第十二話 不穏な空気
「我々が勝利したことを盛大に祝おう!」
トリスが酒を掲げると、王城中に喝采が湧いた。
アルトシュタイン帰還後、王城に戻ったトリスは現国王かつ実父である、ヴィクター・アルトシュタインに報告を行いに向かった。しかしそこにいたのは冷えきったヴィクターの遺体だけだった。
急遽臨時でトリスが国王としての指揮を執ると、始めに第二都市で監禁されているトリスの姉であるイリスの救出を行った。ガリスが言っていた通りイリスは地下牢屋で監禁されていたが命に別状は無く、無事に保護された。同じ第二都市にいるエリシアも無事で俺とトリスが勝利を伝えると安堵した様子で共に王都に戻った。
彩月を含む彩月が率いた部隊は俺とトリス、エリシアが戻った時には既に王都に帰還しており、彩月の方は無血で終わったそう。どうやら、ヴァルシュタイン国王であるヴィクタドルフが足止めをしてくれたらしい。またしても俺はヴィクタドルフに借りを作ってしまった。
そしてたった一日で終わった戦争は、トリスが国王になる襲名式に加えて戦勝の祝いも兼ねて舞踏場で貴族、隊の幹部クラスも含めてコーヒーハウスの如く豪華な料理を頂いていた。
「英斗が無事で良かったニャ」
「彩月もな」
「二人共、元気そうね」
俺と彩月は舞踏場の中心からやや離れている場所で俺は定番のスライムサワー、彩月は俺の勧めでノンアルコールの飲み物を飲んでいた。そこにやって来たのはドレスを身に纏ったエリシアだった。
「おお、エリシアか。にしてもドレス似合ってるな」
「ありがと」
「英斗が他の女の子に目移りしたニャ」
「褒めるぐらいはいいだろ」
「私のドレスは褒めなかったニャ」
「じゃあ褒めてやる」
そう言うと俺は彩月の頭に両手を乗せ、盛大によしよしをした。
「よーしよしよし!良い子だなセレアニャンはー!」
「ニャー!一時間掛けて整えた髪が崩れるニャー!」
俺の手を振り払うと、慌てた様子で自分の髪を整え始めた。
「許さないニャ」
「すまん、すまん。可愛くてつい」
「ニャ……!それってほんと……かニャ?」
「動物としてだ」
「ニャー!ふざけるニャー!」
彩月は爪を立てて俺に襲い掛かろうとする。しかし、場所が場所なのでエリシアが止めにかかる。
「セレアちゃん落ち着いて。ここ沢山人いるから目立つわよ」
「ニャ……英斗~!覚えてろニャ!」
「あはは、どこぞの悪役だよ」
俺は笑いながら、お酒を嗜んだ。
「三人共、仲良くやってるね」
「お、トリス!」
「主役のお出ましニャ。あと、トリスの姉もいるニャ」
トリスの後ろには紅色のドレスを身に纏った女性が立っていた。
「お初にお目にかかります。わたくしはアルトシュタイン王国第一王女のイリス・アルトシュタインですわ」
そう言うと、イリスは王族ならではの挨拶をした。
「姉上とは英斗とエリシアは既に顔見知りだけど、セレアはまだ会っていなかったね」
「そう言えばそうニャ。丁度イリスが王都から出たタイミングで私が王都に来たニャからね。改めて、私はセレア・ファングゲレオニャ」
「初めまして、セレアさん。セレアさんのお話はトリスから聞きました。トリスの右腕としてザノタイン王国との国境では隊を導いたと」
「結局私は何もしなかったニャ。それよりイリスが無事で良かったニャ」
「そう……ですか」
いきなりイリスが俯いて考え込むと、俺を含む周りの皆は心配になった。
「どうかしたんですか、姉上?」
「あの……エイトさん」
「なんですか?」
「エイトさんはフルネームをシドウエイトと言いましたよね?」
「はい。それがどうかしました?」
「エイトさんの名前を聞いてから……私色々と考えてたんです。トリスやエリシアさん、そしてエイトさんとセレアさんの四人の特別な関係に」
「特別な関係?」
「はい。それが今、漸く聞けると確信しました」
