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異世界勇者の復活手記  作者: 千反田 雄々
第一章 アルトシュタイン王国編
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第十話 選択

昨日お酒を飲んだ後、俺と彩月はそのまま拠点に戻り各々の寝室で眠ったと思っていたが、なぜか俺の寝室のベッドには隣で彩月がすやすやと眠っていた。


「やっちまった……」


俺は頭を抱えて静かに嘆いた。アリシアに続き彩月と関係を持った今、エリシアから正義の鉄槌が下されるのも時間の問題だ。

昨日のバーでの彩月の一言。あれが俺を動かしたが、こればかりは仕方ない。幼馴染みの据え膳を食わぬものは男としてなんとやらだ。俺の判断はきっと間違ってはいないはず……。

そんな事を考えていると、彩月が声を上げて、ゆっくりと目を開いた。


「う~ん……」


すると、彩月が上半身だけを起こして腕を伸ばした。


「ここは……?!」


彩月は右へ左へと首を振ってから左側に俺がいることに気づくと慌てて俺と距離を取り、自分の体を確認した。何も着ていない事に赤面しつつ、布団で自身の体を隠した。


「……私達、ヤったかニャ?」

「……さあ?」

「さあってどういう事ニャ?!」

「俺は覚えてない」

「はあ……私の初めて返してニャ」

「それはマジでごめん」

「責任も取ってニャ」

「それは妊娠してから言うもんだ。……ところで時間は大丈夫か?」


すると彩月は慌ただしく布団を床に落とすと、カーテンを開いて窓越しから日の当たり方を見て、時間を確認した。


「ヤバいニャ!大遅刻ニャ!どうしよニャ?!」


そう言うと彩月は生まれたばかりの赤子と同じ状態のまま後ろを振り向き、真っ青な顔で俺を見てきた。


「とにかく服着ろ。急いで隊の拠点に行くしかないだろ」

「そうニャね!ヤバいニャー!」

「ほら!」


そう言うと俺は無造作に投げ捨てられた床に落ちた服を拾い上げて彩月に投げ渡した。


「ありがとニャ!」


彩月がナイスキャッチを見せると慌てながらパンツを履き、続けてシャツ、ズボンを着始めた。俺も彩月同様に着替えると俺は着替えている途中で手を止める。その時、彩月が声を荒げる。


「これ、英斗のシャツニャ!これだと彼シャツニャ!」


どうやら思っていたことは同じだった。俺が今着ているシャツは彩月が着ているシャツと殆ど見分けがつかないが、胸囲のゆとりが明らかに違う。俺が今着ているシャツは胸周りがダボダボで彩月の方は今にも胸辺りのボタンが弾き飛びそうだった。


「早く脱げ!」

「わかったニャ!」


そして彩月が一番上のボタンに手を掛けた時、パンッ!という破裂音と共に彩月の胸がはだける。ボタンは俺の顔に当たるかというギリギリの場所を通過し、恐る恐る後ろを確認すると、なんとボタンが壁に食い込んでいた。


「ああ……」

「ニャ……」


その後、俺達はシャツの交換を行い着替え終えると急いで二人で王城にある団員の拠点に向かった。


「エリシア、いたのか……」


荒い呼吸が拠点に響く中、そこにはエリシアがただ一人突っ立っていた。しかも明らかに怒っている様子だった。


「あんた達、一体何時間遅刻してると思ってるの?もうとっくにトリス達は持ち場に向かったわよ!」

「ごめん……」

「ごんなさいニャ」

「一体どこほっつき歩いていた訳?」


ヤッたら寝坊して遅刻したとは絶対言えない。ここはオブラートに包んで説明しよう。


「……寝坊だ」

「寝坊?」


俺の言った事が信じられなかったのか、エリシアは彩月に答えを求めた。


「……寝坊ニャ」


彩月は目を逸らしながら、気まずそうに答えた。


「ふーん……」


するとエリシアは目を細めて俺と彩月を交互に見ながら思考を巡らせる。


「ところで、なんで英斗のシャツはボタンが外れてるの?」

「え?」


今朝のシャツをそのまま着て来た俺。まさか、すぐに気づかれるとは思っていなかった。ただ、ここで彩月とのあれを話に持ち掛けたら何を言われるか分からない。とりあえず黙っていよう。


