黒幕を追う③
27日の朝。
小鳥遊は目を覚ました。そのとき、何故か目から涙が溢れていた。何故かわからないけど、つらいような悲しいような気持ちだった。
小鳥遊は涙を拭い、ベッドから出た。
小鳥遊達は身支度を整え、住所の場所へと向かった。その途中で羽川とも合流し、午前10時ごろには、その場所へと到着した。
そこには、普通の一軒家たっており、表札には海道と書かれている。夜凪が昨日見たと言っていた通りだ。
「羽川さん。警察として、インターホン鳴らしすのお願いしても良い?」
「わかった」
羽川はインターホンを鳴らした。
少しすると、いきなり玄関が開き、中から女性が出てきた。
その女性は見た目は若く、小鳥遊や夜凪と同じくらいの年齢に見える。服装はスーツで、頭にはシルクハットを被っている。シルバーブロンドの髪は、肩にのるくらいの長さをしており、水色の瞳をした容姿端麗な女性だった。
「警察です。少し、話をお聞きさせていただいのですが」
「どうされたんですか?」
「そうですね。先に、彼女の方から貴方に話があるみたいで」
羽川はそう言って、小鳥遊にバトンパスした。
「あのー、朝早くからすいません。私、小鳥遊琴星っていいます。よかったら、あなたのお名前をうかがっても良いですか?」
その問いかけに対し、女性は普通に答えた。
「私は、海道フルミです」
……この人が、海道フルミ。小鳥遊はドキドキする気持ちを落ち着かせた。そして、軽く息を吐いた。
「変なこと聞いちゃうかもしれないんですけど……」
小鳥遊は途中で少し息を吸って吐いた。
「私達って、どこかであったことありませんか?」
「……さぁ、私の記憶には無いですね」
「……私達、深怪究明団というグループで活動していたんです。私と、夜凪と、秋山の三人で……でも、本当は四人で、もしかしたら貴方が四人目なんじゃ無いかって、思うんです」
「……さぁ、私には何のことやら。それより、警察の方が来るということは、別件があるのでしょう?」
フルミは何も知らないとのことで、話題を戻されてしまった。本人が知らないと言うからには、どうしようもないのだろう。小鳥遊は、本題の行方不明事件について切り出した。
「あ、そうなんです。とある行方不明事件を追ってる最中、この家の住所が書かれた紙を見つけました。その行方不明事件で、さっき言った秋山も被害にあってて……だから、協力して欲しいんです」
フルミは少し考える素振りを見せた。
「……つまり、私が何か有益な情報を握っていると思っている、そういうことですか?」
「はい」
「そうなんですね……もしかして、私が犯人だとか思われたりしてます?」
「いえ、決めつけてるわけでは……」
小鳥遊ぎ少し困った様子を見せると、フルミは軽く笑った。そして、フルミは改めて尋ねた。
「......一応お聞きしますが、深怪究明団の秋山さんが被害を受けた思われる行方不明事件についてということですね?」
「そうです」
「わかりました、それについてお話したいことがあります。よければあがって行きませんか?」
フルミは玄関を開け、中に入るよう促した。
夜凪の方を見ると、夜凪は頷いた。まあ、入るしかないということだろう。
「じゃあ、お邪魔します」
小鳥遊達は家の中へと入った。
玄関に入ると、すぐのところに二階へと続く階段がある。階段の横に扉がついており、それは階段の裏側へと繋がっている。通常であれば、そこは収納スペースになっていると思われる場所である。
しかし、フルミがその扉を開けると、地下へと続く階段があった。電気をつけ、フルミはその階段をおりていく。
明らかに怪しいと思いながらも、小鳥遊達は何も言わずにフルミの跡をついて行った。
階段を降りた先には、何やらハイテクそうな扉がある。フルミが横のパネルにパスワードらしきものを打ち込むと、扉が開いた。
中は広い部屋で何もなく、さらに奥にも扉がある。どこかの研究施設かのような、近未来感を感じる部屋だ。
フルミが先に中に入った。
「さぁ、入って」
フルミにそう言われ、その部屋に入ると、後ろでガシャンという音が鳴った。振り返ると、扉が閉まっていた。恐らく鍵もかかっているのだろう。
「ここだったら、盗聴の心配もないからね」
フルミはそう言って、話を続けた。
「実はね、貴方達が追っている行方不明事件……私が犯人なの」
「貴方が……」
フルミの突然の自白に対して、小鳥遊は少し悲しそうな目をしてそう呟いた。逆に三人は、それ以上の反応を示さなかった。
「あれ、反応薄い? やっぱり、私が犯人だと思ってたわけか……」
フルミは少し考える素振りを見せた。そしてコツコツと軽く歩きながら、喋り出した。
