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異世界勇者の復活手記  作者: 千反田 雄々
第一章 アルトシュタイン王国編
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第三話 反乱の予感

「エイト!逃げる準備は?!」

「とっくに出来てる!にしてもなんだ!さっきからこの爆破音は!」


国王になったターゲがエクリプス王国内における魔道師の撲滅を言い渡してから数時間後、王都は火の海に飲まれていた。魔術師、魔剣師は俺の行方を探し、隈無く王都を捜索していた。その脅威から俺を守るために、王都にいる一部の一般魔道師が俺が国外に逃げる為に必死に時間稼ぎをしてくれていた。


「爆裂魔法だ。あいつらこの王都がどうでもいいんだろ。これじゃあ戦争に勝った意味もない……」


あの時の戦場を思い出したのか、アークは悲しそうに嘆く。俺は自分の心配よりもアークへの心配が高まった。


「俺が逃げた後、アークはどうするんだ?」

「俺は実家に帰る。幸い、魔術師達に俺は狙われていない。ゆっくり余生を過ごすさ……逃げる準備はいいか?」

「ああ!」


俺とアークは一斉に家を飛び出した。外は煙で覆われ、あちこちで戦闘音が聞こえてくる。だが、俺はひたすらに王都の北を目指してひたすら走る。アークは俺の援助をしてくれる。途中、知り合いの冒険者が魔剣師に惨殺されたところを目撃したが、俺達は自分達の意思を殺して、とにかく北に向けて走り続けた。その途中、俺達はパーティを組んだ魔剣師に出会した。


「俺がやる!」


俺は魔道書を取り出すと、光の矢を発動させようとした。しかし、魔法は発動しなかった。


「なっ……?!」

「エイト!」


俺が剣で斬られそうになる直前、アークが敵の斬撃を剣で跳ね返してくれた。


「すまん、助かった!」

「魔法が使えないのか?!」

「どうやら魔法を無効化する結界が張られているみたいだ……」


上空を見ると光の反射で見える、サイリウムの様な赤色をしている線が規則正しく交わっていた。


「わかった!ここは俺が食い止める。間を潜って行ってくれ!」

「は?!」


それだと完全に死亡フラグだ。目の前にいる魔剣師は残り二人。俺も加勢すれば一対一の構図が成り立つ。相手の魔剣師の熟練度がどれぐらいかは不明だが、通常魔剣師とただの剣士では魔剣師の方が圧倒的に強い場合が多い。剣士であるアークが二人を足止め仕切れるとは思えない。


「時間がないんだ!応援が来る前にさっさと行け!」


しかし、アークの使命はあくまで俺をこの国から逃がすこと。今敷かれている結界のせいで俺は戦うことが出来ない。であればアークが戦闘に集中できるように、俺が今すぐにでもここから立ち去ることが賢明か。


「っ……!すまん、またいつか会おう!」

「ああ!」


そして俺とアークを置いて王都の路地で別れを遂げた。あれからどれぐらい時間が経過しただろうか。俺はエクリプス王国からの逃亡に成功し、現在は馬車に相乗りして隣国の領地に入っていた。目指す場所はヴァルシュタイン王国。この世界の大陸の中心に位置し経済、文化、魔法、軍事が全て均等に急速な発展を遂げている国だ。


「すまないな、兄ちゃん。魔法連合経由でヴァルシュタインに行けなくて」

「いいんです。あそこは山脈が入り組んでますから」


エクリプス王国からヴァルシュタイン王国に行くには二つのルートがある。一つ目は「魔法連合」という二つの国で構成された連合を通過する山岳ルート。二つ目は対魔大陸防衛連盟に加盟してる国を通過する平野ルート。こちらは多少時間はかかるが、大きな山がない。馬車に乗せてくれた男性は馬車の問題で二つ目のルートで走行していた。


「うし、そろそろヴァルシュタインに入るぞ」


男性はそう言うと国境線の目に見えて引かれていない、草原平野に入った。


「ここから王都まではどれぐらいかかるんですか?」

「休息も入れて、十四日ぐらいだ」


そして俺は地面からの振動に揺られるがまま、色んな町を通過し、男性が言っていた十四日後の昼頃に馬車は王都に到着した。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「本当に助かりました。気持ち程度にはなりますが、受け取って下さい」


本来なら、銀貨50枚くらいの報酬。しかし、俺は金貨5枚を渡した。


「旦那!これだと十倍も支払ってるぞ。いいのか?」

「ずっと大金を持ってても俺には扱いきれないんで、受け取って下さい」


男性は申し訳無さそうな表情をしながら渋々受け取った。


「ありがとな……また会った時は恩返しでもさせてくれよ」

「はい。その時はお願いします」


そして俺と男性はヴァルシュタイン王国で別れた。それから俺はヴァルシュタイン王国の王都を散策し始めた。とはいえ、これから何をすればいいのか全く検討が付かない。暫く悩んだ後、一つの結論に至った。


