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20/20

#20

 衝撃の事実が発覚した。


 雲雀さんの好きな人が俺だった――、


「あ、そういえば。悠也くん。たしか、私の恋路をサポートしてくれるって、そう言ってくださってましたよね?」


「えっ? ああ、うん。たしかに言ったな」


 たしかに、言っちゃってるな、俺。

 ところで、その恋慕の対象が俺だったわけなんだけれども。これってどうするのが正しいの?


「というわけで、不束者ですが、これからよろしくお願いしますね!」


「話の展開が急すぎない!?」


 こちとらやっと話の全貌が見えてきたかどうかというところなのに、いきなりまとめに入らないでほしい。


「そもそも、たしかあのときって、俺、ヒイちゃん――雲雀さんに迷惑しかかけてないと思うんだけど」


 俺が名前を言い直したことに、雲雀がヒイちゃんでいいですよ、と言ってくれる。

 いや、もうなんかややこしいからここは雲雀さんと呼ばせてもらうと言うと、なぜか少しだけむくれていた。


「たしかに私はあのあとお父様に怒られましたが、しかし、私にとってもあれが初めてのお父様への反抗でした」


 今までずっと言うことを聞くことが正しいと思っていた雲雀さんにとって、それ以外、という選択肢を与えられた初めての機会。

 それが、俺との探検だった、と。


「あれ以来、私は自分の意見を発露する、ということを身に着けました。最初でこそ、随分と叱られましたが。良くも悪くも実力至上主義な両親でしたので、結果を示せば、赦してくれました」


 そうして、今の私が在るんです。彼女は自慢げにそう言う。


「私は、あのあと悠也くんに謝れなかったことを謝罪して。あなたのせいじゃないし、あなたのおかげで前を向くことができたのだと、そう伝えようとしましした。お互い社長の子供なのだから、いつかの社交界の場で合うことができるだろう、と」


 しかし、それは叶わなかった。件の社交界の直後、俺の父が社長の座から失脚したから。


「だから、私はあなたのことを追いかけることにしました。中学の頃はまだ両親を説得することはできませんでしたが、高校生になって、実力を証明して、こうして同じ高校に辿り着くことができました。やっと、恩返しができる、と」


