思いを変える
「やなさん。あいつは?」
「佐藤さん。綿なら外に出ました。昔から、こういう場所が苦手ですから。」
「あいつなら、入院より殺されたほうがマシかも。」
やなはふと笑い、そして徹が隣に座ったことに気付いた。
「あの女の子...どうでした?」
「交通事故の...関ちゃん?君たちのおかげで無事です。すぐ目覚めるんだそうです。」
「そう...。」
「随川のDNAを看護士事件と電車事件で見つけた証拠と合わせたら、一致しました。あいつから聞いたんだ。随川は関ちゃん兄妹を、自分の兄妹だと思い込んで、ひとり子にさせた両親を恨み、そしてあり得ないほどの期待をあの兄妹に注ぎましたね。」
「...好かれることを望んで、期待して、確信して、そのせいで事実に向き合えず、自分を騙しながら生きなければならないとは、なんて悲しいことでしょう。」
「それでも、やなさんたちは、あの人の悲しい繰り返しに終止符をつけました。」
「...そうでしょうか。」
急ぎな足音は、二人の会話を塞ぎった。
若気を帯びた気配から、やなは僅かな穏やかさを感じ取った。
「桜内さん?」
「は、はい!先輩と...朝田さん、関ちゃんの意識が戻りました。」
「わかった。やなさん、一緒に見に行き...あ、すみません。不謹慎でした。」
「いいえ、構いませんよ。綿...ならすぐ来てくれるでしょう。」
「ですね。桜内、やなさんを支えてあげてくれ。」
関ちゃんの病室の中で、警察の二人はびっしりと隣に立ち、若い女性は椅子に座っていた。
そして、警察たちの横に立っている男性が、関ちゃん担当の医者の人なんだ。
「全身検査した結果、特に問題はなく、擦り傷だけでした。」
「そうなんですか!」
「本当ですよ、お嬢さん。おかげで、あの娘が大脳の酸欠による後遺症にならなくて済みました。」
医者はやなの両目に気付いて、悲しげに見つめていた。
「ではほかの病室に向かいますので、何かありましたらいつでもベルを押してください。」
トントントン。
穏やかな足音が病室から離れた。
「関ちゃん、目覚めたばっかりですみませんが、少し聞きたいことがありますけど、いいですか?」
「うん...お父さんとお母さんは?」
「お二人は...お兄さんの希生さんのところに。」
「...!お兄さん!帰ってきたの!」
徹の声から僅かな動揺、というか、不安が漏れた。
そして、妙に嬉しくなった関ちゃん。
やなは不安になって仕方がない。
「うん...。お父さんお母さんにも許可してくれたので、ご安心ください。」
「わかった...警察のおじさん、聞きたいことってなに?」
「車にぶつかれたとき、誰かに押されたのですか?それとも車に気付いていませんでした?」
「公園の向こうのアイスのお店はあってね、買いに行こうと思ってね、青信号になったとき、車止まったから、私歩いて、でも車急にまた動いたので、ぶつかれたの。」
殺人だ。
三人は同時にそう考えた。
「あの看護士さん、見たことありますか?」
「うん。いつもこっちを見てニヤニヤしてた。怖いから、教室に逃げるけど。」
「話したことは?」
「ない。」
徹は桜内のほうを見て、二人とも難しい顔をしていた。
「ね!警察のおじさん!お兄さん大丈夫なの?」
「それは...」
「大丈夫じゃ...ないの?」
関ちゃんの質問に、二人は返事ができなかった。
「佐藤さん、関ちゃんのお兄さんの希生さんは...?」
「電車のほうの。」
「...!欠けた部分は?」
「随川に聞いたところで見つけたので、二人の両親には多分今説明しているところ。」
言うか、秘密にするか。
やなもためらい始めた。
「ご両親の意見は?」
「言いたいが、どう言えばいいのかがわからないと。」
関ちゃんに真実を伝うと、必ずあの子の心を傷付くのだろう。
傷付かずに済むには、やなにはひとつのやり方しか思いつかなかった。
「関ちゃん、お兄さんはさ...」
「...?」
「死んだの。」
「え?」
「同じ人に...殺されたの。」
一か八か。
賭けをしなければ。
「じゃあ...」
関ちゃんは長く沈黙したあと、やっと一言を言い出す。
「どうして私を助けたの?」
「...」
「どうして...!私に...私に...死なせたほうがいいじゃない!」
賭けて、よかった。




