1-3 同時調査
警察署に連行されたホタルは、小さな部屋に一人きり、天井を見上げていた。
ふと、輝星の質問を思い出す。
「サンタさん、これがプレゼントか...?」
「...死体を見つけたのがあなたですか?」
すでに現場について記録し始めた義孝を見た綿は、質問する役を引き受けた。
「はい。」
死者、楓の母はうなずく。
「なるべく詳しく、経緯を教えてくれませんか?」
「はい。私は夜八時から始まるドラマを見てて、ちょうどエンディングの頃に、楓が帰りました。」
「夜九時頃に帰りましたか。それで?」
「ドアを開けた声がしたので、私は玄関に行こうと思ったが、楓の方がリビングに来てくれました。仕事があるからと言って、そのまま部屋に行きました。」
「うん。」
「十時半頃、そろそろ寝ようと思ったところで、急に楓の部屋から大きな音がしました。何かを投げているみたいです。」
「投げている?普段は機嫌悪い時とかにはそうします?」
「しませんでした。」
「わかりました。続けてください。」
「音はすぐ止まったので、楓が何かを倒したのかと思って、見に行かなかった。。」
「うんうん。」
「十一時の頃、部屋の窓から、楓の部屋にまだ灯がついてるのが見えるので、心配してノックしたけど、応じてくれなかったし、ドアにも鍵がかけていました。」
「ふむふむ。」
「鍵を取ってドアを開けたら、部屋中めちゃくちゃになってて、楓は倒れてたし、血まみれで、私はすぐ警察を呼んで、警察さんたちはすぐ来てくれたんだけど、楓はもう...」
綿は、彼としては珍しく、駒場さんを慰めた。
「事件が終わった時点で、事件自体があったと知るのは辛いでしょうが、気をしっかり。」
駒場は、目が少し赤くなった綿を見つめる。
「強くならなくちゃ、でしょ?」
綿は少し微笑んで、義孝の隣に行った。
「どう、どこが変なところでもあった?」
「あります。まず、この花がおかしいです。」
徹は、手元の写真を見ながら、やなに情報を述べる。
「この花はボロボロになってるけど、切られたり、枯れたからとはではなさそうです。」
「打たれたのでしょうか...」
やなは俯いて、少し考え込んだ。
「花の名前、というか種類はなんですか?」
「ペチュニアと、死者の母親が言いました。」
「なるほど、だったらありえますね。」
「ありえ...ます?」
「他に何か疑点でもありますか?」
「この花がこんな惨状になった理由はわかった。他には?」
綿は義孝を催促してる。
「あと...」
義孝は天井と壁の隅にある、エアコンを指さした。
「エアコンがついてるね。見つけた当時ですでにつけていましたか?」
綿は振り向いて、駒場に尋ねる。
「はい。警察さんは、調査が終わるまでそのままにしてと言いました。」
「そうですか。楓さんは普段エアコン使いますか?」
「楓は暑さに苦手じゃないし、余計な金を使いたくないから、普段は使いません。」
「そのわりに、濾過器は随分きれいですね?」
綿は隣にある、義孝が外した濾過器を指さした。
「それは、楓の彼氏が去年、北ヨーロッパから帰ってきたから、いつも日本が熱いと言っているので、楓は彼のために濾過器を定期的に洗っていたからです。」
「つまり昨晩、楓さんの彼氏が来た可能性は高い、ということになりますね?」
「...そうとは思いませんね。」
駒場さんがはっきりと否定したことに、綿は少し意外だった。
「どうしてですか?」
「楓は彼氏をこっそり家に連れて来る必要はありません。デートすら私に相談しますので。」
「なるほど。彼女が昨日、彼氏とデートしに行ったことも。」
「はい、知っています。彼氏へのプレゼントでも、私と一緒に買いに行きました。」
「...何を送ったのか、教えてくれませんか?」
義孝は綿に戸惑う目線を送る。これはそんなに大事なことではないと思っているから。
綿は当然、その目線に気付いたが、それを無視した。
「はい。楓は、服を選んだと言いました。」
「...綿は?」
一番大事な名前を、やなは柔らかな声で呼んだ。
「あいつは現場に行きました。あ、わるい。君の前でこんな呼び方しました。」
「いいえ、気にしていませんから。」
やなは頭を回した。
現場の仕事を綿と義孝に任せると決めて、そして彼女は、ここでしかできない仕事をする。
「...佐藤さん、死者の彼氏を連れてきましたよね。昨夜、彼女とデートした人。」
「はい、瀨間という男です。死者と同じ会社で働いていて、同僚からの評価も高いです。」
「瀨間さんは...この件について何か言いましたか?」
「彼は酷く泣いていました。しかし、彼は死者を家に送ってからすぐ自宅に戻ったと言いました。」
「歩いて?」
「歩いて。その辺りは監視カメラがないから、証明はできませんけど。」
「彼の家に行きました?」
「いいえ。彼はニュースから事件を知って、すぐ警察署へ来ました。」
「...怪しいですね。」
「...怪しいね。」
綿は一人で呟いた。
「うん?誰がですか?」
義孝は綿の方を見る。
「当たり前でしょ?ほら、GLOWWORMに行こう。」