 まあ、まさかここまで困窮しているとは思っても見ませんでしたが、と。雲雀さんは少し困ったようにそう言った。

 雲雀さんからしてみても、俺のことを調べるまではまさかあんな極貧生活をしているだなんて思ってもいなかったのだろう。


「それからは、どうにかして悠也くんを助けようとはしてみたのですが、どうにも、あのふたりがいる状態ではこちらから手出しできず、こうして、遅くなってしまいました」


 申し訳ありません、と。雲雀さんはそう言う。いや、そもそも謝られるようなことではないんだけども。

 それな、直接支援しようにも、浪費の多いふたりがいる状態では焼け石に水。むしろ、変にエスカレートするガソリンにさえなりかねない。


「そういえば、あの二千万円。ちゃんと返さなきゃだね」


「なぜですか? 悠也くんにその必要はありませんよ。私が必要だと思っただけなので」


「雲雀さんが仮にそうだとしても、神宮寺家としてはそうじゃないでしょ? 俺ひとりのために家のお金を二千万円なんか、使っちゃだめだよ?」


 だから俺が返さないと。二千万円なんて、到底辿り着けるお金に思えないけど。まあ、頑張るしかないな。

 俺がそうひとりで躍起になっていると。雲雀さんは首を傾げたまましばらく考えて。そして、ポンとひとつ、手を打った。


「ああ、なるほど。悠也くんはそこで勘違いしてるのですね!」


「勘違い? なんの話だ?」


「悠也くん。あの二千万円は私のお金ですよ。あのとき言ってたじゃないですか」


 たしかに言っていたが。それは、神宮寺家のお金という意味で。

 いや待て。たしかに、私の、と言っている。

 無論、お小遣いであるとか、そういう可能性を考えられないわけではないが。それにしてもお小遣いで二千万円は異常すぎる。

 で、あるならばまさか――、


「私が。……正確には、私の経営する企業での私の取り分で、という意味合いですが。紛うことなき、私の稼いだお金です!」


「はい!?」


 規模感が異常すぎてもはや話が入ってこない。


「言ったじゃありませんか。私の家は実力至上主義。だから、実力を認めさせた、と」


 それは、あくまで高校を自由に選ぶだけの実力、という意味ではない。

 独り立ちできる――つまりは、自身での稼ぎが十二分、いや、それ以上にある。という意味合いで、実力を認めさせた。


「悠也くんのおかげなんですよ? あなたの言葉のおかげで。そして、あなたのために、私はここまで来れたんです」


 そう言って、雲雀さんは満面の笑みで続けた。


「受け取ってくれますよね、この気持ち!」


「……ああ、もちろん」


 こんなもの、受け取らないという択などないだろう。

 いや、これほどまでに想ってくれているから、とか。彼女の恋の手助けをするから、とか。そういう義務感からではない。


 ただ、これまで自分に向けられるべきものじゃない、と。そう思い込もうとしてきた、彼女からの言動や。他に好きな人がいるからと抑えこもうとしていた自分の感情。

 それらが、全て、許されていいんだ。自分のものなのだ、と。そう思えたときに。


 やっぱり、彼女のこの笑顔が。

 ヒイちゃんの頃から、雲雀さんになった今に至るまで。


 好きなんだと、そう、確信できたから。






 さて、それからというもの。結構ドタバタとした大騒ぎになっていたりした。


 まず、大家さん――もとい春恵さんは、雲雀さんの侍女であるということが発覚した。

 まあ、これに関してはあの場で雲雀さんが呼びつけた瞬間にお金を持って現れたあたりで、なんとなく察していたりはした。

 思い返してみれば、俺たちに対してあまりに優しすぎるし。それに、この物件は、やっぱりあまりにも変だったから。家賃とか、家賃とか、家賃とか。


 なお、このアパートについても、なんならアパートですらないことが発覚した。体裁上俺からは家賃を取っているが、そもそもの書類上はただの一軒家扱いなのだという。あの入居募集の張り紙は、俺にだけ見せられていたものなのだとか。

 だから、入居者は俺と雲雀さん、そして大家さん……ではなく春恵さんの三人だけしかいない。人の気配がしないのは、そういう理由だったらしい。

 ちなみに、俺が全てを喪ったあの日の晩に超特急で建てられた新築らしい。わざわざボロアパートの見た目にしているのは、家賃を疑われないようにするため。……なんとも、手間をかけさせてしまったことがよくわかる。


 新築ボロアパートとは、これいかに。


 春恵さん曰く「ただお嬢様が助けてあげますと手を差し伸べられても断ったでしょう?」と。以前の俺なら間違いなくそうしただろう。仰るとおりですとしか言えない。


 ちなみに、俺の学費やアルバイトの給料……という体裁の生活費は、全て雲雀さんの稼ぎから出ていたのだとか。

 なんとか、本格的に雲雀さんに養われていたことを自覚して、申し訳なくなってくる。


「あの、やっぱ俺、別のところでなにかアルバイトを――」


「ダメー! 悠也くんは今まで頑張ってきたんだから! 楽にしてくれていいの! 私が稼ぐから!」


 それはそれでどうなんだ、と。そうは思ったが。しかし、雲雀さんに全力で止められてしまって、その話は無しになった。まあ、今の稼ぎ無しでは学業を行いながら他のアルバイトで生活費を稼ぎ出す、というのは難しいので、ありがたいといえばありがたいのだが。

 もはやネタバラシが終わってしまって、実質的には形骸化してしまったが、今までどおりのアルバイトという形を続けることになった。雲雀さんからはそれすらも必要ないと言われてしまったが、こればっかりは譲ってはいけない気がした。人として。