するとイリスは一呼吸置くと、真剣な眼差しで俺に質問した。
「……エイトさんは日本人ですか?」
次の瞬間、俺を含むトリス、彩月、エリシアの目付きが一変する。トリスが俺に何か伝えようとしている様子だが、俺は正直に答えた。
「はい」
すると、イリスは安心したのか安堵のため息を吐いた。
「良かった……」
「にしても何故、日本という単語を知ってるんですか?」
「それは、わたくしが元日本人だからです」
「なっ!?」
「え!?」
「ニャ!?」
まさかのカミングアウト。トリスのカミングアウトに始まり彩月、エリシアと来たが、まさかトリスの姉も元日本人だとは思わなかった。
「皆さんの様子だと英斗さん以外の皆さんも日本人なのでしょう?」
「……そうですよ、姉上」
「そうニャ」
「そうです」
「はあ……もっと早く気づけば良かったのですが」
「いや、ほんとだよ。にしてもここに日本人が五人も集まるなんて、異世界は狭いな」
「……あら、わたくしに敬語はもうお止めになるんですか?」
「同じ日本人同士なら敬語は要らねぇだろ」
「まあ……馴染みやすさで言えばタメ口の方が良さそうですね。わたくしは一応王族ですのである程度の丁寧さは保ちますが」
「そうかよ……改めてよろしくなイリス」
「はい、エイトさん」
すると、彩月が会話に混ざってきた。
「少しイリスの過去か気になるニャけど名前を聞いてもいいかニャ?」
「別に名前以外も構いませんよ。前の名前は須藤桜です。お好きな様に呼んで下さい」
「わかったニャ」
それからトリス、彩月、エリシアがそれぞれイリスに日本人だった頃の名前を伝えた後、俺達五人は今までの思い出について話し合った。その後、イリスとエリシアは各々舞踏場の貴族やら隊の幹部の挨拶周りに行った。
「そう言えば、英斗とセレアの関係性が気になっているだけど」
俺とトリス、彩月の三人になった後、トリスがいきなり色恋沙汰の話を持ちかけた。
「英斗とセレアは結婚するのかい?」
「その事か」
「……どうして英斗は反応が薄いニャ?」
「だって、王都に戻ってからその話が蔓延してる感じが否めなかったしな。トリス隊の中には『副団長が結婚するらしいぞ!』『あの猛獣を従わせる奴がいるのか?!』みたいな話が聞こえてきたし」
「私のこと猛獣とか言った奴、後で半殺しにするニャ……」
「そういうとこだぞ」と言いたかったがぐっと堪え、俺は手元のスライムサワーで口を抑えた。
「それで二人は結婚するのかい?」
「トリス……その様子じゃ、周りから嫌われていないか?」
ぐいぐい追及してくるトリスに俺は少し心配した。いつもこの調子なら、密かに周りから嫌われているかもしれないと思ったからだ。
「少なくともエリシアには嫌われているけど、周りだとこんなにがっつかないよ」
「そうか」
元カノの名前を挙げた以上、俺何も言えなかった。
俺が静かになった時、遠くからくしゃみをする音が聞こえてきた。
「まあ、交際から始めるのが王道だろ。デキ婚でもない限りは」
「怖いこと言うニャ……」
「え?どういうことだい?」
「な、なんでもないニャ……」
流石に前科があることは彩月の口からは言えなかった。しかし何かをトリスは察したのか、どうも俺を冷たい目で見てくる。まるで、「君まさかセレアとやったのかい?」みたいな目付きだが気にしないでおこう。俺達はその後も雑談に浸っていたが舞踏場の扉が音を立てて開いた途端、場の空気が一変した。
「ヴァルシュタイン王国国王であるヴィクタドルフ・ヴァルシュタイン様が持病の悪化により亡くなりました!それにより第一王子であるヴィクター・ヴァルシュタイン様が急遽襲名!しかしヴァルシュタイン内の貴族による反乱が相次ぎ、ヴァルシュタイン王国は内戦に突入しました!」
アルトシュタイン王国で祝日となるこの日はヴァルシュタイン王国では内戦の開幕を意味する日となった。




