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異世界勇者の復活手記  作者: 千反田 雄々
第一章 アルトシュタイン王国編
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第一話 戦場

―――どうなってんだ、これ?


目覚めると、目の前に広がる地平線は鮮紅色と暗紅色が入り交じった血で染まっていた。

薔薇園……そうなら良かったが、至る場所に紅く染まった中世ヨーロッパ風の甲冑を着た遺体が転がっていた。


「うお……」


自分の目に写る光景にこれが現実なのかと言う夢見心地に浸っていたが鼻から肺に空気が通う中で、血生臭さを感じた。強制的に俺は現実に引き戻され、同時に吐き気を促した。足元に感じる生暖かい感触からふと足元を見ると、甲冑を着た遺体が転がっていた。俺は自然と遺体の顔をゆっくりと見た。生気を失った虚ろな目が俺を覗いていると思った時、不快感と恐怖心からその場で膝をついて吐き出した。


「だ、誰か……」


助けを求めようとするも途中で声が出なくなる。いつの間にか呼吸が浅くなり過呼吸気味になっていたらしい。心なしか酷い耳鳴りがしている気がする。


「大丈夫か?!」


吐いてから暫く時間が経過した後、誰かが俺の背中から声を掛けて俺の肩に手を乗せた。俺は咄嗟に振り返った。

そこには、茶髪の好青年が心配そうに俺の顔を覗いていた。俺は声を出そうとするも、声が出にくい事に気がついた。喉が詰まる最中、必死に声を振り絞って疑問を投げ掛けた。


「ここは……?」

「ここは戦場だ。恐らくさっきの爆裂で記憶が飛んだんだろう。歩く事は出来るか?怪我をしてるならあっちに治癒術師がいる」


見た目は俺と同い年ぐらいに見えるが、とても勇ましく感じる。

一先ず立ち上がろうとするも脚から力が抜けて立ち上がれなかった。すると、俺の様子を察してか青年は再び声を掛けてきた。


「よし。俺がおぶって運ぶ」


そう言うと青年は俺の前に背中を向けてしゃがんだ。俺は申し訳なく思いながらも青年の背中に乗り、青年の言っていた治癒術師とやらの元に向かった。

辿り着いた場所には俺と青年以外に負傷兵が大量にいた。

片腕を失っている者や片足を失っている者。明らかに亡くなっている兵士を看病してる兵士もいた。どうやら治癒術師とやらは全く不足しているらしい。


「初級治癒魔法でもいい!この出血を止めてくれ!」

「こっちだって治癒させる為の魔力がほぼないんだ!布か何かで押さえてくれないか!」

「クソ……治癒術師は他にはいないのか!」

「さっきの爆裂魔法でほとんど死んだ!お前ら兵士が防御しないからだぞ!」


野戦病棟らしき仮設テントの屋根の下は兵士と治癒術師の怒号で溢れていた。まさにカオス。とてもじゃないが見るに堪えない。たが、それとは別に引っ掛かる点がいくつかあった。そう思った矢先、俺の事を運んでくれた青年は俺をゆっくりと地面に座らせてくれた。続けて青年は俺の横に座った。


「名前は?」

紫藤英斗(しどうえいと)、十七歳です」

「俺はアーク・サンベン。年齢は十七歳で同い年だな!にしても珍しい名前だ。ここらの出身じゃないよな?」

「そう……だな」

「そっか!てかさ、名字はどっちなんだ?」

「ん?紫藤が名字だ」

「なるほどな、エイトの地域だと名前は後に名乗るのか」

「まあ、そんな感じ」

「……なぜこんな場所に?」

「え?」

「だって、甲冑も着ずにそんな高級そうな服着てるじゃないか」


アークに言われて俺は自分の服装を見ると、ブレザーにズボン……所謂俺が通っている高校の制服を着用していた。もしかして学校帰りだったとか?一体この戦場に来るまでに何があったのか、数時間前の出来事を掘り返してみた。確か俺は、中間試験が終わって午前中には帰宅していた。ただ、一夜漬けの影響で帰りの電車で寝落ちしたのだろう。そして気づいたらこんなよく分からない事になっていたのか。つまり、目覚めたら異世界に来た的な?


