1-2 死亡というプレゼント
「...うん?」
「ホタルさんどうしたの?」
娘の輝星をGLOWWORMに送る礼節は、目の前の状況に戸惑う。
「叔父さんに電話かけるから、ちょっと待っててね。」
警察を見かけた瞬間、礼節はすぐ兄の義孝に電話をかける方が速いと判断した。
「礼節...!?」
義孝の声から焦りを感じた礼節は、さらに不安になった。
「兄さん、ホタルさんに何かありました?」
「何かっていうか...ホタルさんが逮捕されたんだ。」
「逮捕されました?どうしてですか?」
「殺人事件の容疑者だから。」
「え...!?」
義孝は電話を切って、携帯をポケットに入れた。
テーブルに置いていた紅茶はまだ淹れていないが、今の彼に紅茶を楽しむ余裕はない。
彼の目の前にいる、この男にも。
「ふむ...密室だらけだね。」
「だらけ?」
「GLOWWORMといい、死体を見つけたところといい、全部密室だ。」
「そんな...」
事件の全貌を未だに掴んでいない二人に、電話が来た。
上には「やな」と書いてるが、義孝が電話に応じたとき、聞こえたのは徹の声だった。
「この声...お前か。忙しくなるぞ。」
「どういうことですか...?」
「朝田やなは容疑者として、逮捕された。」
義孝は事実に信じ切れず、綿の背中を見つめ、震えた声でその名前を呼ぶ。
「朝...田...」
「うん?」
「やなちゃんも、逮捕された。」
やなの名前を聞いた途端、綿はすぐに立ち上がった。
「車を出せ。」
「...おう!」
一方、やなが警察署に着いたら、すぐに徹のところに移送された。
「さ...やなさん、申し訳ない。あんなに助けてもらったのに、こんな形で君と再会するなんて。」
「大丈夫です。それがあなたの仕事ですから。ところで、今回の事件に、私はどんな形で関与しているのでしょうか。」
やなの声を聞いた徹は思わず、やなと綿、そして義孝、この三人が事件調査を手伝ってる頃のことを思い出す。
目が見えなくなったやなは、事件の調査を止め、学業に集中していた。
たとえ綿と結婚したあとも、やなは事件の調査に戻らなかった。
冷静に見えるが、目が見えなくなったことは、やなにとって大きな衝撃なのかもしれない。
「...事件を最初から説明します。」
クリスマスイブの21時、GLOWWORMは閉店した。
同日23時に、ある女性の死体が見つかったと、警察署に通報が入った。
調査によると、この女性は22時頃に死亡した。そして、彼女とある男性が20時半頃に町中で歩くていたという目撃情報も入った。
死者の母は、死者が家に帰ったのは21時頃だと証言した。
そのあと、19時半頃にGLOWWORMでこの二人を見かけたと、もう一人の目撃者が現れた。
警察側が店主である名瀬ホタルの家に連絡してみたら、ホタルの母から、今夜ホタルはやなの家に泊まる情報をもらった。しかし、そのあとやなに連絡した警察側は、ホタルが嘘をついたことに気付いた。
こうして、死者と接触し、母親に嘘をついたホタルが逮捕されることになった。
「...ホタルはどう言った?」
「名瀨さんの話によると、彼女は店に客が忘れた袋を見つけて、すれ違わないように、店に残ったらしい。が、店内を捜査してみたが、その袋を見つけなかった。」
「...そのお客さんが勝手に取った可能性はありますか?」
「低いでしょう。俺たちがGLOWWORMについた時、扉には鍵がかかっていた。扉を開いてくれたのは、目覚めた名瀬さんだった。」
やなは少し黙り込んだ。
結構長い間事件調査に参加しなかった彼女にとって、今手元にある情報が少なすぎる。
しかし、ホタルが容疑者である以上、彼女はここで引くわけにはいけない。
一方、事件の現場。
「現場はどうでしたか?」
義孝と綿は、死体を見つけた現場に到着した。
「朝田さん...!黒沢さんも!佐藤さんから連絡がありました、そのまま入っても大丈夫です。」
「証拠品の捜査はもう終わったか?」
「はい、調査結果は今日の午後に出る予定です。」
綿は頷き、死者の家に入った。
灯は全部ついていた。綿たちの声を聞こえたある女性が出迎えに来た。
「...初めまして、朝田と申します。こっちは黒沢です。僕たちは真相を知るために来ました。少し話を伺ってもいいんでしょうか...?」
「あ、はい。駒場と申します。」
「駒場さんですか。では、まず死体を見つけた部屋へ案内してくれませんか?」
駒場さんは頷き、緩やかに階段を登って、二階についた。
「ここが娘、楓の部屋です。」
部屋内の血痕は残ったままで、色んなところに番号が書いてある紙が置いてあった。
綿はためらわず、十三番の所に置いてある物を見つめる。
「失礼、これは...?」
「これは...見覚えありませんね。先ほど警察さんにも同じく答えましたが、これだけは見覚えがありません。」
「佐藤さん、ホタルは確かに嘘をつきましたが、これだけで彼女が殺人犯だと認定するには、少し過激に見えますが。」
恐らく、明確な手掛かりがあったのでしょう。
やなはその手掛かりについて質問している。
そして、徹もそれに察した。
「...名瀬さんが言った袋を見つけたから。」
徹はテーブルに置いていた小さな袋から、十三番の写真を取り出した。
「...死者の左腕に。」
彼は少しためらって、写真を袋に戻した。