3-4 永久の祝福
「ふーん、なるほど、天羽祐也さんですね。」
「遥さん、何かわかりましたか?」
「うん...わかったけど、教えませんね。」
「へぇ?」
遥はふと笑った。
「自分で推理しなさい。」
「というわけで、来た。」
天羽家のロビーに座り、ホタルは不安そうな祐也を見つめていた。
「君の推測は?」
「まず、祐也の指輪だとしたら、掃除中に落としたのだろうと思った。」
「うん、それはそう。」
「兄さんの指輪がなくなった件は、祐也と関係あるかもしれないし、ないかもしれない。あると思うけど。」
「...!どうして?」
「兄さんの指輪の存在を知らなかった祐也なら、落とし物があるって、言ってくれればいいでしょ?」
「...お兄さんの指輪を連れ去ったのが僕だったら?」
「悪意があるかないかはともかく、指輪を戻す瞬間に私に目撃されたら、誤解されるかもしれない。」
「...うん、その通り。お兄さんの指輪ならここに。」
祐也はポケットから、編み物のような指輪を出した。
「祐也。」
「うん?」
「うっかり間違ったの?」
「...そう。」
「やっぱり。」
ホタルはふと笑った。
「純金の指輪を盗むために、普通の指輪を置いておくなんて、する人ないと思った。」
「普通の指輪、じゃない。」
祐也の口調は急に真剣になった。
「その宝石、なんの宝石かはわかるか?」
「ルビー...?」
「そう。七月の誕生石。」
七月...。
ホタルはよく覚えている。
「今日の日付書いてるでしょ?今日中に仕上げて、七月一日まで待つつもりだった。」
「七月一日...?」
それは、兄さんと一緒に過ごせるはずの一日だった。
二人にとって、一番大事な日。
二人が、この世界に生まれ落ちた日。
「祐也...」
「その指輪は、君への贈り物だ。」
「私に...?どうして?」
「それは...その...」
「その?」
「告白したいから。」
ッパ。
一瞬、ホタルの頭は真っ白になった。
パソコンみたいに、再起動されてしまった。
そして、とある瞬間に止まる。
君が迷った時、僕が君の道しるべ
「...ずるいよ。」
「ホタル?」
「私自身がまだ気付いていないことを、なんで先に...!」
「ホタルがまだ気付いていないこと...?」
祐也は戸惑っていたが、ホタルは急に笑った。
「ねぇ、祐也、兄さんの話、知ってる?」
「...うん。」
「私と兄さん、そして影とのことも、だよね?」
「知っている。」
「兄さんは小さい頃から私と一緒に暮らし、ずっと、ずっと仲良かった。」
「うん。」
「そんなある日、前触れもなく、兄さんは殺された。」
「うん。」
「彼を殺したのは、私を好きになってくれた人だった。私はあの人を、ほかの誰かを、責めなかった。」
「うん。」
「兄さんは言ってた。私が迷った時、彼は私の道しるべになってくれると。」
「うん。」
「祐也と出会ったあの事件も、兄さんのおかげで、気づいた手がかりもあった。」
「うん。」
「この指輪は、兄さんが加工して、名瀬家のものとして継承されるもの。」
「...うん。」
純金の指輪を手に取り、ホタルはそれを、祐也に近いほうに置いた。
「...!ホタル...?」
「ずっと、迷っていた。
「祐也に優しくされていた、好きそうになった。でも、ずっと自分にダメだと言っていた。
「どうして?兄さんの想いに縛られた?祐也にはもったいない?
「でも兄さんは、彼が約束したように、私を導いてくれた、君の声を届かせた。」
蛍の微かな光となり、夜空を飾るホシボシとなったとしても。
今年の誕生日を、一緒に過ごせなくても。
彼は自分の指輪で、妹を、自分よりもっと彼女を守れる人に任せた。
「この指輪を、もらってくれないか?」
「これは、名瀬家の...?」
「そう。だから、私がこの手で君にその指輪をつけるまで、持っていて。」
ホタルは、ルビー載せていた指輪を取った。
「代わりに、これはもらう。」
「...!いいの?」
祐也を見て、ホタルは微笑んだ。
「その指輪。FWって書いているでしょ?」
「...うん。意味があるの?」
「fireflyとglowworm、被ったアルファベットを合わせたらFW。」
「蛍だね。」
「そして、もうひとつ。」
Forever wish.
天国より、永久の祝福。




