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異世界勇者の復活手記  作者: 千反田 雄々
第一章 アルトシュタイン王国編
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第二話 始まりの終わり

英雄になってから数ヶ月が経過した。とうに俺はエクリプス王国での暮らしにも慣れ、現在は魔道師かつ冒険者で生計を立てていた。

「魔道師」とは魔道具という道具を使って魔法を発動する。詠唱や杖等を使って魔法を使う職業は「魔術師」と別に定められている。完全に剣と魔法の世界だ。この生活をしていく中で一つ断言出来ることがある。いや、とっくの前から断言出来たが、ここで正式に断言しよう。それは、ここは地球ではなく別の世界ということ。


つまり、ここは異世界だ。


なぜが異世界に来たか原因は分からない。ただ異世界に来た以上、異世界ライフを謳歌しないのはお門違いだろう。それでも一つ気になるのは俺がどういう経路で異世界に来たかだ。俺的には異世界に来るにも三通りがあると思う。異世界転生、異世界召喚、異世界転移。現状から見て、俺に当てはまるのは異世界召喚か異世界転移。ただ、あんな戦場に召喚する奴がいるなら相当な鬼畜か馬鹿野郎だ。これを踏まえると異世界転移の線が濃厚だ。まあ、それを決定付ける根拠も無いので完全にお蔵入り。俺以外にも異世界転生やらなんやらしてる人がいれば話に理論付けが出来そうなんだが。


「よそ見するなエイト!」

「ああ……悪い」


色々と思考を巡らせていた俺だが、俺とアークは今現在迷宮を探検している。

王都に戻った後、アークが戦場で負った傷は治癒魔法で完治した。あまりにも高性能な治癒魔法だった為、俺はとても感嘆した。だが、治癒魔法の利便性が良過ぎるが故に医療技術はそれほど発展していないらしい。


「撃てるか?」

「もちろん」


俺は攻撃態勢を整えると、魔道書を開き魔方陣に左手を添え魔力を込めた。直後、標的に左手を向けて魔法を発動。魔道具の一番便利な所は無詠唱で魔法が発動できることだ。

次の瞬間、矢の如く光が一直線にドラゴンの首を貫く。ドラゴンは即死だった。


「ふぅ……一丁上がり!」


俺は額に滴った汗を腕で拭き取ると、アークが声を書けてきた。


「あのなぁ……エイト」

「ん?」

「中級クラスのドラゴンに聖級の魔法をぶつけるのは勿体無いぞ」


俺が今使った魔法は聖級クラスの光魔法「光の矢」どんな属性の魔物も冥土に送る。

ちなみにこの世界には魔法や剣術、魔物にランク付けがされている。一番強い神級から順に帝級、王級、聖級、上級、中級、初級までがある。


「仕方ないだろ。こっちの方がドラゴンの傷を最小限に抑えられる」

「まあ、傷がない方が売った時に高値が付くが……」

「光魔法は聖級からしかないし、許してくれよ~」

「わかった、わかった。さっさと運ぼう」

「りょーかい」


そして俺達は手慣れた動きドラゴンを捌き、冒険者協会に持って行った。


「本日もお疲れ様でした。エイトさん、アークさん。それにしてもこんな大量のドラゴンの肉塊を持って来るなんて凄いです!」

「なんてことない」

「そうなんですか?」

「おう」


俺が自信満々に答えるとアークが茶々を入れる。


「聞いてくれローズ。エイトがどんな相手にも聖級クラスの魔法を使うんだ」

「それは何と言うか……聖級魔法の無駄遣いな気がしますね」

「ローズさんもそう思うのか……」


ローズはこの冒険者協会で働いている職員だ。毎日のように来る俺とアークはいつしか友人になった。


「けど、光魔法なら傷は最小限に抑えられるので良いかもしれませんね」

「だろ?」

「まあ、俺も一概に悪いとは言わないが……魔力消費を考えるとな」

「確かに、光魔法は基本的に人が使う魔法ではありませんね。魔力消費が大きいのは事実です。ただ、エイトさんの魔力総量なら問題ないですよ」


元々光魔法はエルフ族が使う魔法だったらしい。しかし魔法研究の成果で、人でも光魔法が使えるようになったそうだ。ただ、光魔法は魔力総量が多いエルフ族だからこそ使えた魔法であり、魔力総量がそれ程多くない人族で光魔法が使える者は多くないと言う。


「魔法が使えない分、魔力総量だけは取り柄だからな。マジで魔道師は天職だよ」


冒険者協会へ行き冒険者登録をする際、色々なステータスの確認が行われる。そこで魔力総量や魔法適正、あらゆる職業への適正検査が行われるのだが、俺は魔法適正皆無にも関わらず、魔力総量だけは測定不可という事が判明した。その結果を見て周りは俺に魔力が無いから測定不可という結果になったと言われたのだが、試しに魔道書を使ってみたところ問題無く使えたので、魔力総量が多すぎて測定出来なかったというオチだ。