「なあ、その服は一体なんの為の服なんだ?教えてくれよ」


回想していた最中、アークはどうやら俺の服に興味深々の様だ。子供みたいに好奇心の圧が凄い。


「これは……学校の制服だ」

「学校の制服?」


もしかして制服がないのか?いや、異世界なら学校がないのか?

現状を把握出来ていない中、異世界かもしれないこの場所で言葉の地雷を踏む可能性があるのはかなり怖い。慎重に話をしなければ。


「もしかして魔法学校の制服だったり?」


アークが言った「魔法学校」如何にも異世界にありそうな学校名だ。きっと高度な魔法を知れる唯一の機関みたいな感じで魔法技術を独占してそうな学校の雰囲気が漂うが、恐らくその考察が間違っているだろう。ひとまずここは話を合わせる事にした。


「そうそう。魔法の実験中に何かの弾みでここの転移したんだ」

「転移……?」


もしや地雷を踏んだか?魔女狩りならぬ、異世界者狩りは遠慮したいのだが。


「時空間魔法を研究出来るなんて、もしかして王国の貴族かなんか?」

「え?」


なぜ時空魔法の研究が出来ると貴族認定されるのだろうか。


「だって、転移って言ったらどこにでも瞬時に移動できるって事だろ?それって色々と凄い魔法だからな。平民が研究出来るような魔法じゃないよな」


かなりまずい方向に話が進んでる気がする。この世界の王国とか貴族とか全く知らんし、やっぱ下手に喋れないぞ。


「まあ、黙秘ということで」

「そっか……まあ色々あるよな。これ以上の詮索はしないでおくか」

「そうしてくれると、ありがたい」


とりあえず一件落着。これからは余計な事は喋らないようにしないと。アークの様子を見ながら、のらりくらりと地雷を躱そう。


「にしても、エイトは訛りがひどいな。島国育ちか?」

「今さっき詮索しないって言ったばっかだぞ」

「ああ、すまん!気になることは聞かずにはいられない性格で。言いたくない事があれば答えなくていい」


まあ……俺を詮索しようとしてる様な悪い奴ではないことは分かった。雰囲気や行動から見てただのそういう性格の好青年だと感じ取れる。

それから暫く無言の時間が流れた。そこで俺は気になったことをアークに聞いた。


「さっき、ここは戦場って言ってたよな。一体何処と何処の国が戦ってるんだ?」

「休憩がてら話すか……」


詳しく話を聞いてみると、この国はどうやら魔王からの攻撃を防衛する連盟「対魔大陸防衛連盟」とやらに加盟していた国だったらしい。ただ、その連盟の対立関係に位置する別組織「セイグリッド防衛連合」とやらに加盟してるとある一国の川の水源がこの国の領域にあるらしい。この国はその川の水を利用して「俺を怒らせると御宅の国の生命線である川の水、止めちゃうかもよ?」的な政治圧力で国家間のバランスを取っていたのだが、いつの間にか戦争に発展したそう。結果、対魔大陸防衛連盟はこの戦争に関与しないことを決定。その後、この国を対魔大陸防衛連盟から強制退会させた後、「小国VS多国家連合」という戦争になった。所謂、地獄絵図というものだ。


「この国の国王は大馬鹿だ。周辺国は元は一つの国だった。そんな国同士は争うよりも協力すればいいと思う」


数百年前、この国を含む対魔大陸防衛連盟とセイグリッド防衛連合に該当する領土は元々一つの大国が治めていた地域で、世界で一番大きい大国だったそうだ。しかし民族対立や時代の流れで大国は分裂したらしい。