「あと、それから。……ごめんなさい。その、家事のことなんだけど」


 曰く、ひとり暮らしの条件として、家事が自力でできること、ということを条件付けられていたために。雲雀さんはひと通り家事ができるのだとか。

 つまり、今までやっていた教えるという行為、諸々できる人に教えていた、というわけで。なるほど、だからあんなにも上達が速かったわけか、と。納得する。


 ……俺からしてみれば、釈迦に説法とまでは言わないにしても、雲雀さんの家族が了承を出す程度には十分身についている相手に対して教えていたわけで。ちょっと頭を抱えそうになったりした。


「これに関してはお嬢様の私利私欲。広瀬さんと一緒になる機会がほしかったというだけなので、気にしないでいただいて大丈夫ですよ」


 春恵さんのその言葉に、少しだけ救われた。






 ちなみに、高校では交際が速攻でバレた。


 と、いうのも雲雀さんがなんの臆面もなく、普通に言ったから。


 ただ、これに関してはいちおう了承はしていた。雲雀さんの好きなタイミングで言っていい、と。伝えていたから。

 なんだかんだと雲雀さんも告白を受けることに辟易していたので、付き合っているということを公表して、それが少しでも減ればも思ってのことだった。


 が、まさか即座に言われるとは思わなかった。……いやまあ、いいんだけど。


 前の席の高橋からは「裏切り者ォ!」と肩を掴まれ、思いっきり揺さぶられたが。最終的にはなんだかんだと祝福してくれた。


 関わり合いについても、昔に迷子の雲雀さんと会っていたから、というような話すればそれとなく流せたので、なんとか質問攻めからは切り抜けられたかと思ったのだけれども。

 そんなさなかで雲雀さんが同棲しているとか言い始めたので、やっと静まりかけた火が、先程までとは比べ物にならない勢いで押し寄せてきた。


 アパートの隣の部屋なんだよ、と。なんとかそう説明して。……まあ、雲雀さんよればあのアパートは一軒家扱いなので、同棲という表現はあながち間違いではないし、別の部屋だとは言っても、一緒にご飯食べたりしてるし。


 とはいえ、わざわざこれ以上に油を注いでやる必要もないので、こちらから言うつもりもないが。

 ……ただし、雲雀さんにはこれ以上は告白避けとしても必要ないだろうから、言わないようにと釘を刺しておいた。


 いたずらっぽく笑いながら、ごめんなさい、と。そう言っていたので、絶対にわかっててやってたな。






 それからも、いろんなことがあったりした。


「食事も一緒に食べてますし、食後も一緒にお話してます」


「そうだなあ」


「私の部屋の合鍵を悠也くんに渡しました」


「そうだなあ。半分くらい押し付けられた形だった気はするけど」


「悠也くんに、合鍵も貰いました」


「そうだなあ。まあ、この家自体が雲雀さんの持ち物だから、返したのほうが正しいのかもしれないけど」


「いえ、間違いなく合鍵を頂きました。悠也くんに、合鍵を」


 なぜかそこに物凄いこだわりがあるらしい。

 まあ、春恵さんからも「あくまでプライベートなスペースではあるので、鍵をどうするかは自由に決めてください」と言われたので、まあ、たしかに家の所有者は雲雀さんでも部屋、もとい鍵の所有者は俺なのかもしれない。


「つまり、現在私と悠也くんの部屋は現在自由に行き来できるわけです」


「そうなるなら」


「なら、わざわざ外に出るのは億劫だとは思いませんか?」


 ……まあ、主張がわからないでもない。外に出て、鍵を締めて、もうひとりの家に行く。というのは、たとえ隣だとしても地味に手間だ。

 今まではあくまで良くも悪くもお隣さんであり友達、という間柄だったのでアレだが。今となっては恋人で、お互いに合鍵を持っている。


「これから夏になりますし、夏が終わっても秋を超えたら冬が来ます。わざわざエアコンが効いていない外を一度介するは非効率だとは思いませんか?」


「それはそうだな」


「なので、壁を破壊しようと思います!」


「……はい?」


 気づいた俺が引き止めようとしたものの、時既に遅し。そんな宣言をした雲雀さんによって、えいっ、と。壁がひと押しされ、無残にも崩れ落ちる壁。俺と雲雀さんの部屋がひと繋がりになってしまう。