「ひとまず、宿と冒険者協会には行かないとな……」


この国で寝泊まりする場所と働く場所。これはこの国で生きていく上で必須条件。その為、宿屋を探しながら歩いていたら、気づいた時には大通りに出ていた。続けて大通りに構える屋台周辺を散策していた時、遠くからラッパ音が鳴った。


「……なんだ?」


次の瞬間、大勢の国民が通路を前にして跪いた。

この国のルールは全て把握しきれていないが、ひとまず俺も同様に跪いた。しばらくすると、右手の通路から馬車がゆっくりと向かってきた。


(国王か……)


豪華に飾られた王家特有の馬車に加え、馬に乗った兵士が先導する形で大通りを進んでいた。丁度馬車の窓が俺の目の前を通過した時、中に乗っている国王と目が合った。すると国王は驚いた様子で馬車を止めると慌てた様子で馬車から出てきた。周囲の国民はいきなり国王が馬車から出てきた事に驚き、小言が飛び交う。そんな国王には眼中にもない様子で国王は俺の前に立つと、ゆっくりと座った。


「エイト殿!何故こんな所に?!」

「……お久しぶりです。ヴィクタドルフ様」


俺は以前、ヴァルシュタイン王国の国王であるヴィクタドルフ・ヴァルシュタインに会ったことがある。

小国のエクリプス王国がセイグリット防衛連合に勝利した際、直々にエクリプス王国にヴィクタドルフが赴いたのだ。どうやら小国が連合に勝った理由を聞きたかったそうで、その際に俺はエクリプスの国王から紹介された事をきっかけにヴィクタドルフとはある程度交友関係を築けていた。しかし、ヴァルシュタインで何か問題が発生したそうで、それ以来連絡が途絶えていた。そんな時にエクリプス王国から逃亡した為、俺はヴィクタドルフに何の手紙も送らずにヴァルシュタイン王国に赴いたのだ。


「と、とにかく城に案内しよう!」

「ありがとうございます」


俺はヴィクタドルフが乗っていた馬車に一緒に乗り込むと、そのまま王城まで向かった。豪華な応接間に案内されると、俺は上座に案内され、その目の前にヴィクタドルフは座った。


「遥々遠方から我が国まで赴いてくれた訳だが、どんな用でこんな所まで?」

「……反魔道師主義から逃げるためです」


するとヴィクタドルフは深いため息を付いてから、淡々と喋り始めた。


「……あのターゲとやら、やはり反魔道師主義だったか」

「はい。そのおかげで俺はあの国での居場所を失いました。なので、この国で保護してくれるかもしれないという希望だけを頼りに赴いた次第です」

「そうだったのか……ご苦労であった」


ヴィクタドルフは少し考え込むと重い口を開いた。


「正直に話そう……実はこの国もいずれ危険な場所になるかもしれないのだ」

「と、言いますと?」

「この国で反乱の予兆があるのだ」

「反乱ですか?」

「これはヴァルシュタイン王国内でも極秘な情報なのだが、君であれば言っても問題ないだろう……」

「……」


今から言われる事にとても嫌な予感がしたが、その予感は的中した。


「我は今、魔石病を患っているのだ」

「ま……魔石病ですか?!」

「声が大きい!」

「……っ、失礼しました!」


「魔石病」それはこの世界特有の不治の病。医療技術の発展していないこの世界では発症原因がほとんど解明されていない。医療より治癒魔法が発展してるのにも関わらず、帝級の治癒でも治癒出来ないとされている。帝級よりも更に上位である神級の治癒魔法だと治癒できるとされているが、真偽は不明である。


「……それが何故反乱に繋がるんですか?」

「この国は長い年月を掛けて様々な種族が暮らすようになった。その影響もあり、他国と親密な貴族が増えてきた。そして我が死んだ時、丁度この国で内乱が起こるであろう変わり目に至ると考えている。息子であるヴィクターには王としての素質がある。ただ世襲のタイミングを狙い、革命を起こすかもしれぬ。息子のヴィクターはそれに対処できるどうか……」

「それが理由で俺はこの国でも危険かもしれないと?」

「そういう事だ。友人であるエイト殿には来て早々に出て行って欲しいというのは無礼にも程がある。それは重々承知の上でエイト殿の為を思って言っている事を理解して欲しい」

