5-7 同じ眼差し
翌日、四月十五日。
臘山衣梨紗は、土橋巡太の言ったことがすべて本当のことだと証言した。
「…それはよかった。となると、龍崎洵太の容疑が増えてきたな!」
「そうですね…死亡時刻の推定に間違いがばい限りですが。」
「そうだな。ともあれ、龍崎洵太を見張り続けてください。なんらかの関係性を持っているのだろう。」
「はい。」
「ところで朝田さん。実は、死者の黒メイナさんについてですが、新しい情報が入ってきました。」
「新しい情報?」
「黒メイナの生活は一人の男、枝川末利によって支えられているらしい。」
「お金持ち?」
「公務員だった方です。結構貯金あるらしいです。」
「なるほど。」
「住所も見つけたのですが、朝田さんは先に見に行きますか?」
「…いや、警察と一緒に行ったほうがいいだろう。桜内、君はこれから用事ある?」
「少し片付けなければならないことがあります。一件目のことです。明後日でも大丈夫ですか?」
「じゃあ義孝に連絡して、三人で行こうか。」
綿は義孝に連絡し、軽く状況を説明した。
そして三人は二日後の四月十七日に、枝川末利の家に向かった。
「あの人の死と関係ありません。」
桜内たちの身分を知ったあと、枝川末利ははっきりと三人にそう告げた。
「まったくですか?彼女の顔についている青あざはどういうことですか?」
綿はポケットに入れている、黒メイナの顔の写真を出した。
「…!その話聞いたことはあるが、殴ったのは俺じゃありません。誰かはわかりませんが。」
「私です。」
最初から末利の横に立っている女性は自白した。
「久保アリサと申します。あの人調子に乗りすぎたので、この間喧嘩して、殴りました。」
「では、彼女の死について、なにか心当たりは?」
「心当たりなんてありません。あんな、娼婦になったのに過去の話ばっかりするクズ、死んで当たり前なのではありませんか。」
「では、胸元のほうの青あざも?」
「そちらは俺がやりました。」
今度は末利が自白した。
「…ということは、お二人は傷を与えたこと自体は認めるが、黒メイナさんの死とは一切関係ないと主張していますね。」
綿の言葉を聞いて、末利と亞利紗は同時に頷いた。
「朝田さん、その二人のことをどう思いますか?」
車に乗った途端、桜内はすぐ問いかけた。
「殺人事件ができるほどの技術はないだろう。」
「では龍崎洵太が…?」
「いや、そっちも多分臘山衣梨紗と同じ。真犯人はほかにある。」
黒メイナの事件の調査がなかなか進まないところ、翌日の四月十八日に、桜内に久保アリサからの連絡が来た。
「昨日は失礼しました。彼女のことを好意的に思ってはいないが、できるだけ調査に協力します。」
「ありがとうございます。お願いします。」
「今のところ思い付いたことはひとつだけですが、黒メイナ、彼女は以前男と同棲したことがありました。」
「同棲?」
「ええ、二年前のことです。志斐潤太という男と同棲したって言っていました。」
「その男とは結局どうでした?」
「どうもしませんでしたよ。別れただけでしょう。ただ、ああいう仕事なので、愛情関連で殺されたのが一番ありえるのではと思いまして。」
「…そうですか。こちらで調べてみます。ほかに何かを思いついたら、いつでもご連絡ください。」
桜内はダメもとで部下に調べさせたら、四月二十日に志斐潤太の情報を手に入れた。
そこで桜内は綿、そして義孝と共に、その翌日の四月二十一日に志斐潤太に訪ねた。
「黒メイナ?ああ、知っています。」
潤太は迷わず、黒メイナと知り合っていることを認めた。
「別れた理由は、既婚者だと知らなかったからです。」
「黒メイナさんの家族のことを、どこまで知っているのですか?」
「大体知ってます。本名は中馬明奈で、夫はたしか順太か書太みたいな名前でした。子供は二人、姉と弟らしいです。」
「…!それだけ情報があれば見つけるはずです!」
「そう?ならよかったです。あいつ、いい女だから、あんな死に方はあまりです。」
潤太は懐かしそうに、微笑んでそう言った。
それを見た桜内も、少し笑顔を見せた。
四日後、四月二十五日。
黒メイナの先に、ポリーの元夫が先に見つかれた。
安中宇意理という男だった。
「元妻のことについて話せることはありません。」
宇意理は潤太と真逆な態度を見せた。
「あいつ、酒癖悪い上、この家族を捨てました。これ以上言うことはありません。」
綿と桜内が黙り込んだときに、義孝はただ宇意理の両目を見つめていた。
「…彼女はすでに亡くなられました。本音を言っても構いません。」
「なにを…?」
「本当は後悔しているのでは?安中さんと離婚することと、彼女の死を知ったときも。」
義孝は見てきた。自責と後悔に満ちた眼差しを。
「真悠璃…つまり、ポリーが大酒飲みになったのは、多分俺のせいです。」
宇意理はためらいながら語り始めた。
「あのとき、俺は仕事の不満をすべてあいつにぶつけました。あいつが大酒飲みになったのがあの時期でした。
「離婚したあと、あいつが娼婦になったと聞いて、頭に血が上って、生活費を送らなくなりました。もし、あいつを諦めなかったら、あいつも死ななくて済むのか、と思わずにはいられません。」
何回深呼吸したあと、宇意理の表情は最初の頃より少し柔らかくなった。
「犯人を探すなら、女性のほうがありえるのでしょう。真悠璃が男性不信の人ですから。朝方にあんな場所に男と一緒に行く可能性は低いだと思います。」
繪珠理の証言を思い出し、綿は頷いた。