 ボロいとは思ってたけど、まさかここまでとは。……って、


「待って、新築のはずだよね? ここ」


 それに、仕組まれたかのようにめちゃくちゃキレイに壊れてる。絶対人為的だこれ。


「はい! ただ、ここの壁は壁とは名ばかりのただの仕切りなので、決まったところをこうやって押すと、簡単に壊れるようになってるんです!」


「なんて仕掛けが施されてるんだよ」


 そういえば、まだここがアパートだと思ってた頃にも、なんかそんな話をした覚えがあるな、と。そんなことを思い出した。


 アレ、冗談じゃなかったのか。


「これで、同じ部屋で眠れますね?」


「……待って、そうじゃん!? それはさすがにまずいって!」


 ただし、このあと春恵さんによってさすがにダメという判断が下され、俺たちの部屋の間にはちゃんとした壁と、それから行き来するためのドアが設置された。


「せっかく面白い仕掛けだと思ったのに……」


 しょぼんと落ち込んでいる雲雀さん。


 ……ただ、扉で繋がって便利になった反面。実質的な同棲になってしまったんだよなあ、と。そんなことを考えて、俺もちょっとぴり頭を抱えていた。






「悠也くん、私がずーっと養ってあげますからね!」


「それは、ちょっといらないかな」


「そ、そんな!?」


 ガーン、と。明確にショックを受けた様子を見せる雲雀さん。そういう意図で伝えたわけではないんだかども。


「俺も、雲雀さんの隣に立って胸を張れるようになりたいからさ」


 正直、学校でも未だになんであいつが、というような視線があるし。その意見もそうだと思う。

 雲雀さんはそんなことない、と言ってくれるけど。でも、周囲の視線というものは良くも悪くも平均値だ。


 だから、自分の足で。しっかり立ちたい。

 雲雀さんの隣で、堂々と。


「まずは、自分の学費を返せるようになるところから、だね。情けないけど」


 ははっ、と。俺は小さく笑う。目標がひどく遠くて、途方ともないけど。

 頑張ることは、得意だから。


 だから、少しずつ。前へ。


 確実に、一歩ずつ。











 それ以外であったこととするなら。そうだな。

 俺の幼馴染が転校してきてひと悶着あったりしたけど。


 それはまた、別なお話。

 本作は以上で完結となります。

 最後になんかありますが、これに関しては完璧な蛇足なので、続きはたぶん書かないです。代わりに誰かが勝手に書いてくれても大丈夫です。

 本作のコンセプト、というか練習目標だった20話10万字構成という都合上、絶対に入れられないということで省かれてしまった悲しき幼馴染ヒロインの残渣です。

 入れないほうが話のまとまりとしては絶対にキレイなんですけど、途中にあった書き込みの強かったコンビニ店長よろしく、私が書きたかったから書いたものになります。


 さて、閑話休題。改めまして。ここまでのお付き合い、ありがとうございました。

 書きたくなっちゃった、よし、なら火曜日の連載枠空いてるしじゃあ書こう。という感じで突発的に始めてしまった連載でしたが、たくさんの評価やブックマーク、X(旧Twitter)などを含めての感想もあって。約3ヶ月半、こうして走り切ることができました。


 ちょこっと裏話的に書くなら、実は本作の主人公である悠也は語り手役の素養が強くて、どちらかというと主人公性が強いのは雲雀だったり、と。先程挙げていた20話10万字構成もそうですし、いろいろと自分の中でも実験や練習を兼ねた作品だったんですが。それでもたくさんの人に読んでいただけて、とても嬉しかったです。


 ここまで読んでくださった方々へ、最大級の感謝を。

 面白い作品を作り上げることで表現できていたら幸いです。


 改めまして、ここまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました!

 また、どこかでお会いできましたら、そのときもどうかよろしくお願いします。

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