「さて、これが本日の報酬ですね」


そう言うとローズは窓口から金貨二枚を差し出して来た。この国には通貨として金貨、銀貨、銅貨の3種類がある。恐らくだが、日本円にして金貨一枚が一万円、銀貨一枚が百円、銅貨一枚が一円の価値に相当する。つまり今回のドラゴン討伐で報酬二万円を獲得した。


「「ありがとうございます」」


そう言うとアークと俺は一枚ずつ金貨を受け取り、冒険者協会を後にした。


「この後どうする?」


俺冒険者協会を出た直後、俺はアークがこれから何をするのか聞くと、アークは少し悩んでから答えた。


「……飲まないか?」


アークが飲みに誘うのはかなり珍しい。何かあったのだろうか。知りたいとは思ったが、特段聞く必要も無いと思った俺は特に何も聞かなかった。


「んじゃ、飲むか」

「ああ」


そして俺達はお世話になっている酒場に向かった。その酒場はカウンター席とテーブルがあり、小規模なお店ながら中流階級が嗜む酒場に適している。その為か収入が安定しない大抵の冒険者が来られる場所は無いため、比較的荒くれ者が少なく静かな酒場である。


「店主、いつもの」

「俺はスライムサワーで」

「あいよ」


内装は木を基調としたまさにレトロチックな酒場。どこか懐かしさを感じる内装が一段とお酒を美味しくさせる。


「エイトはスライムサワーが本当に好きだな。何が良いんだ、あれ」

「舌がピリピリする刺激が良いんだよ。味も美味いし。酔わない俺にとっては一番マシなお酒だよ」

「そんなもんなのかね」

「そんなもんだよ。まあ……あんま気にするな」


数分待つと、テーブルにお酒が置かれた。俺は一気に飲み、アークはゆっくりと飲み始めた。


「相変わらず美味いな!」

「もっとゆっくり飲め」

「店主おかわり!」

「あいよ」


店主は待っていたかのように、すかさず二杯目のスライムサワーを置いた。


「ありがとうございまーす」


一呼吸置くと、俺はアークに聞いた。


「お前から飲みに誘うなんて珍しいよな。なんかあったのか?」

「……」


アークは黙り込んだまま。やっぱり何かあったのか。


「俺、まだ酔ってないんだが」

「あ……」


暫く待つと、アークは何杯かお酒を飲み終え、頬も赤く染まってきていた。そろそろ聞いてもいいだろう。


「んで、何があったんだ?」

「……ああ。噂で聞いたから信じなくても良いんだが」


そう言うと、アークは姿勢を一度直すと一呼吸置いて話を続けた。


「エクリプス王国の第一王子は知ってるか?」

「ターゲ・エクリプスか。王宮で一度だけ話した事がある」


ターゲ・エクリプスはエクリプス王国の第一王子で、金髪の青年だった事を覚えている。ターゲは四人兄弟の長男で、弟が一人と妹が二人いる。確か漆黒の霧の魔法について聞かれて、適当にはぐらかした時「魔法概念も知らぬ、素人が」と小声で罵られた。相当嫌な奴だと思った。ただ、弟と妹二人は好感の持てる良い人達だと思う。


「エイトからみてターゲはどう思う?」

「……ターゲは魔術師だろ?魔術師と言えば反魔道師主義が一際目立つ。もしターゲが国王になったら俺をこの国の汚点として消しに来るかもしれないな」


この世界では詠唱を用いて魔法を発動する魔術師は高貴な職業とされ、魔道具を用いて魔法を発動する魔道師は下劣な職業と言われている。具体的には小難しい歴史的背景があるのだが、大雑把に言えば魔術師が一方的に魔道師を嫌悪しているだけである。そんな魔術師が魔道師を嫌悪することを「反魔道師主義」と呼ぶ。


「……それだよ」

「それ?」


いまいちピンと来ない。アークは何が言いたいのだろうか。


「今、ターゲは魔術師と魔剣師をかき集めていると言う噂があるんだ」

「え?」

「エイトが使った魔道。実際には魔術師が放った魔法だったが、エイトがその功績を盗ったと言い広めてるらしい」

「マジか……けど、信用する奴なんているのか?」

「あいつは次期国王だ。信憑性なんかはどうでもいい。ただ、国王に従っていればいいんだよ。それに反魔道師主義者をそのまま利用できるしな」


俺は頭から冷や汗が流れてくるのを感じた。本当にそれが事実なら、俺はどうなるのだろうか。


「……それはまずいな」

「だから、あれだ。この国から逃げる用意も考えた方がいいかも知れない。国王が最近、病に蝕まれているとも聞くしな」

「一応……気を付けておく」


それから一ヶ月後、エクリプス王国の現国王が亡くなった。王都では亡くなった国王を祀る大規模な葬儀が開かれた。翌日、新国王の襲名式が行われ、ターゲが正式にエクリプス王国の国王になった。同時に、ターゲは民衆の前でとある演説をした。


「魔道師は不必要に魔術師及び魔剣師の権益を侵害している。今こそ、天罰を下すべき」


それを機にエクリプス王国から俺の居場所は失くなり、反魔道師主義からの逃亡劇が幕を始まった。

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