最初の事件
いつも通りの車の匂いと、ラジオの音楽。
すべての音が消えたら、目的地についてということ。
ドアを開ける音がした。
「やな。」
「うん。」
手を伸ばし、綿に手伝ってもらいながら、やなは車から降りた。
「行方不明となった、随川友夏理さんの住まい?」
「うん。一軒家で、花を育てている様子。」
足音。
余裕を持ちたいのに、心の焦りがそれをさせなかった。
「宮野さん。」
「...!はい。」
「わざわざここで待ち合わせをするというのは、何か特別な考えがあるということでしょうか?」
「そうですね。本人...随川家の前で議論したほうが効率がいいと思いまして。」
まもるは、随川家を見たあと、綿のほうを見る。
「朝田さん、私と信和はあえて隠し事をしたいわけではなく、彼女の名誉を守るために、自分からはどうしても言えませんでした。」
「今は?」
「随川さんの両親の了承をいただきました。とりあえず、中へどうぞ。」
綿とやな、そして義孝をつれて、まもるは随川家のロビーに入った。
そこには随川の両親と黑澤信和、そして、安倍光がいた。
「...随川家にリサイクルの趣味がありますね?」
「朝田さん、私は問題を作るのではなく、解決するために来ました。あなたもそうでしょう?」
「あの時のやなだって、問題を解決しているじゃねぇか!」
「...」
「義孝を助けたい気持ちはわかるけど、やなに手を出すなら、僕だって容赦はしない。」
多少事件について聞いたことがあるが、随川の両親は目の前に始めたこの戦争について困惑でしかない。
それも、やなにある違和感に気付いた次第、綿の気持ちを少しわかるようになった。
「宮野さん、隠し事の説明をお願いできますか?」
「え?あのう...やなさん、あの二人をどうにかしたほうがよいのでしょうか?」
「お言葉ですが、例え私が今すぐに見えるようになったとしても、あの二人は仲直りたりしないので、諦めたほうが現実的です。。」
「ですが...?」
「私は問題を解決するために来ました。それとも宮野さんも...私を信じれないのでしょうか?」
も...。
光は拳を握りしめる。
「そんなことは!では、説明します。」
「私は時々友夏理さんとおしゃべりをして、彼女からも、その手記の内容と同じ、大好きな兄のことやどうでもいい妹さんのことを聞かせたことがあります。
「最初は、ただの雑談のつもりでしたが、とある日、ひとつ噂を聞きました。
「友夏理さんが一人っ子だってこと。
「嘘つくまで愛されたいのでは、と思い、特に気にしませんでした。
「しかし、友夏理さんが失踪し、この手記が見つかれたとき、私は再びこの話を思い出し、失踪に関連しているのではと思いました。
「警察の方たちは、同僚の皆さんにも尋問してみたが、先週の火曜日に...すなわち友夏理の最後の出勤の日に、彼女がこう言ったのを聞いた人が何人もいました。
「お兄さまが迎えに来てくれました。今日が最後なんだ!と。
「それ以来、彼女は会社に来なくなりました。」
「...随川さんたちは、この件について何か知りませんか?」
「まったくです。」
綿の質問に対し、随川の父が率先に答えた。
「あの子が、兄がいることを自称していることすら知らなかったんです。」
随川の母も補足した。
「知らない?ということは...家ではそんなこと言わないんですね?」
「はい。言ってもすぐバレますし。」
「...では、不思議な話をしたことは?」
「不思議...そういえば、よく私たちに言う言葉があります。」
「どんな?」
「君たちの決断が間違っていることを、いつか必ず証明してあげる!と。」
決断...間違っている...。
二つの単語が、やなの頭の中に繰り返す。
「それについても何も知りませんか?」
「はい。」
「では...随川さんいつもの通勤手段は?」
「電車です。」
少し考え込んだあと、綿はやなの手を握る。
指先で、やなに今の考えを伝えようとした。
"殺人事件に関連していると思う。"
"それね。もうひとりは?"
"そっちはまだ安全だろう。"
"だったらまず、兄の身分を確認することと、妹を見つけることだね。"
綿は微笑んだ。
やなの一生の道標になると決めたんだ。
見えるでも、見えなくても、彼女と一緒にこうして最後まで歩きたい。
そしてこれが、やなが正式に探偵業に帰った最初の事件。