「気づいたら外れてた」

「……そう。まあいいわ。セレアちゃんは急いで持ち場に行って」

「……わかったニャ!」


気持ちの良い元気な返事をすると、彩月は外にある馬小屋に向かった。


「英斗も行ってあげて」

「ん?……わかった」


俺はエリシアが何を言いたかったのか理解出来なかったが、一先ず彩月の元に向かった。俺が馬小屋に着いた時、彩月は丁度今馬に跨がろうとしていた。


「どうしたニャ?」


俺を見て首を傾げる彩月に俺は少し、言葉が詰まった。


「その……気を付けてな」


そう言うと彩月は一瞬ぽかんとしたが、直ぐに俺の元に駆けつけてきた。そして彩月は俺を優しく抱き締めた。


「また会おうニャ」

「ああ」

「あと、昨日の約束は守ってくれるかニャ?」

「結婚の?」

「そうニャ」

「多分やっちまっただろうし……結婚するか」


そう言うと、何故か彩月は俺から目を逸らした。


「なんか、いざ言われると照れるニャ」


彩月の猫耳と尻尾が左右に大きく動く。しかも顔が赤い様子から察するに、恐らく彩月からしたら照れ隠しをしているのだろうが隠しきれていない。


「まあ、帰ってきたら諸々進めよう」

「わかったニャ」


そして彩月は馬に跨がると、馬を進ませた。少し進んだ後、何故か彩月は馬を止めた。


「言い忘れてたニャけど、私と結婚するには少し手こずるかもニャ。だから精々頑張ってニャ」

「ん……?」


彩月は一言言い残すと、ついに行ってしまった。俺は彩月の後ろ姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くし、行った事を確認してからエリシアのいる拠点に戻った。


「……戻ったわね」

「お陰でちゃんと別れの挨拶が出来た」

「そう……なら良かったけど」


そう言うと、エリシアは静かに俺の元に近付いてきた。


「な、なんだよ……」


その顔はひきつった笑顔で鳥肌が立つ程の形相だった。


「どっちかはちゃんと選びなさい?じゃないと二人から半殺しにされるわよ」

「うっす……」


女の勘とは素晴らしいもので、俺と彩月に今朝何が起きたのか察しがついたらしい。驚きと恐怖が共存する複雑な感情を感じたが、エリシアの気持ちを汲み取ると、これはあくまでエリシアと彩月の為だ。この二つの恋愛は早急に対処しなければならない課題だと再認識させられた。まあ、ほぼ決着がついた様な気もするが……。


「ひとまず、ここは代わりに私が一発殴るわ」

「マジか……」


正義の鉄槌は悲しくも事実になってしまった。

その日の昼過ぎ、俺とエリシアは王都から少し外れにある草原で魔道書の練習をやった。


「魔法は問題無さそうね。あとは星の位置から現在地を特定して、発動時の方角と高さだけを間違えないようにしてちょうだい」

「わかった」


それからあっという間に二日が経過した。その日はエリシアは既に第二都市に向かっており、魔道具店に行ったのは俺一人だけだった。


「エイト!待ってたよ!」

「元気そうで何よりだ。んで、あれは出来たのか?」

「もちろん。会計の所で受け渡すから来てちょうだい」


俺は店内に入って早々に会計に向かい支払いを終えた。


「これが用意してって言われた装備諸々。あそこの試着室で着てみて」

「わかった」


俺はアリシアに言われるがまま、受け取った装備を試着室まで持っていき早速着替えた。試着室のカーテンを開けると、そこにはアリシアか待っていた。


「しっくり来るよ、この装備」

「でしょ?店主の腕前は結構凄いんだよ」

「助かる」

「……ところで」

「ん?」

「その装備は何に使うの?」


ついにこの質問が来てしまった。エリシアからはアルトシュタインで始まる戦争を言うなと念を押して言われた。恐らく、アリシアを心配させてしまうから。ただ、俺はアリシアに嘘を付いても直ぐにバレそうだ。

俺はエリシアに申し訳なく思いながら、正直に答えた。


「これからアルトシュタインで戦争が起きるんだ」

「……どうして今まで言わなかったの?」

「アリシアを心配させたくなかった」

「それだけ?」

「それだけだ」

「そう……」


アリシアは悲しそうな返事を溢すと、会計の所から俺の元に来た。そしてそのままアリシアは俺の胸元に頭を寄せた。


「エイトとは知り合ったばかりだから、エイトの事知らない事ばかり。だから戻って来たら色々と教えて。エイトが経験した楽しかった事や悲しかったこと、後悔してること全部。私がエイトを支えたいの」

「それってつまり……」

「それもエイトが戦いから帰って来た時に話すよ」

「……そうか」


俺はどうすればいいか分からなかった。アリシアから見た俺は独り身で、だからこそアプローチしてくれるんだと思う。けど彩月との関係は三日前に起きたことだ。しかも結婚するって約束したし。

アリシアから見たら彩月はまるで泥棒猫だ。しかも、彩月との日本での過去を話せないからこそ……なんか、面倒臭くなってきた。決めないといけない事は少ないが荷が重くなる内容ばかりだ。一旦、恋愛は戦争が終わってからでいい。終わってからゆっくりアリシアに話そう。きっとアリシアからは勘当紛いなことをされそうだが、今はまだ話さない方がいい。


「じゃあ、俺はもう行くわ」


俺の胸元にいたアリシアを抱き締める事はせず、俺は重い足を出口に向けて歩き始めた。ドアノブに手を掛けようとした時、俺はアリシアに名前を呼ばれた。


「エイト!」


反射的に振り返ると、アリシアが飛び付いてきた。


(そんな事するなよ、俺は……)


俺はアリシアからそっと離れようとしたがったが、彼女から溢れる大粒の涙が俺の動きを静止させた。結局俺はアリシアに抵抗出来なかった。ただ、今は許して欲しい。なんせ、この世界での初恋は今唇を合わせている人なんだから。

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