2-8 大事な人
目の前にいる容疑者を見つめる徹は、意外と冷静だった。
「尋問を始めたいが、問題ないな?」
「当然。」
移送する前に、白柳は綿に逃がそうとしたが、綿はその提案を笑って断った。
「僕を尋問する人があいつだったら、きっと問題ないだろう。そして、僕を尋問する人は、あいつしかない。」
義孝みたいに、綿と長い間一緒に行動していた彼なら、きっと理解してくれると。
綿は迷わずに信じていた。
そして、適当に椅子に座って、海藻を研究しているこの実験所を観察していた。
「まずは、今回の事件について、知っている情報を教えてくれ。」
「わかった。木曜に、僕宛に一通の手紙が届いた。白柳からだ。実験成果によると、抽出したひとつ成分が、家内の目を治せると。そして、できれば早く室蘭に来てくれ、と。そんで、僕は家内と一緒に、今日に列車を乗ってここに来ようとした。」
徹と桜内は同時にうなずいた。白柳恵弦から同じ情報をもらったから。
そして綿はそんな二人を見て、微笑んだ。
波彩が呼んだ警察はすぐに現場に到着した。
そしたら、自分の研究室の座っていて、警察に提供する資料をまとめていた最初の目撃者白柳恵弦を見つけた。
一方、二人目の目撃者黒駒紗穂は、灰野波彩と一緒に一階で警察を待っていた。
担当する警部は、この事件が普通じゃないと判断し、上司に連絡を取ったあと、まず白柳恵弦の尋問を行った。
その時の記録も、徹のところに届いた。
「白柳恵弦ですか?」
「はい。」
「この写真を見てください。誰なのか知っていますか?」
「私の生徒、白土由起夫です。」
「よし。では次に、今日昼頃に起きたことを話してもらえないか?」
「私は来客を迎えるため、少し準備をして、十二時頃に実験所に来ました。二階に上がったとき、なぜか黒須さんの接待室に違和感を感じたので、ノックしてみましたが、返事はなかった。」
「実験所に入ってからすぐ二階に行きましたか?」
「はい。実験成果を出したので、少し興奮したのかもしれません。」
「なるほど、続けて。」
「黒須さんと仲がよかったので、勝手にドアを開けてみたら、亡くなった黒須さんを見つけました。」
「どうしてすぐに警察を呼ばなかった...?」
「それは、振り向いたとき、黒須さんの生徒黒駒さんを見かけましたから。あまり気付かせたくなかったが、隠し切れませんでした。彼女はかなりショックを受けたんでしょう。私のことを人殺しだと連呼して、警察を呼びに一階に行きました。それを見たので、事件が早く解決されるように、資料をまとめると考えました。」
「最近の黒須教授には、何か異変、あるいは敵はありませんか?」
「異変...特にないと思いますが、ずっと黒須さんと一緒に実験をやっている黒駒さんの方が詳しいかと。」
「...わかりました。ところで、さっき言っていた来客はどういうことですか?」
白柳は、綿を招いた話を警察に伝えた。
「よし、では今日はここまで。新しい手がかりを思い出したら、いつでも連絡してください。」
尋問している警察がうなずいたら、もう一人の警察が波彩と紗穂を連れてきた。
そして彼女たちが部屋に入ったと同時に、白柳は言った。
「真犯人を知っていたら、連絡してもいいんでしょうか?」
「...!どういうこと?犯人を知っていますか?」
「まぁね。」
「でしたら今すぐに言ってくれ。事件を早く解決させたいだろう。」
「...」
白柳はうつむいて、何かを考えている様子。
「彼女たちを呼んだのは、私の身分を確認するためですか?」
「話を逸らすんな!」
警察に睨まれていたにもかかわらず、白柳は少しも怖い表情を見せなかった。
「確認するなら早くしてください。私は休みたいので、話は後で。」
「...!」
協力するつもりはない白柳に、警部が手を出そうとしたところ、一人の警察が入ってきた。
「報告します。この事件の担当はは、佐藤徹さんに移りました。」
「な...!あの佐藤先輩なのか...」
担当が変わった以上、ここで真犯人を聞き出したとしても、功績は徹のものとなる。
つまり、彼が努力する必要もない。
「...もういい。君たち、この男が白柳恵弦でいいんだな?」
「は...はい。」
「間違いありません。」
綿は、やなを見つけなかったことを詳しく説明した。
もちろん、警察を偽装した白柳のことも、あの死者がやなじゃないことも話しなかった。
「自分の妻が亡くなったというのに、どうしてあんなに平然でいられるんですか!?」
桜内は信じれなかった。
探偵をやっている人なら、誰もこんなに冷血無情になるのか。
「桜内、もういい。彼にとって、彼の妻がどれほど大切なのか、俺は知っている。」
この状況から、徹は二つの推測を考えた。
ひとつ、あの死者がやなじゃないから、綿も余裕でいられた。
ひとつ、あの死者がやなだったが、やなの性格を考えて、綿が自分一人でも強く生きようと決めた。
徹は当然、前者で欲しかった。




