは俺の肩に手を乗せると、続けて話した。


「とりあえず、僕の執務室まで来てもらいたい。いいかな?」

「あ、はい」


そして俺と青年は二人の兵士を置いて、執務室に向かった。

執務室に入ると、俺の座った向かい側の席に青年は座り、早速本題に入った。


「単刀直入だが、君は日本人かい?」


この世界で日本人という単語は初めて聞いた。しかも、立て続けに「異世界」「日本人」という用語だ。こんな金髪青年に言われると、さっきの事と相まって警戒心が高まる。俺は自然と無言になった。


「……」

「ああ、すまない。さっきの事もあって警戒心があるだろう」


そう言うとトリスは立ち上がり、自己紹介を始めた。


「紹介が遅れてしまったね。僕はアルトシュタイン王国第二王子継承権第一位トリス・ヤマト・アルトシュタインだ」


そう言うと、トリスは一呼吸置いて再び喋った。


「実はこう見えて僕は元日本人だ。異世界転生でこの世界に来た」


俺はこの世界に来てから初めて声を荒げて驚愕した。

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