誰よりも自分が嫌いな人
「安倍さま、今月中に起こった殺人事件、これで四件目です。」
「不穏ですね...そのうちの二件の犯人が現行犯でしたよね?」
「はい。残りの二件については、死体の身分が不明、犯人を絞ることも難しいです。」
「たしか、一人が女性の看護師で、もう一人は職業不明な男性ですね。」
「はい。我々賀茂家も手がかりを探していますが、未だに新しい手がかりはありませんでした。」
「看護師の死体はごみ捨て場で見つけられました。注射した痕跡は?」
「特にありません。首には爪痕が。」
「爪には皮膚の屑が?」
「はい。おそらく犯人に薬で気を失われ、その後殺害されたのだと推測されています。」
「その男性の方は?」
「鉄路で見つかれました。」
「鉄路?人身事故ですか?」
「まだわかりませんが、ひとつ妙なところがあります。」
「...?」
「死体のパーツがひとつ足りません。」
「どこですか?」
「頭です。服装に特徴がなく、財布なども見つからないため、身元の確認が難航でした。」
「駅に入るときなどは?」
「深夜のため、目撃者が見つからず、駅員も服装に関しては見覚えがないと証言しました。」
「...何もないということは、切符もないんですね。」
「はい。警察側も、それで殺人事件だと推測しました。」
机の上に散りばめいた書類を集め、遥は目の前にいる浩のほうを見る。
「お疲れさま。ほかに気になる事件などはありましたか?」
「...あ、そういえば、宮野企業に失踪事件が。」
「失踪?」
「書類ならこちらです。」
書類をもらい、遥は速やかに内容を確認した。
「光、宮野のとこに事件があるらしい。」
「どういうことです?」
「失踪事件、職員が行方不明となったらしい。日頃の行動も変だそうだ。」
遥は、手元にある書類を隣にいる女性に渡す。
「ふーん...手記の内容は?」
「信和さんもまもるさんも、情報を持っているはずばのに、賀茂家にすら話してたくれませんでした。」
「そうか...」
「手を出したくないのかい?」
「そうでもありませんが、義孝から連絡が来て、どうやらまもると信和さんは朝田に用事があるみたいです。その用事の内容について、お二人とも察しましたよね?」
「朝田綿に助けを求めたからといって、別に君の助力がいらないというわけではないと思うけど?」
「その通りです。ただ、朝田...やなさんなら追究しないだろうが、朝田さんは簡単に許してくれないのでしょう。」
見えなくなったせいで推理を諦めたやなのことを思うと、遥にだって綿の気持ちがわかる。
ただ...綿より、光のほうが光自身を嫌っているのかもしれない。
「光、行ってこい。」
「お兄さま...?」
「この事件で、君はきっと変わる。」
光は不思議そうに遥を見つめる。
彼が「きっと」とか、そんな主観な言葉を使うのは珍しい。
可能性を大事すると決めた、そんな彼から。
「まもる、随川さんの失踪について...」
「あ、ごめんね。朝田綿さんたちに声かけたの。断られたけど...」
「断られた?どうして?」
「私と信和に隠し事があるから、と言いたいが、光とやなさんのあの件が原因だと思う。」
...!
まただ。
あの時以来、光の知り合いが朝田と関わろうとしたら、その事件が高い壁となり、すべての希望を閉ざす。
「...彼らの意思と関係なく、私は君の力になりたい。」
「光...!」
「警察側の情報ならもう手に入ったが、手記の内容についてはまだ何も知らない。」
「そうか...随川家で朝田さんたちと合流するつもりだが、君に書類を送るから、打ち合わせはあとでもいい?」
「ううん、私も随川家に行く。そのほうが効率がいい。」
「でも...」
「私が決めたことだ、変更はありえない。そうでしょ?」
「...わかったよ。書類も住所も送るわ。」
それで、光は随川家のロビーに座り、綿に責められ、そのあとに驚くほどの情報を手に入った。
「...朝田綿、私は君に挑戦したい。」
「挑戦?」
「もし私が勝ったら、私が真田にしたことを全部許してもらう。もし君が勝ったら、私はなんでもする。」
「わかった。もし僕が勝ったら、君は...は...」
やなはふと笑った。
「私の目の回復に力を出してもらいます。目玉がいるなら目玉をもらうし、治療できなかったら、私も君の目を潰します。」
「...わかりました。それでいい。」
「では安倍さん、あなたの見解を聞かせてもらっても?」
「友夏理さんは、一人っ子のために兄弟が欲しくて、嘘をつくようになりました。
「彼女が言っていた『君たちの決断が間違っている』のことも、両親への八つ当たりだと思います。
「最後...友夏理さんは『今日が最後なんだ』と言いましたよね?
「実在していない兄なのに、送り迎えができなくなる日が来るとは思えません。そこに、彼女の失踪の理由が潜んでいると考えられます。
「すなわち、彼女は今の日常を変えようとしたのでしょう。
「なので、友夏理さんの行方不明は彼女自身の選択で、そのうちまた現れるのでしょう。」




