2-1 電車神隠し
「ガタンゴトン...」
列車が入線すると同時に、彼は腕時計を確認した。
午後3時38分、遅延なし。
降りる人を待っている彼は、やっと乗り込み、自分の席を探し始めた。
37番。空席。
彼は荷物を下ろすところが、慌てて始め、周りを見回しながら、携帯で電話をかけた。
相手が出なかったらしい。
荷物を席に残し、彼は慌てて列車内で探し回っていて、そして一人の乗務員を見つけた。
「どうかしましたか?」
「すみません。僕の連れが前の駅からこの列車に乗ったはずですが、席に彼女がいませんでした。」
「お手洗いに行かれたのでは?」
「それはありえません。」
彼は不安な顔をしていた。
「彼女、目が見えないんです。」
二日前。
綿の研究室に、一通の手紙が届いた。
生物技術の研究をしながら、警察の手伝いもしている綿は、少しずつ有名になっていた。
彼のことを知る人が増えたということ。
そんな時に、この手紙が綿のところに届いた。
「ふむ...?北海道の室蘭から?」
遥か遠いところからやってきた手紙を開き、綿は内容を無視して、まずは署名の方を見た。
「...白柳研究室?なぁ、若宮。室蘭の白柳研ってどんな研究をしてるのかわかる?」
隣の机から、ひとりの少年が現れ、戸惑っているように頭を振った。
「臨海実験所のですか?」
「臨海...あぁ、海藻の研究をやっているとこ?」
「はい。白柳研については知らないんですが。」
綿はうなずき、手紙を読み始めた。
そして一分後、彼は椅子の上から飛び跳ねた。
「朝田先生...?」
「やな!やなに電話しないと!」
綿は携帯を探し出し、速やかに電話をかけた。
朝田教授さま:
突然な手紙で失礼します。一刻でも早く研究の成果をあなたに共有したくて、手紙を出しましたので、ご許しを。
僕は白柳恵弦と申します。室蘭の臨海実験所所属、白柳研究室の担当者で、海藻と医学の研究をやっています。
新聞やネットから、ずっとあなたのことを伺っていますので、この成果を見つけた瞬間に、あなたへの手紙を思わず書き下ろしてしまいました。
奥さんの両目を治療する方法を見つけました。
井戸の水で両目を洗えば、目の病を治療できる、という説を聞いてことがありませんか?今までの研究では、ずっとこういう話をただの心理効果だと思っているので、僕たちの研究もなかなか進めませんでした。
しかし先週に、井戸の深いところに生きている一種の海藻を見つけました。適切な環境を与えただけで、自然に一種の物質を合成します。そしてその物質には、視神経の治療を加速することができます。
研究報告を見たら、すぐにあなたへ手紙を送りました。
この週末二日とも時間あるので、もしよければ、ぜひ研究室へお越しください。
いつでも待っております。
白柳恵弦。
白柳研究室‧室蘭臨海実験所。
「...わかった。今日は木曜だから、土曜日に出発する?」
「そうだね。話を理解するに時間かかるかもしれないから、二日の方が足りるかも。」
「ちょっと待って...まずい、土曜日に名瀬家に行くんだけど。」
「ホタルさんのところ...?」
「うん。知ってると思うけど...あの人もうすぐ出れるから。」
綿は隣のカレンダーを確認した。
あの人が出る日は、確か三月中旬のころ。そして今はすでの二月初め。
「了解。そこから電車乗るよね?」
「うん。」
「じゃあ隣の席を予約するよ。でも、君はそれで電車に乗れるの?」
「問題ない。ホタルが乗務員に説明してくれると思う。」
「わかった。じゃあ午後三時頃のを予約するよ。向こうにつくまでは三時間半くらいかかるらしい。」
「大丈夫。月曜日休めばいいし。」
「それはダメ。切符は夜に渡すから。」
「わかったよ。」
綿は思わず微笑んだ。
もし白柳惠弦が言っているのが本当だったら、やなは見えるようになれるんだ。
そのはずだった。
しかし、電車に乗った綿は、やなの姿が見当たらず、電話をかけても出なかった。
「...もしかしてその方は、白い服とジンーズ、そしてコートを着ている若い女性なのではありませんか?」
「そう!見かけましたか?」
「どの駅なのかは覚えませんが、目が見えない方を席まで案内しました。ちゃんと席についたと断言できます。」
乗務員に嘘をつく必要はないし、やなの話にも一致している。やながこの電車のなかにいると、綿は信じずにはいられない。
だとしたら、彼女は?
「まずは落ち着いてください。他の乗務員にも探してもらいますので、何かわかったらまた席の方まで連絡します。4号車の39号席のとなり、37号であっていますよね?」
「はい。」
「はい。では席で待ってください。きっと大丈夫ですよ。」
乗務員にうなずき、綿は仕方なく、席に戻った。
電車は室蘭、やなを治せるかもしれない、その場所へ向かっていく。