「貴方達ならわかってくれると思うけど、世界を終わらせちゃうくらいヤバイ奴がいるの。それで、そいつの復活を阻止するための儀式に生け贄が何人か必要なの」
そう言うとフルミは、微笑んで誘ってきた。
「ねぇ、貴方達も協力してくれない?」
別に世界が危機に瀕するほどの化け物がいたとしても不思議ではないし、それを防ぐための儀式に生け贄が必要だったとしてもおかしくはない。本来ならば、小鳥遊小鳥遊はそれについて詳しく聞いたことだろう。
しかし、その誘いに対して夜凪が答えを返した。
「嘘というのは、事実を混ぜたものが多いらしいな」
「……どういうことかしら?」
小鳥遊がその会話に続いた。
「貴方はオンラインゲームを介して生贄を集めた。それは、合ってるよね」
「ええ」
「でも、その生贄は世界を守るための儀式なんかじゃない」
小鳥遊ぎそう言うと、フルミはこちらを見つめたまま尋ねた。
「……じゃあ、私が何のためにこんなことをしてると思うの?」
その問いかけに、小鳥遊は静かに答えた。
「それは、あなたの妹……海道ミルさんのため」
フルミは軽く目を見開いた。そして、口を開けて何かを言おうとした様子だったが、一度閉じた。そして、少し落ち着つように息を吐いてから聞き返した。
「……何故そう思うのか、聞かせてくれる?」
小鳥遊は静かに、自分の推理を述べはじめた。
「……まず、2022年の5月2日に起きた犯罪組織による強盗事件、そのときに海道ミルさんが亡くなられている。さらに、そのお姉さんの名前が海道フルミといいます。そして、貴方は魔術商人のところでルインの書いた蘇生の書と石を買っているはずです。恐らく、そこに生け贄が必要と書かれていたのでしょう。その上、その石に封印された化け物を使って犯罪組織に復讐を果たした。そう考えています」
小鳥遊はただ淡々と考えを述べた。全て話し終えた小鳥遊であったが、本当はまだ言いたいことがあった。しかし、あえて口をつぐみ、冷静でいるように努めた。論理的に話せるのはここまでだからだ。
「……なるほど。つまり、貴方達の私への認識は、妹を殺した奴らに復讐し、更に妹を蘇らせるために生贄を集めている哀れな奴だと言うわけね」
フルミが自虐気味にそう言った。
本当は引き続き冷静に話すべきだ。だって、もう一つの方はちゃんとした証拠がないのだから。でも、もうそうすることはできなかった。
小鳥遊は遮るように声をあげた。
「そうじゃないの!」
推理はそうだけど、もっと大事なことがある。
心の中で溢れんばかりに込み上がっていた気持ちをフルミにぶつけた。
「私、思い出せないの! でも、貴方は、フルミは、本当は大事な仲間だったはずなの!」
小鳥遊は先程の冷静さとは反対に、感情的に声に出していた。
調査を続け、深怪究明団の記憶の矛盾に気がつくたびに、気持ちがモヤモヤしていた。そして、何故かそれは小鳥遊の胸を締め付け続けていたのだった。
ただ必死に叫ぶ小鳥遊の目には涙が浮かんでいた。
客観性のかけらも無い小鳥遊の言葉であったが、それを聞いてフルミは思わず少し顔をしかめた。そして、すぐに横を向き帽子を下げて目元を隠した。
フルミにとって、何か思うことがあったのだろう。そんな思わず目を背けたフルミを見て、夜凪が声をかけた。
「お前も思うところがあるんだろう……だったら、話してくれないか」
少しの沈黙ののち、フルミは帽子をあげ、正面を向いた。すると、部屋の両サイドの壁にあった隠し収納が勝手に開き、六つの拳銃がそれぞれ空中を移動し、銃口が三人に向いた斜状態で止まった。止まったというのは、宙に浮いている状態であった。恐らく、物体を動かす魔法が、超能力といったところだろう。
六つの銃を三人に向けた状態で、フルミは口を開いた。
「そうよ……本当の理由は妹を生き返らせる為。そのためには、術者合わせて13人の生贄が必要なの。それで、生け贄はもうほとんど揃ってる。あと少しで、妹は生き返るの! ……だから……邪魔するなら、撃つ」
その言葉に対して、夜凪は軽く笑って答えた。
「標準もちゃんと定めてないのにか?」
「……!」
よく見れば、三人に向けられている銃口は僅かに命中しないように調整されていた。
フルミは、視線を下に落とした。そして、しばらくの沈黙の後、突如全ての銃が自由落下した。
「……最後……だもんね」
フルミはそう呟くと、何やら呪文のような物を唱えた。そして、フルミが手をかざすと、そこから光が放たれた。小鳥遊と夜凪は、光に包まれると同時に、頭に失われていた記憶が次々と蘇ってきた。それは、深怪究明団の仲間としてフルミと過ごしてきた記憶だあった。
そして、フルミも自らの記憶を思い返した。