2-2 突然のアクシデント
席に戻った綿は、再び携帯を確認する。
折り返しの電話も、メッセージも、新しい情報もなにもない。
午後2時50分に来たやなのメッセージ、「席についた」だけ。
「乗務員も見たって言ったし、服装も合ってるから、それがやなで間違っていないと思うけど。」
なのに、彼女は?
考え込んだ綿に、電話が来た。
「くそ野郎、ヤバいことになったぞ。」
「こっちこそやばいんだよ。」
「...何かあった?」
綿と何年も一緒に行動している徹だ。綿の違和感にすぐ気付いた。
「今日はやなと、電車で合流すると約束したけど、見当たらないんだ。今の彼女じゃ、勝手にどっかに行くはずもない。」
「電車!?電車に乗っているの?」
「そうだけど。」
「...こっちに厄介な殺人事件があるから、手伝ってもらおうと思ったんだけど、やなさんが行方不明じゃ、お前も本気出せないか...?」
今の綿にとって、やなを見つけることが一番優先なことに違いない。
しかしやなは?この決断に賛成してくれるのか?
「今は四時半。五時まで見つからなかったら、途中に降りてそっちに行く。」
「わかった。今回の事件現場は遠いぞ。難事件だからこっちに任されたけど。」
「どこ?」
「北海道室蘭の臨海実験所。知ってるか?」
綿は、その言葉にうまく反応できなかった。
「...死者は?」
「黒須研究室の、黒須教授。」
白柳恵弦ではない。
綿は安心した。
「容疑者一名を確保できた。」
「誰?」
しかし世界は、彼を見逃すつもりはなかった。
「同じく臨海実験所にいる、白柳恵弦。」
「...僕の代わりに義孝に連絡してくれ。臨海実験所に向かうようにと。」
「お前は?」
「僕は...」
綿は躊躇った。自分の目的地を言うべきだろうか。
徹に、自分は白柳のために北海道まで行くつもりだったと言ったら、容疑者扱いされるだろうか。
自分だけならともかく、しかしやなが...
「さっき言った通り、五時までやなを探す。それから別の列車に乗って、北海道でお前らと合流する。」
「了解。」
徹は深くため息をつく。
目の前にある、殺人事件に関する資料の書類。
その中には、彼の知人の名前が載っていた。
「どうして本当のことを言わない...」
呟きながら、徹は冷めたコーヒーを飲み干した。
そして彼の部下が部屋に入った。
「車、用意できました。」
「よし、出発するか。」
「先ほど、二人の容疑者の家に電話しましたが、出ませんでした。」
「...大丈夫、さっき連絡取れた。」
「え...?」
「他に頼みたいことがある。」
徹は書類をカバンに入れる。
「皇赤蝶、名瀨螢、黒澤義孝。彼らは容疑者の親友で、今回の事件にも関与しているかもしれない。彼らから情報を聞き出そう。」
「はい。」
仕事の分配を終えた徹は、車に乗った。
容疑者と合流する予定の北海道室蘭へ。
一方、徹との電話のあと、綿は無力なまま席に座っていた。
「...」
微睡みのなか、綿は急なアナウンスで目覚めた。
「本列車は緊急事故により、次の駅で暫く止まります。次の駅で降りるお客様も、調査が終えるまで席から移動しないように、ご協力をお願いいたします。繰り返します...」
このような異様なアナウンスに戸惑っていた乗客たちだが、誰も過激な反応をしなかった。
しかし綿にとって、このアナウンスはそう簡単じゃない。
「調査って言った。警察が処理するほどの事件か。
「それと緊急事故。ということは...!」
そう思いたくはないが、その「緊急事故」にやなが巻き込まれた可能性が高すぎる。
彼が行動すると決めた瞬間に、かつてやなの着席を手伝った乗務員がまっすぐに、彼の席に来た。
「すみませんが、こちらへ。」
「え...はい。」
綿は乗務員の後ろについて、別の車両に入ったが、扉が閉まったと同時に、手錠をかけられた。
「これはどういうこと?」
「すみません。あなたには、事件に関与する可能性がありますので、脱走することを防ぐために、こうして処理しなければなりません。」
「事件?何の?さっき言ってた緊急事故?」
「...」
乗務員は綿の質問に答えず、ただ彼を連れて、最後尾の車両についた。
そこには一人の女性がいた。
彼女が列車の揺れに影響されず、ただ静かに席の上に、横になっていた。
その顔の上は、白い布が乗せられた。
「...!」
綿は信じ切れずに跪き、泣き喚いた。
血に染められた白い服とジンーズ、そしてコート。
胸元にあるのは、他でもない、綿がやなにあげた二つのお守りだった。