「……では私も戦います」


恐らく、俺がこの国にいる事を知ればこの国の貴族は大きく出れないはず。俺が抑止力になればこの国の情勢を少しは落ち着かせることができるだろう。


「それは駄目だ」

「何故ですか?」

「今君はエクリプス王国から逃げている身。居場所がバレるぞ」

「ああ……」


確かに俺はアークのおかげで辛うじて居場所を隠せている。ここで居場所がバレたりしたらアークに申し訳ない。


「わかりました……」

「うむ」


するとヴィクタドルフは側近に何を用意させた。


「これを見て欲しい」

「世界地図ですか」

「その通り。王族や上級貴族でも知らぬ者が多い。エイト殿には特別に見せよう」


そう言うと、ヴィクタドルフは地図に指を乗せた。


「ここがヴァルシュタイン王国の王都。そこから西に進み、バスティオン共和国まで赴いて欲しい」

「何かあるんですか?」

「娘がこの国の魔法学校に留学している」

()()ですか」

「そうだ。娘の名はアリシア。詳細は分からんが、アルトシュタイン王国まで安全に行けるらしい」

「……遠回りでは?」


今いるヴァルシュタイン王国の王都を東に向かうとアルトシュタイン王国という、ヴァルシュタイン王国より国力は劣るが、反魔剣師主義がいない平和な国がある。それにも関わらず、西に行くのはエクリプス王国の方向に戻る方向な為合理的ではない。


「この国からアルトシュタインに行くにはザノタイン王国を通過する必要があるが、あそこはエルナ同盟の加盟国だ。ヴァルシュタイン及びアルトシュタインとは別同盟かつ敵対国である。その国をエイト殿に通過させる訳には行けない。加えて娘が襲われた実例もあるしな」

「……確か、エリシア様ですか」


ヴァルシュタイン王国の王家には国王のヴィクタドルフの他、長男ヴィクター、双子の長女アリシア、双子の次女エリシアがいる。


「そうだ。危機一髪の所をアルトシュタイン王国のトリス殿に救われたそうだ」

「そうだったんですか」


どうやら、安全を考慮するとヴァルシュタインから直にアルトシュタインに行くのは厳しいようだ。これ以上ヴィクタドルフに借りを作りたくはないが、今回は大人しくアリシアとやらに助けて貰うしかなさそうだ。


「一先ず理解しました。先程の話は全面的にヴィクタドルフ様の指示に従います」

「ああ。今日はゆっくり休んで城で休んでくれ。明日の用意はこちらで行おう」

「わかりました。お世話になります」


俺はソファから立ち上がると、出口に向かった。丁度部屋から出ようとした時、ヴィクタドルフが声を掛けてきた。

「エイト殿」

「ん、何でしょうか?」

「エリシアは今、アルトシュタインにいる。恐らく名前を変えているかもしれないが、もし会った際はよろしく頼む」

「わかりました」


そう言うと、俺は部屋を後にした。


王都で一泊した後、早朝にメイドに起こされると朝支度を速やかに済ました。その足で俺は馬を用意された王城の門の前に案内された。そこにはヴィクタドルフとヴィクタドルフの一人息子であるヴィクターがいた。


「お初にお目にかかります、エイト殿。ヴィクターと申します」

「エイト・シドウです。お会い出来て光栄です」


ヴィクタドルフよりかは柔らかい顔つきで、青年らしい爽やかさも感じさせるが、佇まいからその内に秘める強さを感じさせる。恐らく、かなり強い。


「すまんな、息子がどうしてもエイト殿に会いたいと言ってな」

「いえいえ、私に何か用ですか?」

「これから、妹達と合流すると聞いた。この国はこれから争いが始まる可能性が非常に高い故、妹達だけは既に避難させている訳だが、それでも兄として幾分心配事がある。妹達もこの国に生まれ育った訳だ。愛した国を失わせる訳にはいけない故、我は命を賭けて祖国を守る。ただ、もし我に何かあった時に妹達をどうか頼みたい。これは我の私情に過ぎない。引き受けなくても構わない。しかし、今の我にはエクリプス王国の英雄である、貴方様しか頼ることが出来ない。どうか頼む」

「……出来る限りの事はしましょう」

「……ありがとう、頼む」


そう言うとヴィクターは俺に握手を求めた。俺はすかさずにその右手を握り締めた。


「エイト殿、一つ頼み事がある」


熱い握手の余韻に浸っていた時、隣からヴィクタドルフが声で遮る。


「なんでしょう?」

「この手紙をアリシアに渡して欲しい」

「はい。わかりました」

「よろしく頼む」


そして俺は馬に跨がった。


「ヴィクタドルフ様、ヴィクター様、どうかお元気で」

「エイト殿も達者でな!」

「はい!」


門を駆け抜けると、俺はバスティオン共和国に向けて出発した。

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