3-3 空に舞うホタル
「そんな昔のこと、覚えているわけないよ!」
「お嬢ちゃん、詐欺とかじゃないよね?」
「探偵ごっこはほかにあたれ。」
最後の扉を閉め、ホタルは思わずため息をした。
情報はなかった。
「見た顔だな」みたいなコメントすらなかった。
ただ、ルビーの値段についてはわかった。
ケイが指輪を作っていた期間、ルビーの値段は二、三倍ほど上がったらしい。
「兄さん、どうしてわざわざ高くなった宝石を?」
指輪を見つめ、ホタルは再びため息を。
「兄さんに、ルビーを選ばなければならない理由があったとしても...」
となると、ルビーを買うお金が大問題となる。
当時のケイはただの大学生。バイトはしたが、全部授業料に使ったはず。
つまり、当時のケイはルビーを買えるような能力も余力もなかった。どんなに小さなルビーでも。
「あとあのCielucioles。どういう意味だろう?っていうかどう読めばいいんだろう?」
存在しない単語こそが、ケイが伝えたかった言葉なのかもしれない。
だとしたら、それは一体なんだろう?
「Cie...lu...ci...o...les?なんか違う。後ろのこれはcio lesなの?ci ole sなの?それとも、ci o les?」
「|lu-ci-o-les」
穏やかな、男性の声が現れた。
ホタルは振り向き、その懐かしいような、見知りのような男子を見つめる。
「お姉さん...!」
男子の隣にいる男の子はホタルを見たら、明らかに嬉しそうになり、声もつい高くなった。
「サダくん?ってことは、遥さん?」
「お久しぶりです、ホタルさん。お一人?」
「はい。調べたいことがあって、このあたりに来ました。」
調べると聞いた途端、遥はすぐ真剣そうな顔をした。
「事件?」
「...!いいえ!自分のことです。」
「そうか。ところで、ホタルさんはフランス語を勉強していたのですか?」
「実は...」
ホタルは、事情を遥に説明したあと、その単語:Cieluciolesを話した。
「ふむ...全体なら、知らない単語ですね。」
「全体なら?」
「先ほど、ホタルさんに声かけたとき話した単語です。lucioles、蛍です。なので、自分のフランス語の名前をつけているのかなと思いました。」
「蛍...?では、cieは?」
「cie自体は意味を持たないが、後ろのlを借りれば、ciel、天空になれますね。」
「天空...?」
蛍だけならわかる。ホタルもケイも、蛍だから。
でも天空?名瀬、とは関係ないし、家族の人の名前にも関係なさそう。
「お姉さん。」
「うん?」
「それは本当にその...ケイ兄さんのもの?」
「指輪?もちろん。兄さんの引き出しから見つけたもの。」
「でも外見変わったよね?それにお姉さんも、ケイ兄さんならそんな宝石買えないはずだって。」
「でも...兄さんじゃないなら、これは誰の指輪なの?その場合、兄さんの指輪は?」
指輪が入れ替われた、と言っても、動機が見当たらない。
ケイ死後数年、急に指輪を盗むに来るような人はいないはず。
「ふむ...ホタルさん、少しお借りしても。」
遥は指輪をもらい、一番近いお店に入り、何かを聞いた様子。
そして、笑顔で戻った。
「サダの言った通りだね。」
「え...?」
「ホタルさん、お兄さんの指輪は、純金の指輪で間違いありませんか?」
「はい。」
「でもこれは、純金のものではありません。」
「え?つまりこの指輪、兄さんのものじゃない?」
「でしょうね。」
「だとしたら...誰のもの?」
「ホタルさん、お店の人にはいつも、数年前の話しか聞いていませんね?最近の話を聞いてみたらどうです?」
「最近って言える証拠はありませんが。」
「いいえ、こちらにあります。」
遥は、指輪に刻まれた日付に指差す。
「今日の日付です。これを作った方、もしかすると、本当は今日中に仕上げたいため、今日の日付を書いたのではないしょうか。」
「...そうですか?」
「ともあれ、考えるように行動しましょうか?」
改めてお店に聞いてみたら、意外な収穫があった。
ほぼ全部のお店に訪ね、最後にはルビーと金塊を購入した男子が一人いた。
先月の話で、その奇妙な行動によって、みんなの話題の中となった。
それもまた、ホタルがよく知っている名前だった。
「天羽...祐也?」