「さて、俺はそろそろ戦いに戻るよ」


そう言うとアークはゆっくりと立ち上がった。俺は自ら死へ行くような負け戦に戦いに行く意味が分からなかった。俺は自然とアークに質問した。


「こんな負け戦、戦う意味なんてあるのか?」


するとアークは考える様子を見せず、戦争に行くことを覚悟する原動力になったであろう理由を答えた。


「負けた国の国民ってのは大体が奴隷にされるんだ。この国には俺の家族や親戚も暮らしてる。流石に俺だけ逃げる訳にはいかねぇよ」


そう言うとアークは「じゃあな」と一言残し、静かにテントから出て行った。その直後、轟音が上空から聞こえた。


「エイト……!」


俺の名を呼ぶ声の方向を見ると、俺の元に駆けつけようとしているアークが見えた。次の刹那、一面真っ白な光で染まった。


「んっ……」


先程の眩い光を見てからどれぐらい時が経過しただろうか。目を開けると、さっきいたはずの野戦病棟のテントは跡形もなく消えていた。仰向けになっている俺に覆い被さっている意識を失ったアークと俺だけがこの場にいた。

辺りを見渡すと左手のすぐ側には純白の本があった。この戦場には似合わない、まさに今完成したばかりかのような雰囲気をかもし出す本だった。


「流石に死んだろ!」

「だよな!……ん?そこに二人いねぇか?」


遠くから足音が近づいてくる音と二人の男性の声が聞こえる。俺は意識のないアークを退かすと、声の聞こえる方を上半身を起こして向いた。


「お、生きてんじゃん!」

「二回目の爆裂も生き抜いたとか運良すぎ!けどまあ、ここで死ぬけどな!」


そういうと獲物を見つけたかの如く獣の様な形相で俺に向かって走ってきた。


(まずい……!)


様子からして恐らく敵国の兵士。

俺は訳も分からず左手の近くにあった純白の本を手に取り開いた。本に日本語とも英語とも似付かない初めて見る文字が書かれていた。加えてそこには文字と入り乱れて複雑に書かれた「魔方陣」が描かれていた。


(この世界ならこれで魔法かなんか発動できるだろ!助けてくれ!)


俺は縋る思いで念じながら魔方陣に手を乗せた。

俺の首に敵兵の剣の刃が届く数コンマの間に、純白の本は辺り一面に漆黒の霧を一瞬にして作り出した。霧が晴れる頃には二人の敵兵と純白の()()()は消えていた。


「助かった……?」


アークの方を見ると、丁度今意識が戻った様子を見せていた。


「アーク、大丈夫か?」

「傷が少し痛むが……俺は大丈夫だ。にしても一体何が起きたんだ?」

「ん?どういうことだ?」

「ここ、戦場だよな?」

「……当たり前だろ」


流石の俺でもここが戦場だと認知できる。アークは頭でも打ったのか?


「でもここ一面、全部草原になってるぞ……」

「え……?」


アークに言われて辺りを見ると辺り一面芝生が広がっている事がわかった。しかも、所々に木々が生い茂ってる。先程までの血塗られた地平線はあたかも最初から無かった様に。

その後、俺とアークはこの国の王都に戻った。そこで初めて聞かされたが、この負け戦は小国であるこの国が勝利したそうだ。どうやら、見たこともない漆黒の霧を発する魔法が敵国の兵士のみを的確に葬ったらしい。その功績は発動者の俺に与えられた。ちなみに当時その戦場にいた兵士は俺とアークの二人しか残っていなかったそうだ。

それから王都では盛大に戦勝パレードが開かれた。そのパレードと同時に王都で凱旋式という国を勝利に導いた英雄を称える式も行うらしい。式には俺が英雄として登壇し、国王から民衆の前で直々に讃えられ、魔道書と指輪を贈与された。


そしてこの日から俺はエクリプス王国の英雄になった。

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