許すと恨む
「あの...」
「どうしたの?やな。」
「今事務所の中で走り回っているのは、義孝?それともひらら?」
一応、二足だとわかっているが、やなは思わず冗談半分で聞いてみた。
「やなーひどいよー」
「そうだよ。義孝とひららを比べるなんて、ひららに失礼だぞ。」
「朝田!君たちお似合いだね!」
義孝は慌てて床に掃除機をかけながら、あのこっそり笑ってる夫婦を睨める。
「はいはい、冗談は終わり。それで義孝、今日は一体どうしたの?」
「昨日知り合いの連絡が来て、今日来るだそうだ。」
「ただの知り合い...?」
「ああ...そうか。今は知り合いというよりは...」
「義姉さん、じゃない?」
見知りの声がやなの耳に入る。
「義姉さん...?」
義孝の妹の礼節なら、やなだって知っている。なにせ、礼節の娘である輝星がホタルのカフェでバイトしているから。
義孝からお兄さんがいると教えてもらったことはあるが、会ったことはない。
「あなたが...やなさん?」
「はい、朝田やなです。」
「義孝がいつもお世話になっております。それと光のことも...本当に申し訳ありません。」
「安倍さんとお知り合いで?」
「はい。義孝、光、明...私たちは同じ高校の同級生なんです。」
「あなたは一体...?」
「宮野まもると申します。黒澤義孝の兄、黑澤信和の妻であり、宮野企業の現理事長夫人でもあります。」
まもるのあとに、信和も事務所についた。
「君がやなさんですね...」
信和もまもるも、義孝からやなの話を聞いたらしく、やなに怪我させたのがその安倍光であることも。
「...お二人の姿は見えませんが、きっととても優しい方だと思います。安倍さんのように。」
推理しなくても、見えなくても、やなは二人の優しさを感じ取れた。
「私は彼女を許しませんが、恨みません。」
強く握られた左腕を、やなは優しく握りしめてあげた。
「それより、お二人がここまで来てくれたということは、何か理由がありますよね?」
「昨日まもるさんが、朝田の力を貸したいと。」
「はい。解けていただきたい謎があります。」
と宣言したまもるが渡したのが、随川友夏理の手記。
「...一番美しい存在なんだから。手記はここ終わりですか?」
「かもしれません。」
綿は手記を閉ざして、ガラスの机に置いた。
「...信和さんと宮野さんにとって大事な手記ということですか?」
「大事です。その職員随川友夏理さんが先週の水曜日から出勤せず、すでに失踪届を出しました。」
「ほう...?つまり、その随川さんの行方不明について、この手記が一番重要な手がかりだと?」
「はい。警察の方たちが調査中に見つけたものです。その中から何かがわかるかもしれないと。」
失踪した職員、その手記には職場への不満が書かれていた。
このまま彼女を見つけなかったら、宮野企業は「犯人」だと思われ、人々に責められるのだろう。
メディアというもの、人々というものが、こういうものだ。
「これは、宮野家の名誉にかかっています。朝田さん、どうかお手伝いしてください。」
「信和さん...義孝のお兄さんとのことで、僕もお手伝いしたいのだが...」
「だが?」
「この手記しか僕たちに教えるつもりがないのであれば、今でも結果を教えます。僕にはちゃんとした答えを出せない、あの随川さんはただ職場から逃げ出したかっただけのかもしれません。」
「どこまで知っていますか?」
「宮野さん、僕には何も知らないんです。ただ、この手記にはソロデビューの価値がないんですよ。」
義孝は、いつもと違う綿のほうを見る。
今日の彼はまるで、嫌がらせをしているようだ。
「...はっきり言わせてもらおうか。
「状況をわきまえてもらえる?
「この失踪事件で困るのは僕じゃない、あんたらだぞ。
「加えてあのクズの知り合い。
「僕はやなみたいに優しくない。許さないし恨む。
「義孝のためでなければ、あいつに同じことをした。
「これらを我慢してても協力しようとしてるのに、隠し事はあんまりだと思わない?」
綿は手記を信和とまもるに投げた。
「悪いが、この依頼は受け取らない。帰れ。」
信和とまもるが帰ってから、数分間経った。
「綿。」
「何も言うな。反省はしない。」
「...義孝、信和さんと宮野さんに電話を。」
「やなちゃん...」
「この子はただ子供っぽいなだけで、安倍さんを恨んでいないよ。」
「子供っていうな!年上だ!」
「性格的に言ってるの。義孝、綿はわざとだ。彼らから情報を聞き出せるために。」
その時、綿の勝利を示す電話が来た。




